SOMEDAY 〜 Chapter.18 思わぬ告白 〜
「ハリー!!」 「ロン・・・。」 「久しぶりだね?元気だったかい? 少し痩せた?」 「何時のこと言ってるんだよ。 最後に会ってから・・・、7,8年ぶりじゃないか・・・?」 もう一人の親友、そして義兄にあたるロンとの再会。 彼は満面の笑顔で僕を迎えてくれた。 だけど、その笑顔を正面から見る事ができない。 「なんか湿っぽい顔してるなあ・・・。」 「そ・・、そうか?」 「・・・うん。 まあ、いいや。話したい事が山ほどあるんだ、兄弟!」 相変わらずのロンの態度に、ジニーが手紙で書いてあったような 何かに気付いている様子は微塵も感じられなかった。 「あれ? おじさんとおばさんは?」 隠れ穴に来る時は、決まって二人が出迎えていてくれたのに、 今日はその姿がどこにも見当たらなかった。 「・・・うん。 ちょっと出掛けてもらっているんだ。」 「どうして?」 「いや・・・。特に意味は無いけどさ・・・。 君と久しぶりに会うだろ? 誰にも邪魔されたくなかったんだ。」 そうか・・・。 やっぱりロンは気付いている。 そう確信した。 昼時という事もあって、ロンは僕のために簡単な昼食を用意してくれていた。 ハーマイオニーの言う通り、ロンの作ったランチは完璧だった。 「君、本当にこんな事できるんだ・・・。」 「え? あ、ああ。ハーマイオニーから・・・、聞いてるの?」 「まあね。」 「どう?ハーマイオニーは元気?」 話しが核心に近づいている。 ここは僕から話した方がいいんだろうか? だけど、どうもロンの方から何か言いたげで、 僕はそれをまず聞いてみようと思った。 「ところで、僕に話したい事って・・・?」 「うん。 久しぶりに会って、こんな事を言うのはちょっと気が引けるんだけどさ。 相談したい事があったんだ。 もう、何年も前から君に会って、話したくて仕方なかった。」 「そう。 でも丁度いいや。僕も君に話したい事がある。」 お互い何となく、話題の方向性が見えていた。 それをどう切り出していいのか、ロンはかなり慎重になっている。 だけど、何年も前からって・・・、どういうことなんだろう? 僕とハーマイオニーが出会ったのは、まだ数ヶ月前の事だ。 僕は思い切ってロンからの話を促した。 「で?なんだい、相談って?」 ロンの方もなかなか言いにくそうにしていたが、 思い切って口を開いた。 「ハーマイオニーのことなんだけど・・・。」 「・・・うん。そう来ると思った。」 「え?」 「いや、彼女の事だろうな・・・って思ってたって事さ。」 「ジニーがママに宛てた手紙で、君もホグワーツにいる事は知っていた。 連絡も取り合っているわけじゃなかったから、 別に君が知らせる必要はないんだけどさ・・・。」 「うん。」 「でもさ、ハーマイオニーからもの手紙にもそんな事書かれてなかった。 随分冷たい奥さんだとおもわないか?」 「・・・・・・。」 僕はなんて応えて言いのかわからずに下を向いていた。 「あ、でも今そんな事はどうでもいいんだ。 別に彼女を責めるつもりはないから・・・。」 「・・・そんなこと?」 「うん。」 そしてロンは決心したように、僕をまっすぐ見つめて、 こう口にした。 「僕さ、ハーマイオニーと・・・、 離婚しようと思ってるんだ・・・。」 は? あまりにも意外な言葉に、僕は目を丸くしてロンを見つめた。 「どういう・・・ことだよ・・・。」 気持ちを落ち着かせるかのようにロンは、目の前にある バタービールをごくりと飲み込んだ。 「あのさ・・・。 ハリー、君はジニーと暮らしていて何か感じなかった?」 「感じるって・・・なにを?」 「なんて言うかさ・・・。 こんな事を言って、気を悪くしないでくれよ・・・? 君とハーマイオニーって、マグルの中で育ってるじゃないか・・・? だから、その・・・、生活習慣っていうか価値観がかなり違って 戸惑ってりしなかったか・・・ってことさ。」 「そりゃ感じるさ。君たちには当たり前の事が、僕にはそうじゃなかったり、」 「そうそう、そういうことなんだ。 学生時代は感じてなかったんだけどさ、 一緒に暮らしていると、僕にとっては当たり前のことなのに、 それをハーマイオニーは不満に感じてる事がたくさんあるんだよ。 