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SOMEDAY 〜 Chapter.17 彼を近くに感じるために 〜
ハーマイオニーの手をとり、少し急ぎ足で自分の部屋に戻った。 先ほどまでの虚無感が、まだ微かに漂っている。 それを払拭したくて、カーテンを空け、窓を全開にした。 そんな事で消えるはずのない、わだかまりの残る空気が再び僕たちを包む。 窓から急に流れ込んだ風に、 ベッドの上にあった何かが床に落ちた。 さっきまではなかったものだ。 「ハリー・・・?」 「・・・・。 多分・・・、ジニーだろ・・・。」 真っ白な封筒がそこには落ちていた。 手紙・・・? ハーマイオニーがそれを拾い上げ、僕に静かに渡した。 「私は一旦部屋に戻っているわ。 直してもらいたい物・・・、その後でもいいでしょう?」 「・・・うん。 それは後でもいいんだけど・・・、でもここにいて? ジニーからの手紙だとしたら、尚更君にはここにいてもらいたい。」 「私が立ち入っていい問題じゃないでしょう? ここからはあなたとジニーの問題だわ。」 「いや。 いてくれるだけで良いんだよ。 別に君にこの問題を解決してもらおうなんて思ってないから・・・。」 そう言ってハーマイオニーをベッドに腰掛けさせた。 「弱虫だと思ってる・・・?」 「・・・少しだけね?」 クスッと悪戯っぽい目で彼女は笑った。 「私・・・、お茶をいれてくるわね? ここに座ってるだけじゃ落ち着かないもの。」 「うん。ありがとう。」 ハーマイオニーが奥のキッチンに入ったところで、 僕はその白い封筒を開けた。 そこには、ジニーの可愛らしい字で書かれた手紙と、 ・・・結婚した時、二人で選んだマリッジ・リングの片方が入っていた。 ハリー。 これ以上、あなたに愛想をつかされるのは本意じゃないから、 無駄な抵抗はしない事に決めたわ。 私はあなたの事を本当に愛していたけれど、 でも、多分、あなたがいなくても生きていける女だと思うの。 今までもずっとそうだったように・・・。 ハーマイオニーは逆ね? 強そうに見えるけど、彼女はあなたがいないときっと駄目になってしまう。 だって、あなたと過ごしていた学生時代のハーマイオニーのほうが、 とっても幸せそうだったって気付いちゃったんですもの。 あなたを前にすると、きっと変なプライドが邪魔をして、 もっと嫌な女になってしまうと思うから、 こうして手紙を書きました。 ジェームズの事もあるけれど、私はあなたを解放してあげることに決めた。 心配しないで。強がりなんかじゃないから。 ハーマイオニー。 きっと近くにいるんでしょうね? でももう、やきもちはやかないわ。 私じゃ、あなたの代わりにはなれないって事くらい、 ずっと前からわかっていたの。 ただ本当に自分のプライドが邪魔をしていただけ。 もっと早くに気付いていれば、あなたたちを苦しめずにすんだのに。 ごめんなさい。 ただ、ジェームズの事が心配なので、もう少し時間をください。 ロンも多分気付いているはずだから、早く話をしてあげて? 約束よ? 多分、暫くはあなたには会えないと思います。 わかっているつもりだけれど、私もハリーを愛していないわけじゃないから。 きっと辛い気持ちは隠せない。 気持ちの整理がついたら会いに行きます。 その時まで・・・。 ジニー 自分の物よりサイズの小さい指輪を、暫く左手に乗せて眺めていた。 ほとんど傷一つついていないその指輪は、 二人の関係をそのまま表しているようだ。 卒業して直ぐに結婚したから、約13年か・・・。 その13年に二人で刻んだものはほとんどない。 ジェームズと言う宝を授かっただけ。 これを買ったとき、ジニーはこう言った。 「たくさん家事をして、傷だらけになったら、 又、新しいのを買ってね?ハリー。」 あの時のジニーは一体なんだったんだろう? 僕が変えてしまったのだろうか? でももう、どうでもいい事だ。 いまさら僕の気持ちは変えることはできない。 「ハリー?コーヒーが入ったわよ?」 ハーマイオニーの声で、我に返った。 