SOMEDAY 〜 Chapter.19    	君と幸せになる為に 〜

「 男から女性を振るもんじゃない。 女性の方から振る様にしてやるんだ。 紳士たるもの、それが礼儀だぜ?ハリー!」 別れ際ロンに、そう言ってからかわれた。 だから自分は、潔くハーマイオニーに振られてやるさ…、と。 だけど、そう言って笑う彼の顔がどことなく寂しそうで、 まだハーマイオニーの事を愛してる事が、はっきりとわかった。 確かに価値観の違いで上手くいかなかった事は ハーマイオニーの話す内容からも理解していたが、 それでも人間の心はそんなに単純なものじゃない。 ロンもロンなりに苦しんで来たのだろう。 笑顔で僕とハーマイオニーを認めてくれたその裏には、 図り知れない彼の苦悩があるに違いない。 それをしっかりと肝に銘じて行かなくては…。 2年生になる年の夏 初めてここへ来た時と全く変わらない様子の隠れ穴。 大好きな場所が、苦い思い出の場所にならなくて済んだのは、 無二の親友、ロンのおかげだった。 ホグワーツに帰ると、早速ハーマイオニーが直した鏡を届けてくれた。 「完璧じゃないか、ハーマイオニー!」 「でも、元々かかっている魔法が複雑で、 きちんと直ってるかどうか…。 ジェームズに渡す前に、一度試した方がいいわ。」 「わかった。 じゃあ今晩、君と試してみるよ。 …それより…。」 渡された鏡はテーブルの上に置いて、 僕はそっとハーマイオニーを抱き寄せた。 「…ただいま、ハーマイオニー。」 「お帰りなさい…、ハリー…。」 そして優しくくちづけた。 「ロンとは…、どうだった?」 「 うん。 自分の気持ちは全て話してきたよ。 君にも、話しに帰ってこいって。 なにもかも受け入れる準備は出来てるって言ってた。」 「何もかも…?」 「 そう。何もかも。 気付いてないのは本当に僕たちだけだったみたいだ。」 「…違うわ。」 「え?何が?」 「 気付いてないのは、貴方だけだったって事。 私は少なくとも自分の気持ちぐらい解ってたもの…。」 ああ、そうか…。 僕が自分に嘘をつくことで、真実にまで蓋をしていたんだっけ。 「ごめん…。」 「 いいのよ…。 もう終わったことだもの。 今度は私の番ね? ロンと話しをしてくるわ。 貴方は充分時間をかけて、ジェームズと話しをして?」 「 そうするよ。 待たせるかもしれないけど、理解して貰えるまで諦めないから…。」 「傷付合わないように…。」 「ああ。」 それぞれが本当の道を歩ける様になる為に。 前にハーマイオニーと約束したように、 いつか…、二人で幸せになる為に。 僕たちは既にその一歩を踏み出している。 ………………… あの日からジェームズは、特に変わった様子もなく、 ごくごく普通に僕と接していた。 ただジニーやハーマイオニーの事を口にする事はなかったけれど。 それが彼の気持ちなんだろう。 普通にしているけれど、敢えてそれに触れないのは、 きっとジェームズ自身が触れたくないからだ。 だけどこのままでいいわけじゃない。 僕はジェームズに思い切って話を切り出した。 「ジェームズ?」 「なに、パパ・・・?」 「おまえに渡したい物があるんだけど・・・。」 「え?なあに?」 僕の部屋の僕のベッドで寝そべりながら、 本を読んでいたジェームズが顔を上げた。 そんな息子に僕は、先日ハーマイオニーが直してくれた鏡を手渡す。 「これ・・・。  これ、パパの宝物だった物だ。」 不思議そうにジェームズはその鏡を見つめた。 「これを僕に・・・?  でもこれ・・・、鏡だよ?  僕は男だから、鏡は使わないよ・・・?」 「ただの鏡じゃない。  二つあるだろう?  両面鏡といって、これを持っている者同士  離れた場所からでも話ができるんだ。」 「・・・・。」 「お前に片方・・・、渡したかったんだ。」 しばらくそれを見つめていたジェームズが、悲しそうな顔で僕を見つめた。 「・・・これを使わなければ・・・、  僕とパパは話ができなくなるって事・・・?」 そうだ・・・と言わなければ・・・。 そういう意味で渡したんだろう・・・。 「パパはやっぱりママと別れて、  ハーマイオニーと何処かへ行っちゃうって事・・?」 何処かへ・・・行く・・・? 「・・・そうなんだね?」 「何処にも行きはしないよ。  ただ・・・。」 「僕はママと一緒にいる。  僕にとってのママは一人きりだよ?  だから、パパがハーマイオニーと一緒になるなら、  僕はママのそばにいてあげたい・・・。」 「うん。そう言ってくれると思っていたよ・・・。」 「ずっとさ、いつかはこんな日が来るんじゃないかって  僕思ってたんだ。  パパがママを愛していないって気付いた時からずっと・・・。」 「愛してなかったわけじゃない。  でも、”愛する”の意味を間違えていた事は認めるよ。  パパが学生だった頃の校長で、ダンブルドアって校長だけど・・・。」 「うん、知ってるよ?」 「彼が言ってたんだ。  