なんでもマグル式にやろうとするんだ・・・。」 「仕方ないだろ? 彼女はそうやって育ってきたんだから・・・。」 「そう!そこだよ。 仕方ないんだ。別に責めてるわけでも嫌いなわけでもない。 でも・・・。」 僕はロンの言う事が凄くよくわかっていた。 同じ悩みを僕も抱えていたんだから・・・。 「初めの頃はさ、ホグワーツで7年も魔法に触れてきて、 どうして変わらないんだろう・・・って思ってたんだ。 だから随分彼女には可哀想な事を言ってきた。 でもさ、同じなんだよね。 彼女も僕にそう感じてたと思うんだ。 そう考えたら、これから先が不安になっちゃってさ。 だってそうだろ? 一生一緒にいるべき相手と、根本的なところで価値観が違うなんて。」 「でね? 彼女がホグワーツに行っただろ? そうしたら・・・、すっごく毎日が楽なんだ。 ・・・あ、誤解しないで。 彼女が悪いわけじゃなくて・・・。」 「もういいよ、ロン。」 「・・・いいって?」 「充分分かったから。」 「そうかい?」 「ああ。」 よかった、わかってくれて・・・。 と、ロンはやっと昔のような笑顔を見せた。 「じゃ、今度は僕の番だ。 OK?」 「うん。なんだい?」 僕はおもむろに立ち上がり、そしてロンの前に土下座をした。 「・・・ハ、ハリー!? 何してるんだよ!?」 「ごめん、ロン。」 「ちょっとやめてくれよ。わけわかんないよ・・・。」 彼も立ち上がって、テーブルを回り僕に駆け寄ってくる。 そして腕を引っ張って立ち上がらせようとしてくれた。 でも僕はその腕を振り払い、更に言葉を続けた。 「いや。こうしなきゃ僕の気がすまない。 今までずっと君に嘘をついていた。 気がつかない振りをして、ずっとごまかし続けていたんだから・・・。」 「どういうこと?」 「僕も・・・、 僕もジニーと別れようと思っている。」 「・・・・。」 「君の妹に哀しい思いをさせている。」 「・・・もしかして僕と同じ理由で・・・?」 「ああ。」 「だったら立ってくれよ。 君が言ったんだろ?仕方のない事だって・・・。」 「でも、それだけじゃないんだ・・・。」 この言葉を言ったら、今この場で思い切り殴られるかもしれない。 もしかしたら永遠にロンを失う事になるかもしれない。 でももう、ここまで来てしまった。 後戻りは出来ない。 言うしかないんだ・・・・。 「僕は・・・、ずっと前から・・・、 ハーマイオニーを愛していた・・・・。」 しばしの静寂。 長い長い静寂の後、ロンが口を開いた。 「・・・知ってた・・・よ・・・?」 「え?」 「知ってたよ、ハリー。」 「どうして・・・?」 「そんなの、わからなかったのは本人だけさ。 そして、僕の勘が正しければ、 彼女もずっと君を見ていたと思う・・・。」 「でも・・・。」 「誰だって気付くよ、ハリー。 ね、立ってくれないか・・・?」 力なくうな垂れる僕を、又もとの椅子に座らせながら ロンはゴブレットにバタービールを注ぎ足した。 「飲めよ。」 「うん・・・。」 「今だから・・・、彼女と別れようって決心したから言えるんだけどさ、 それが当たり前だったんだよ。 君はずっと彼女を見ようとしなかっただろ? でも、彼女の目はまっすぐに君だけを見ていたよ。」 「だけど・・・、 学生時代の頃から君たち付き合ってたじゃないか・・・?」 「そりゃそうさ。 僕は単純に彼女の事を愛してたからね。 彼女はあきらめてたんだ。 この先ずっと・・・、永遠に、ハリーは自分の事は見てくれないって。 いつもいつも助けてくれるのはハーマイオニーだったのに、 君は他の女の子に夢中でさ。 見てて腹が立ったよ。」 「気付くわけないだろう・・・? あんなに近くにいたんだ。」 「一番近く・・・だよ?ハリー。」 「・・・。」 「昔も今も・・・。そしてこれからだって・・・。」 「・・・いいのか?」 「いいも悪いも、僕は彼女とは上手く行かない。 でも、彼女が幸せになってくれればそれでいい。」 なんて事だ・・・。 ロンまでもがみんなと同じことを言うなんて・・・。 でも本当にいいのか? 「彼女も多分僕に話しをしようと思ってるはずなんだ。 君と暫くの間一緒にいて、気付かないわけないからな。 だから近いうちここに来いって言ってくれないか? 僕は前向きな気持ちで、ここで待ってるからって・・・。」 