「ありがとう。 ジニーから君にもメッセージがあるよ。 読んでくれるかい?」 「私に?」 「うん。 それからこれ・・・。 結婚した時に二人で揃えた指輪を返してきたよ・・・。」 そう言って、これからハーマイオニーが読もうとしている手紙の上に置いた。 「そう・・・。」 「じゃあ、読んでいて。 さっき君にお願いした、直してもらいたい物を取って来るから。」 「わかった・・・。」 きっと彼女にも考えるところがあるだろうと思い、 僕は席を外す事にした。 そして自分のトランクの一番下から、 学生時代使っていたローブに大切にくるんである 一つの包みを取り出した。 何年ぶりだろう。 これを開くのは・・・。 おそらく卒業して、これを一対にしてから初めてだろう。 そう、これはシリウスから貰った両面鏡。 離れた場所からでも、お互い話しができると言うアイテムだ。 一度も使っていないそれを、 しかも片方は自分の感情に任せて割ってしまったそれを、 今度は自分の息子に渡したいと考えていた。 「ハリー・・・? ジニーはこれをどんな気持ちで書いたのかしら・・・。」 「強がりかもしれないね・・・。 でも、そこにも書いてあるように、彼女は僕なしでもちゃんと生きていけるよ。 今までだって、僕を必要とされたって言う自覚がないし。」 「・・・前に彼女が私にこう言った事があるの。 1年生の時に自分は、大好きなハリーに命を助けてもらった。 だからそれで充分だったって・・・。 まさかあなたが自分を愛して、必要としてくれる日が来るなんて 思ってもいなかった・・・って。 私が彼女の相談に乗って、 もっと自分を出したほうがいいわよ・・・って言った時も、 自分の欲しい物はきっとあなたが与えてくれるだろうけど、 自分はあなたに何もしてあげる事はできないと思う・・・って話してくれたわ。」 「・・・・。 そんなことないのにね・・・。 たくさん、してもらったよ。 ジェームズと言う、かけがえのない存在を与えてくれたのも彼女だし・・・。 ・・・だから・・・、これ。」 「?」 ずっと手に持っていたローブを彼女の前に置くと、 僕は丁寧にそれを取り出して彼女に見せた。 「片方、割れているだろ? 僕が・・・、自分で壊してしまったんだ。」 「鏡・・・?」 「うん。 これ、シリウスから貰った物なんだ。 離れていても、これを使えば話ができる。 ジェームズに、渡そうかと思っている。 受け取ってもらえるかはわからないけど・・・。」 「そう・・・。 私に直せるかしら・・・?」 「君なら大丈夫だよ。 慌てなくていい。 僕、明日からの休暇を利用して、ロンに会って来ようと思ってる。 だから僕が帰ってくるまででいいから・・・。」 「わかったわ。やってみる。」 彼女は再びそれを丁寧にローブに包んで、 大事そうに自分の胸に抱きしめた。 「あなたの・・・、宝物ね・・・?」 「まあね。 でも一度も使ってないし、シリウスが逝ってしまってからは、 見る事もできなかった。」 「そんな大切な物を、私に預けてくれて・・・、 ありがとう・・・。」 「・・・ハーマイオニー・・・。」 僕はそっと彼女の肩を抱いた。 「でも、今一番の宝物は君だから・・・。 僕の方こそ、君自身を僕に預けてくれて・・・、ありがとう・・・。」 はにかむように微笑む彼女の頬に手を滑らせた。 「こんなに人を愛おしいと思ったのは初めてだよ。 この鏡みたいに、うっかり割ってしまわないように気をつけなきゃ・・・。」 「そうしたら、今度はあなた自身になおしてもらうわ。」 「そうならないように大切にするね?」 そして二人の影は自然と重なり・・・。 まだ乗り越えなきゃいけない壁を前に、 お互いの不安な気持ちを振り払おうとするかのように、 僕たちは親友と姉弟の一線を越えた。 ← Chapter.16 へ → Chapter.18 へ
======== さて、いよいよ大詰めです。 こんなにあっさりとジニーが理解するとは思いませんが、 絆と言う点から見れば、どう考えたってハーマイオニーに勝ち目はあると。 誰だって二人の強い絆に、退くしか術はないのです・・・。 ========