SOMEDAY 〜 Chapter.14     隠した心 〜

次の日心配した通り、ジェームズは高熱を出した。 かなり辛そうで、食事も殆どとらず意識も朦朧としている。 普段あまり病気をしない息子だけに、僕は心底焦っていた。 休み時間や食事の後、夜はギリギリまで付き添っていた。 熱でうなされる息子を、ベッドの横に置いた丸椅子に座って、 成す術もなくじっと見ていると、 「ハリー? 少し休んだ方がいいわ。 今夜は私がずっと付き添っているから…。」 ハーマイオニーが優しく肩を叩いて語りかけてきた。 「あ、うん。 大丈夫だよ。  もう少ししたら部屋に戻ろうと思ってたんだ。」 「そう? ジェームズはどう?」 「今は薬が効いてよく眠ってる。 熱も昨日ほど高くないしね。 少しずつだけど良くなってるよ。」 ジェームズの額の上のタオルを取り替えながら、 ハーマイオニーは「よかった…」と呟いた。 その時ジェームズが微かに口を開いた。 それに気付いたハーマイオニーが、 タオルを替える手を止める。 「ジェームズ?」 僕も椅子から立ち上がり、そっと息子を覗き込む。 「どうした、ジェームズ? 辛いか? 何か、飲む?」 「パパ・・・」 何日かぶりに聞く息子の声は、か弱く掠れていた。 暫く天井を見詰めていたジェームズの目から涙が溢れ、 それを隠す事もしないで、 終いには顔をくしゃくしゃにして泣き出した。 「どうしたの、ジェームズ? どこか痛いの?」 「大丈夫か!?」 心配で息子に覆いかぶさる様に見詰める僕たちに、 彼の・・・、 ジェームズの心の叫びが突き刺さった。 「ママに・・・、 ママに会いたい・・・。」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「ハーマイオニー…?」 「・・・」 「・・・ごめん。」 「どうしてあなたが謝るの?  何も悪いことなんてないじゃない・・・。」 「でも・・・、」 「ハリー?  ジニーを呼びましょう。  こんな時は母親にそばにいてもらいたいものだわ。」 「僕は・・・、  僕は病気の時、看病してもらった記憶がなくて・・・。  だから、ジェームズの気持ちに気付いてやれなかった。」 「仕方ないのよ。  ジェームズはあなたを責めているんじゃないわ。  ねえ、ふくろう便を出してきて?」 「うん。そうするよ。」 ふくろう便を出すために、部屋で羊皮紙に向き合っていると、 涙があとからあとから流れ落ちた。 物分りのいいジェームズに甘えて、 彼の本当の気持ちまで気付いてやれなかった憤りと、 ハーマイオニーに対してすまないと思う気持ちと・・・、 そして、自分の考えの甘さ、軽率さに腹が立って仕方がなかったのだ。 自分が幼い頃、両親がいない事でどれだけ寂しい思いをしたか、 どうして簡単に忘れてしまったんだろう。 きっともう何もかも変えられない所まできているんだ。 あのままずっとハーマイオニーに会う事がなければ・・・。 きっとこんな贅沢な気持ちを抱くこともなかったのに・・。 ここに来て初めて、家を離れたことを後悔した。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 僕からの手紙を受け取ると、ジニーは本当にすぐに飛んできた。 今回は仕事を理由に、来れないとは言わなかったことに驚いた。 「ハリー・・・。  ジェームズは?  具合はどうなの?」 「医務室にいる。  一緒に行こう。  君に会いたがってるんだ。  ずっと君を呼んでいたよ?  来てくれてよかった・・・。」 医務室までの廊下を二人で歩きながら、 今のジェームズの様子を簡単に話して聞かせた。 医務室につくと、そこにはハーマイオニーが座っていた。 「ジニー・・。」 ハーマイオニーがいる事など気付かない様子で、 ジェームズに一目散に駆け寄るジニー。 「ジェームズ!」 「・・・あ・・・、  ・・・ママ・・・?」 「そうよ。  遅くなってごめんね?  どう?  まだ、辛い?」 そう言って汗をかいた息子の額にそっと唇を寄せる。 ジェームズは力なく自分の腕を、ジニーの首に回して 「ママ・・・。」 と抱きついた。 「会いたかったよ。  寂しかったよ・・・。  僕、家に帰りたい・・・。」 「・・・・。  ホームシックにかかちゃったみたいね?」 「ホームシック?」 「そうよ。  初めてだもんね?  1人で家から離れて生活するのって。  大変?ここでの生活は。」 「・・・ううん。  そんな事ないよ?」 「・・・又無理をするのね?  あなたの悪い癖だわ。  辛い時は辛いって言っていいのよ。    あなたはパパと同じで、ちっとも自分の本心を表に出さないでしょ?  あんまり無理をしていると、いつか壊れちゃうわ。    ママみたいにもっとわがままにならなくちゃ。」 「わがままを言うと・・・、  ママもパパも・・・、悲しいでしょう?  僕、平気だよ。  ごめんね?家に帰りたいだなんて言って。  仕事も忙しいのに・・・、来てくれてありがとう・・・。」 ・・・・。 「ジェームズ?  元気になったら、一度家に帰ってらっしゃい。  あなたには心の休養が必要のようだわ。」 「・・・いいの?」 「もちろん!  だから早く元気になるのよ?」 「うん!  わかった!  ありがとう、ママ!」 そう言ってジニーに再び抱きつくと、 安心したように、嬉しそうに目を閉じた。 しばらくするとジェームズの寝息が聞こえ、 ずっと手を添えていたジニーがその手を離す。 そして僕達の方に向き直った。 「ハリー?ハーマイオニー?  お話があるの。    ハリー、あなたの部屋をお借りしていいかしら?」 「・・・あ・・・、もちろんだよ。」 ジェームズの気持ちに気付いてしまった今、 僕は彼女に言おうとしていた事を封印せざるを得なかった。 きっとそれはハーマイオニーも同じだったはずだ。 僕はこの今の状況がどうなっていくのかなんて、 考えることすら出来なくなっていた。 ← Chapter.13 へ           → Chapter.15 へ


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13話の中に入る予定だったお話です。
あまりにも健気なジェームズの心遣い。
大人たちの勝手な感情で、傷つくのはやっぱり子供なんですね?
さあ、この状況をハリーはどう考え、どう行動していくでしょうか?
みんなが幸せになることは出来るのでしょうか?

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