SOMEDAY 〜 Chapter.16 SOME DAY 〜
マダム・ポンフリーが散々ジェームズを探していて、 僕の部屋にいるのを見つけ、引きずるようにして医務室へつれて帰った。 ジニーはジェームズのそばにいると言って、 それ以上何もいわず医務室へと戻って行った。 ただ振り向きざま僕に、 「わかってたわ・・・、ハリー。」とだけ呟き、 寂しそうな笑顔を浮かべて部屋を出て行った。 何とも言えない虚無感だけが、僕とハーマイオニーを包む。 これで終わったわけではないけれど、 少なくとも僕には一つの達成感があった。 それはハーマイオニーとの一歩を踏み出すための達成感ではなく、 今まで嘘を吐き通していた自分に終わりを告げたという達成感だった。 微かに震えているハーマイオニーが、ここからでもわかる。 すぐにそばに駆け寄って抱きしめてあげたかったけれど、 今の僕にそんな資格はない。 最愛の人を、こんな修羅場に巻き込んでしまった自分が情けない。 「ハーマイオニー・・・? ちょっと外を歩こうか・・・?」 そう言って彼女の手を握った。 城の外はまだ夏だと言うのに肌寒く、うっすらと霧が出ていた。 まるで今の僕たちのこれからを暗示するかのように・・・。 「言っちゃったね・・・、こんなに早く。」 「・・・・。 よかったの?ハリー・・・。」 「いずれ言わなくちゃいけないんだ。 もう、疲れちゃったよ。 人を傷つけておいて、こんな事を言うのはどうかと思うけど、 気持ちが楽になった。」 「楽になった・・・?」 「うん。 ずっと引っかかってたんだ。 無理してる自分に気付かない振りをして、 このまま僕の人生終わっちゃうのかな・・・って。 君とここで逢えるとは思ってもいなかったから、 しばらくのんびりと自分の気持ちを整理しようと思ってた。」 僕たちはクィディッチの競技場へと歩いていった。 湿った空気が芝生の香りを運んでくる。 「私、この芝生の匂い、大好きなの。 芝生はあなたを象徴する香りだわ。」 「僕の・・・?」 「そう。 箒に乗るあなたを目で追っている時は、 いつもこの香りがしたもの。」 そう言ってハーマイオニーは大きく深呼吸をする。 「んん〜〜、懐かしい・・・。」 そんな彼女に微笑んで、僕たちは乾いた芝生を探し腰を下ろした。 「寒くない?」 「ええ、大丈夫よ? あなたと一緒にいるもの。」 「そんな殺し文句・・・、もっと前に聞きたかったよ。」 「あなたは今まで、私に見向きもしなかったでしょう? 結構辛かったのよ?」 「君は近くにいすぎたんだ。 っていうか・・・、すでに僕の一部だったよね?」 「そうなの?」 「そうさ。 どんな思い出にも君がいなかったことはない。 必ず君の顔が目に浮かぶ。 は〜ぁ。 どうして気付かなかったんだろう。 僕の人生の最大の失敗だよね?」 本当に。 あの頃の僕は未熟すぎて話にならない。 いつも誰が自分を助けてくれたのか、 いつも誰が自分に勇気をくれたのか、 今なら考えるまでもない。 ここにいる彼女しかいないじゃないか。 ジニーとは何の冒険も共有していない。 僕の涙や、愚痴や、情けない部分なんて 何一つ知らないんだ。 学生時代の思い出は、ジニーとは何にもない。 「私・・・、近いうちにロンと話をするわ。」 「・・・なんて?」 「今まで言えなかった事全部。 頭ごなしに決め付けられた事、たくさんあったけど、 それはみんな違うのよ・・・って言ってやるわ。」 「でも・・・、まだ愛してる・・・だろ?」 「あなたへの気持ちが愛なら、ロンへの気持ちは愛じゃない。」 「いいよ。 無理して別れたりするなよ。 僕は君との事は関係無しに、ジニーとは終わりにしたかった。 君の家庭を壊す事が目的じゃない。」 「・・・私はあなたを愛してる・・・って言ってるのよ? それなのに、ロンと夫婦でいなくちゃいけない? あなたと同じで、たとえあなたが私と一緒にいてくれなくても、 この気持ちに気付いてしまった今では、 ロンと夫婦でいることは出来ないわ。 わかるでしょう?」 そりゃ君と一緒に、これからの人生を一緒に歩いて行けたら どんなに素晴しいだろう・・・。 本当の愛に包まれて、本当の愛を捧げて行ける。 でも、それはロンを・・・。 「ねえ?ハーマイオニー? 今度僕、ロンに会ってみるよ。 久しぶりにロンに会いたい。 親友としてあいつと話がしたい。 僕の今の気持ち、直接話してみたい。 ぶん殴られて、絶交されちゃうと思うけど、 それでも嘘はついていたくないんだ。」 「ええ。」 いつの間にか霧は晴れていた。 遠く、禁断の森から鳥たちの囀る声が聞こえるだけ。 僕の部屋を出てから繋がれていた二人の手は、 一度も離れてはいなかった。 3年生の時、あの森の中を二人で逃げ回った時の事を思い出す。 あの時も自然と手は繋がれ、ずっと離される事はなかった。 庇いあって、励ましあって走っていたあの時の僕たちが、 本当のハリーとハーマイオニーの姿だったのかもしれない。 「ハーマイオニー・・・。」 僕の声に迷いはなかった。 はっきりと強い意志を持って彼女に話しかけた。 「・・・いつか・・・。 きっといつか、二人で幸せになろう。 もしかしたらお互い、杖をついて歩かなきゃならない 歳になってるかもしれないけれど・・・、 でも、絶対に君と幸せになりたい。」 「もちろんよ、ハリー。 私がしわくちゃのお婆さんになっても、 ・・・私にキスをしてくれるなら・・・。」 「約束するよ。」 「絶対よ?」 「ああ。」 何時とはいえないけれど、この約束は絶対だと確信していた。 それはきっと彼女も同じだったはず。 僕の手を握り締める彼女の手からは、何の迷いも感じられなかった。 「そうだ、ハーマイオニー。 君に頼みがあるんだ。」 「え?なにかしら?」 「うん。 君の得意の呪文で、直してもらいたい物があるんだ。」 「あら、あなただって直せるでしょう?」 「君じゃなきゃ駄目なんだよ。 いつも僕の眼鏡を直してくれたみたいに、ちょっとやってみてくれる?」 「・・・ええ、いいけど・・・。」 「じゃあ、部屋に戻ろう? 僕の部屋にあるんだ。 今までずっとしまったままにしておいた物なんだけど・・・。 多分まだ、直せば使えるはずだから・・・。」 そう言って立ち上がると、再び僕は彼女の手を握り締め、 前来た道を戻って行った。 ← Chapter.15 へ → Chapter.17 へ
======== そろそろ終わりが見えてきました。 第1部、あと1〜2話で終了します。<え? 第2部は邦版出て、ネタバレ解禁になったら書きます。 ハリーがハーマイオニーの魔法で直して欲しい物、 それが二人を繋ぐ大切な物になります。 ========