SOMEDAY 〜 Chapter.15 前に進む力 〜
暫く3人とも黙ったままだった。 ジニーの話したい事が何なのか、 そして、今のこの状況がどう変わっていくのか・・・、 頭の中は真っ白で、何も考え付かない。 僕はただジニーが口を開いてくれるのを待っていた。 ところが意外な事に、真っ先に口火を切ったのはハーマイオニーだった。 「ジニー・・・、 私、ごめんなさい・・・。」 ジニーも僕も、ハーマイオニーの口から出た言葉に、 少なからず驚いていた。 「・・・何が? 何がごめんなさいなの?」 「上手く言えないんだけど…、」 口ごもる彼女に慌てて僕も口を開く。 「謝らなきゃいけないのは僕だよ。 ハーマイオニーじゃない!」 そして小さく溜め息をついたジニーが、やっと話し始めた。 「ハリー?ジェームズをどう思った?」 「・・・え?」 「え?じゃないわ。 ジェームズを見て何か感じなかった?」 感じてないわけじゃなかった。 むしろ頭を思いっきり、トロールのこん棒で殴られた気分だった。 だけどジェームズと僕たちの会話をジニーは知らない。 「一番感じたのは、やっぱりあの子には君が必要だって事だけど…」 「 そんな事・・・、当たり前じゃない・・・。 何も解ってないのね・・・。 私はあの子のたった一人の母親だわ。 それはずっと変わらない。 いくらここで優しい母親代わりの人がいたとしても・・・。」 そしてハーマイオニーの横顔に、軽く一瞥を投げる。 ハーマイオニーはバツが悪そうに目を伏せた。 「何が言いたいんだよ・・・。」 少し不機嫌になった僕を気にする事もなく、 ジニーは言葉を続けた。 「 あの子がどうしてホームシックにかかったのか、 さっきのあの子の話す事で判らなかった?」 「・・・。」 「 あの子は、ジェームズは・・・、 自分がいい子でいれば、私もあなたも幸せだと思ってるのよ。」 「 私はいつも仕事仕事で。 ジェームズとあなたが何も言わない事に甘えて ずっとそんな生活を続けてきたわ。 あなたはそんな私に、いつも溜め息をつきながらも 黙って好きな様に させてくれていた。 だけどジェームズは? そんな私に対して不満を言うことは一度もなかった。 多分、あなたに対してもそうだったでしょう? 本当は私に家にいて欲しいって言いたかったはずよ? あなたに対しても、どうしてママを好きにさせておくんだ・・・って 文句を言いたかったと思うの。 でも、それを言わなかったのは・・・。」 ジニーは言葉を濁して俯いた。 わかっているのに、その先を言うのを躊躇っている様だ。 僕はチラッとハーマイオニーを見た。 無意識なのか、意識してなのか分からなかったけれど、 前に進む力が欲しかった。 それを察してか、 ハーマイオニーも僕の目を見つめる。 ほんの1,2秒目を合わせただけの意思の疎通。 前に進むしかないんだ・・・。 後悔は充分してきた。 これ以上の嘘は、更にみんなを傷つける。 ハーマイオニーの瞳が、躊躇していた僕の背中を、 押した。 「それは、いつも僕たちが、 心を隠して生活していた事に気付いていたから・・・、だろ?」 「・・・。」 「 ジェームズは僕の不満に気付いていたと思うよ。 僕は本当は君に家にいて、ジェームズの相手をして欲しかった。 僕が仕事で帰った時は、先に君に家にいて欲しかった。 いつもいつもそう思っていたのに・・・、 どうしてもそれを言うことが出来なかったんだ。 言わなくてもいいや・・・という気持ちにまでなっていた。 だからジェームズは僕に気を使って、 君がいなくても全然平気だって強がってた。 お互い心を隠して・・・。 ・・・そのうち君に、それを望むことすらしなくなっていった・・・。 何故だと思う? 僕がここへ来ることを君が勧めた時、 その理由がはっきり分かったような気がする。」 「それは・・・、ここにいる彼女と・・・、 関係があるんじゃないの・・・?」 「違うよ。 彼女がいるのを知ったのは、本当にここに来てからだ。 だからその時の僕の気持ちの変化に、直接ハーマイオニーは関係ないよ。」 「うそっ!! だって、あなたはずっと彼女の写真を大切に飾っていたじゃない! 不自然なほどに彼女のことを話すのを避けてきたじゃない! ずっと私を騙していたんだわ。 ずっと彼女のことを愛していたんでしょう?」 そう思われて当然か・・・。 でも、違うんだ。 根本的なところが・・・。 「君を愛せなくなったのは・・・・、彼女の存在があったからじゃない。 彼女がいなくても、多分僕は君を・・・、もう・・・」 「・・・もう・・・、 なんなのよ・・・。」 「愛していない・・・。」 告げてしまった。 