易き事と正しい事をしっかり見極めるように・・・って。  パパはママといるととっても楽だったし、幸せだった。  いやな事は何一つ考えずに済んだからね?  自分で楽な方を選んでいた。  ハーマイオニーは・・・、  いつも僕が苦境に立たされている時そばにいてくれた。  だから彼女とは決して、楽な環境で一緒にいる事はなかったんだ。  いつも二人でいる時は、お互い眉間に皺を寄せて言い合いをしていた。  でもそれは・・・、僕を一人にしないために、  僕が間違った選択をしないように・・・っていう彼女なりの思いやりだったんだ。  その思いやりのおかげで、パパは今、生きていられるんだと思う。  彼女がいなかったら、僕はずっと昔に、ヴォルデモートに殺されていたよ。」 「そんな繋がりがあったのに、どうしてパパは気がつかなかったの?」 どうしてだろう・・・? 「パパにもわかんないよ・・・。  ただ一つ言えるのは・・・、」 「ん?」 「彼女は・・・、僕の愛を求めてはいなかったって事。  それだけははっきりと言える。  彼女は自分を愛して欲しいと思うより前に、  僕が幸せになる事だけを望んでいてくれてたんだと思う。  自分の感情を僕に押し付けた事は一度もなかったんだ。」 そうだ・・・。 彼女はいつも優しい目で僕を見つめていてくれた。 僕が彼女以外の女の子に夢中になっても、 いつもそれを応援して、喜んでいてくれた。 今思えば何て残酷な事をしていたんだろうと思う。 気付かれないようにそっと見守ってくれていたんだ・・・。 「・・・そうか・・・。  敵わない人だね・・・、ハーマイオニーって・・・。」 「・・・だろ・・・?」 「でもさ、パパ?  悪いけど僕、これいらないよ・・・。」 「え・・・?いらないって・・・。」 「いらない。  こんな物が必要になるくらい、僕はパパと離れ離れになるのはいやだ。  僕はママと一緒にいるって決めたけど、  それはパパと会わなくなるって言う意味じゃないからね。  僕にとってママが一人であるように、  パパだって、ここにいるハリー・ポッターただ一人なんだから。」 「ジェームズ・・・。」 「大丈夫。  僕は男だからちゃんとやっていける。  これは・・・、もっと必要な時に、必要になる人に渡して・・・。」 必要な時に、必要な人に・・・か。 それが今僕にとっては息子に渡す時だと思っていたんだけど・・・。 僕が思うよりずっと、自分の息子は大人になっていた。 「ハーマイオニーだけじゃないよ。  パパはお前に対しても・・・、全く敵わないや・・・。  脱帽するよ、ジェームズ・・・。」 「・・・だろ・・・?」 そう言って、大人の顔をした息子は笑った。 季節はめぐり、いつしか雪の舞う季節となっていた。 あれからジニーからは何の連絡もなく、 連絡を取ろうにも、ロンドンの自宅にも隠れ穴にも帰っていないようだった。 ホグワーツでの生活も、普通にただ淡々と過ぎて行った。 マクゴナガルからは、来年も是非僕たち3人に教職を・・・と誘われたが、 僕とハーマイオニーはそれを辞退した。 決して嫌だったわけではない。 できればずっとここにいたかった。 だけど、ジェームズが在学中のこの学校で、 ハーマイオニーと二人でいる事はできないと判断したからだ。 ジェームズもそうしてくれた方がいいと言っていた。 それにジニーの気持ちの整理がついていないこの境遇では、 あからさまにくっついているわけにもいかず、 僕とハーマイオニーは気持ちは通じ合っているにせよ、 一定の距離をおいて接するように心がけていた。 とっくに一線を越えているのに・・・、今更だけど・・・ね? ハーマイオニーはロンとの話し合いもスムーズに終わり、 離婚届にもお互いサインを済ませ、既に他人となっていた。 「こうなってみて、やっぱり友達としてのロンの方が好きだわ・・・。」 そう言って笑う彼女は、会ったときに比べて数段明るくなった。 ここに来た頃、マルフォイの言っていた、 「お前たち、同じ顔をしている。」の意味がやっと分かったよう気がした。 もうすぐクリスマス・・・。 僕たちに祝福の鐘は鳴ってくれるだろうか・・・。 僕の犯した過ちを、果たしてイエス・キリストは許してくれるだろうか・・・。 そんなナーバスな気持ちになっている僕に、 いつものように優しい彼女の手が添えられていた。                 ← Chapter.18 へ           → Chapter.20 へ


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さていよいよ次回は最終回です。
私が望む、本来あるべきハリハーの姿を描いて終わらせたい。
志だけは、めちゃくちゃ高く持ってます。
空回りしそうだけど・・・、頑張りますv

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