「でも・・・。」 「ハリー。 もう、やめよう。 充分だよ。 ただ君には息子がいる。 簡単に別れて、それで終わりというわけには行かないだろうけど・・・。」 「今はジェームズの事、一番に考えようと思っている。」 「そうだね? ・・・あ、そうだ。 ジニーとジェームズとここで暮らせばいいよ。 ママなんか喜ぶと思うよ?」 「でも、君とジニーは・・・、その・・・、 仲が悪いだろう・・・。そんなわけにはいかないよ・・・。」 ハァ・・・と思い切り大きなため息をつかれた。 「君は本当に鈍感だよね? 自分自身のことになると、からきし駄目じゃないか・・・。」 「なにが?」 「どうして僕とジニーの仲が悪かったのか、わかんないの?」 「知るかよ、そんな。 僕には兄妹がいないから、君たちがどうして仲が悪いのかなんて 想像もできないだろ・・・?」 こりゃ、ハーマイオニーも苦労するぞ・・・とロンは言った。 僕以上に鈍感じゃないか・・・と呆れ顔だ。 「ジニーはね? 君の事を好きなハーマイオニーが、僕と結婚した事で、 自分から僕とハーマイオニーを遠ざけていたんだよ。」 どういうことだ・・・? 原因は結局、 ・・・・僕とハーマイオニーってこと? 「ジニーだって馬鹿じゃないよ。 僕と同じで、ずっと前から君たちの気持ちに気付いていたはずだ。 どう考えたって勝ち目はないだろ? ジニーとハーマイオニーじゃ・・・。 わかってたんだよ。 だから連絡をとろうとしなかった。 君を取られるのが怖かったんだろうね?」 そんな・・・。 そうだったのか・・・。 僕はてっきり、ロンと波長が合わなくて仲が悪いと思い込んでいた。 喧嘩ばかりしていたけれど、でもそれは結局僕の取り越し苦労だったって事か・・・。 「僕とジニーは決して仲が悪いわけじゃないよ。 まあ、君にもハーマイオニーにも、兄妹って分からないかもしれないけどね・・・?」 自分の心をごまかす事で、普段見えることでさえ見えなくなっていた。 何もかもがきっとそうだったんだろう。 嘘をつく事で失ってきた物がどれだけあったのか・・・? あきれて自分は、大声で笑い出したくなっていた。 「自分に嘘をつかないで周りを見ろよ。 きっと見えなかったものが見えてくるはずだぜ?」 そう言って笑う無二の親友に、僕は思い切り抱きついた。 「ごめん・・・、ごめん、ロン・・・。」 「ちょ、ちょっと、離せよ。 僕にそんな趣味はないよ。」 「いやだ。 大好きだよ、ロン・・。」 張り詰めていた気持ちがスーッと楽になっていくのがわかる。 別にロンに認めてもらえたとか、許してもらえたという理由で 抱きついたわけじゃない。 僕が、僕自身でさえ気付かない気持ちを気付かせてくれたのは、 やっぱり親友であるロンだった。 それが嬉しくて、ありがたくて・・・、 僕は心から感謝した。 「殴られて、絶交されてもいいと思ってたんだ。」 「ああ。 ちょっと前ならそうしてたかもな?」 「ジニーの事も・・・、」 「あいつは強いよ? 知ってるだろ? 自分と合わないと思えば、すぐに別れたりくっついたり・・・。 僕には到底真似出来ないけど、 ・・・大丈夫さ。心配要らない。」 「まだ時間は掛かるかもしれないけれど、 又みんなで笑い合いたいよ・・・。」 「うん。 そうだね。もっと早くに気付いて、お互い会っていればよかったよ・・・。 ハリー・・・? ハーマイオニーを幸せにしてやれよ?」 「うん・・・。 うん・・・。」 そして・・・、 やっと本来あるべき軌道に、歯車がしっかりと噛みあった様な感じだった。 その日の夜、僕はロンと一緒に隠れ穴の周りを いつまでもいつまでも笑いあいながら、箒に乗って飛んだ。 何年ぶりかにお互い、心の底から笑う事ができた。 ・・・・ありがとう・・・、ロン・・・。 ← Chapter.17 へ → Chapter.19 へ
======== 無理やりな設定、ばんざ〜〜い!! だってだって、本当にロンハー、ハリジニじゃ上手くいかないって思うんですもの。 愛し合う事の大前提って、やっぱりお互いを理解する事でしょ? 理解して認めていくこと。 そんな絆を原作でも感じましたよね? 無駄なセリフのオンパレードな回でしたが、 読んでくださってありがとうございました! ========