今まで隠して隠して・・・、自分でも見て見ぬ振りをしてきた本心。 ジェームズのため、周りの人たちのため、 今のままが一番いいんだと思っていた。 写真の中の彼女には、既にロンと言う夫がいる。 3人が今まで通りの3人でいるためには、 僕はずっと、この生活を続けていかなくてはいけないとさえ思っていた。 幸せで贅沢だと思っていた今までの自分。 それに別れを告げたような気がした。 「パパ・・・・。」 「ジェームズ・・・・。」 知らない間に息子が立っていた。 今まで病気で、意識も朦朧としていた彼が、 今は鋭い目つきで、3人の様子を見つめている。 「やっぱり・・・。 僕、気付いてたよ。 パパはママを愛してなかったんだね・・・?」 「・・・ジェームズ・・・。」 「僕はパパがずっと何かを諦めてる・・・ってわかってた。 それはママの仕事のことかも・・・って思っていたけれど、 ホグワーツにパパが来てわかったんだ。 今まで見たことがなかったよ? あんな明るくて幸せそうなパパのこと。 ハーマイオニーといるパパは、別人だった。」 今までずっと黙っていたハーマイオニーが口を開いた。 僕は又彼女が気を使って、自分を悪者にして、 ジニーやジェームズの気を紛らわそうとするんじゃないかって・・・、 そう、考えていた。 だけどこの時、彼女も覚悟していたんだ。 僕と一緒に前に進もうと考えてくれていた。 「違うわ、ジェームズ。 今までのパパが・・・、ハリーが別人だったのよ? 明るくて生き生きしていて・・・・、いつも笑っているハリーが あなたの本当のお父さんなのよ?」 ハーマイオニー・・・。 「だからハリーは私の写真を、ずっと机に飾っていたんだと思うの。 本当の自分を忘れないためにも・・・・。」 「・・・・。 そうなの?パパ?」 「ごめん、ジェームズ。 僕は・・・、前にも言ったよね? ハーマイオニーから貰ったものは、何一つ捨てていないって・・・。」 「うん。」 「箒みがきセットだけじゃないんだ。 彼女から貰ったものは。 目に見えないものが、たくさんあるんだ。 パパは今も・・・、これからだってずっとそれを捨てられない。 写真にはそれがいっぱい詰まっている。 大切に・・・、していきたいんだよ、本当の自分と一緒に。」 僕の部屋の隅と隅。 間にジニーとジェームズを挟んで、僕とハーマイオニーは離れた場所にいたけれど、 彼女のさっきの一言が、僕と彼女の心をつないでくれていた。 「パパの気持ちがママから離れてしまったのは、ハーマイオニーのせいじゃないけれど、 今、本来の自分でいられるのは、間違いなく彼女のおかげだよ。 ジェームズ。お前の言う通りだ。 今、パパはハーマイオニーを愛している・・・。」 「ジェームズ?ごめんなさいね。 私もあなたのパパを愛してるわ。」 どうして人は後から大切なことに気付くんだろう・・・? どうしてもっと早く、せめて取り返しの着く前に気付くことが出来ないんだろう? 離れて、人のものになってから、 彼女の大切さに気付くなんて・・・。 あの頃はこの選択に間違いはないと思っていた。 ジニーは僕の安らぎだった。 彼女といると、ヴォルデモートの事も予言の事も 何も考えずにすんだし、 彼女も僕に余計な事は聞かなかった・・・。 だけど、いつからか僕たちは見る方向が変わっていってしまった。 いや、きっと初めからそうだったんだ。 急に僕の心に進入してきて、 そして、あっけなく去って行く。 僕は彼女の何を愛していたんだろう・・・・? しばらくの沈黙のあと、ジェームズが呟いた。 「わかってたさ。 パパがハーマイオニーを好きな事くらい・・・。 僕はハーマイオニーが大好きだったから、 パパがハーマイオニーと仲良くしてるのを見るのが好きだったよ? でも・・・、 ママはこれからどうなるの? ロンおじさんは? それから・・・、 僕もどうなっちゃうの・・・?」 ロン・・・。 そうだよ。 彼は何も知らないんだ。 これは3人の終わりを意味する事じゃないのか・・・? 今まで頑ななまでに守ってきた3人の絆。 それを僕は壊そうとしている・・・? ロンを永遠に失おうとしている・・・? 再び湧き上がる心の葛藤に、僕の身体がブルッと震えた。 ← Chapter.14 へ → Chapter.16 へ
======== 別れのシーンって、嫌ですね? ごめんなさい。 でも、私はハリハーだと信じてここまできた人間ですので、 例え原作があっちに転んだり、こっちに転んだりしたとしても、 ハリーの心の中には絶対にハーマイオニーへの愛があると! ですからこっちに転んだとしたら、別れていただくしかありません。 あくまでも二次創作です。 その辺、ご承知おきくださいね? ========