SOMEDAY 〜 Chapter.13     ジェームズ 〜

彼女とお互いの気持ちを確かめ合ったあの夜から、 僕はなにもかもが楽しくて仕方がなかった。 全てにおいて心強くて、安心で満ち足りていた。 こんな気持ち、本当に久しぶりだ。 「ポッター、何かいい事でもあったのか?」 「え?そう見える?」 「お前は解りやすい奴だからな・・・。」 「・・・君には理解していて欲しいんだけどさ・・・、」 マルフォイにどう説明していいのか考えあぐねていると、 「グレンジャーの事だろ?」 「あ…、いや…、」 「隠すな。 お前達を見ていればわかる。」 「そうかな・・?」 相変わらず洞察力の鋭い男だ。 「寝たのか…?」 「ばっ…、ばか言うなよ! そんなんじゃないよ。」 ふうん…と、訝し気な目で見るマルフォイに軽く溜め息をつく。 「そんなんじゃないよ。 僕たちはただ…、」 「ポッター、僕はお前とグレンジャーが いずれはそうなると思ってた。 大体お前達が一緒にならなかった事の方が不思議な位だ。 だから愛し合っていれば、 身体の繋がりを求める事だって普通なはずだろ。」 確かに。 あの夜、そうしようと思えばいくらだってそう出来たはずだ。 全く考えなかったわけじゃない。 彼女の全てに自分を刻み込みたかった。 でも、お互いそこまで踏み込む事をしなかったんだ。 「ジェームズが・・・、」 「そうだな。 ちゃんと話すことだ。 あの子なら、ちゃんと解るはずだよ。  そうだろ?」 そうだろうか? 幸い、ジェームズと彼女は上手くいっている。 僕の気持ちも、僕より前に気付いていた。 でも、彼にとって母親はジニー一人。 それは変わらない。 「僕は別に今の状態を変えようなんて思っていないんだ。 ただ彼女と気持ちが通じ合えただけで・・・、」 「満足だと? お前、何も変わってないな。   子供の頃、闇の帝王と戦った事で、   何も学ばなかったのか?」 「どういう事だよ。」 「あの時、何人犠牲になったと思う。 魔法界と、そしてお前を守る為に何人死んだか覚えてるか?」 ・・・。 「お前は自分を犠牲にするんではなくて、 あの時死んだ奴らの為にも…、 一番幸せにならなくちゃいけないんだ。  それに黙っていることは、余計相手を傷つける」 ・・・。 マルフォイはそう言ってくれるけど・・・、 僕が幸せを求めることで、あまりにも傷つく人が多すぎる。 自分の幸せの為に、ロンやジニーを傷つけることなんて 僕には絶対にできない。 ましてや、大切なジェームズを、 自分と同じ境遇にするなんて無理だ。 いいんだ、これで。 十分じゃないか。 彼女はいつだって僕のそばにいてくれるんだ。 彼女は絶対に僕を裏切ることなんてないんだから・・・。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「ハリー?それ…?」 「なに?」 いつもの様に僕の部屋で三人で寛いでいる時の事。 箒の手入れをする僕を見て、ハーマイオニーが声を掛けた。 「まだ、使ってるの?」 「え?」 「それ、確か三年生の時  私が貴方にプレゼントした物でしょう?」 何の事を言われているのか初めのうちは解らなかった。 だけど床に置いた年季の入った黒い革のケースを見て、 彼女の言おうとしている事がやっと理解できた。 「ああ、これ? いい感じになっただろ?」 「パパはね、ハーマイオニー。 ママから何年か前に新しい箒磨きセットを貰ってるのに、 一度もそれを使った事がないんだよ? よほど大切なんだね? ハーマイオニーから貰ったそれが。」 ニヤニヤと冷やかす様に言うジェームズだったけど、 今回は素直にそれを認めてみせた。 「ああ。 ハーマイオニーから貰った物は、今でもみんな大切だよ。 何一つ捨ててないからね。」 「わぁ!パパ! それって告白? そうかぁ、やっと自分の気持ちに気付いたんだね?」 自分の息子ながら時々わからなくなる事がある。 こいつは僕とハーマイオニーに何を期待しているんだろう? 「おい、ジェームズ?  前から聞きたいと思ってたんだけど・・・、」 「うん、パパが幸せな顔をしてくれてる方が、  僕は嬉しいよ?」 「・・・え?」 「だからさ。  パパがハーマイオニーと一緒にいることで、  それが幸せなことなら、僕はそれが一番だって言ってるんだよ。」 まったく大した息子だ。 僕が何を言おうとしているのか、 何を考えているのか、 すぐに察してくれた。 「でも、それは・・・、  それはお前のママが悲しい思いをするって事だろ?」 「・・・そうかな?  パパとママはいつも違う方向を  見ているような気がするけど・・・?」 ワケが解らないといった顔で、僕はハーマイオニーと目を合わせた。 「僕はママが大好きだよ。  ママが悲しむ顔なんて見たくない。  幸せでいて欲しいって、本当に思ってるよ。  だけど・・・、  パパにだって幸せになってもらいたい。     パパとママが思う幸せがお互い違うなら  一緒にいなくたっていいんじゃないかな?」 「思う幸せが・・・、違う?」 「うん。違うでしょ?  パパが欲しい家庭は、ママも欲しいと思ってるわけじゃない。  だってママはずっとそういう家庭で育ってるんだもの。  今は仕事一筋だもんね?    だけど、ママはそれがとっても楽しいんだ。  だから嫌いじゃないよ?ママが仕事をしてるのは・・・。」 少し寂しいけどね、と笑う自分の息子が、 急に大人びて見えた。 「人間の人生はその人個人のものだよ、パパ。  僕は11歳になるまで、  ちゃんとパパとママに育ててもらった。  パパは卒業してすぐに自立しただろ?  僕もそのつもりだし、  後はパパの人生なんだから好きにすればいいんだよ?」 「それって・・・・、  僕とハーマイオニーに一緒になれって言ってる?」 「だって!  それがパパの望む幸せだろ?  本当にお似合いだよ、二人とも。  僕から見たって、完璧だよ!  ・・・あ、あとはママとロンおじさんが  許してくれるか・・・だけどね?」 大変だと思うよ〜と笑っているジェームズに ハーマイオニーが抱きついた。 「・・・!  ハーマイオニー・・・?  だ、抱きつく相手が・・・違うよ!」 「もう!ジェームズ!  大好きよ!」 顔中にキスの雨を降らせている。 「くすぐったいよ!  ハーマイオニー〜〜!」 そんな言葉も全く無視して、 彼女はジェームズを離そうとはしなかった。 「まあね?  ハーマイオニーだったから、僕も簡単に許せたんだけどね?」 「ロンやジニーが解ってくれなくてもいいわ。  あなたさえ解ってくれていれば、それで十分よ。」 と、ここでジェームズが急に真顔になった。 「違うよ、ハーマイオニー?  だめだよ、ちゃんと話をしなくちゃ。    僕はパパにもハーマイオニーにも嘘をついて欲しくないんだ。    パパの事を本当に愛しているなら・・・、  本当にこれからも一緒にいたいと思うなら、  ちゃんとけじめをつけて?  これが僕が二人を認める為の条件だよ?」 「そうだね。  ジェームズの言う通りだ、ハーマイオニー。  君とのことは、隠したり内緒で付き合ったりとかしたくない。    きちんと認めてもらおう。」 「そうね。  わかったわ。  私が間違っていた。  ごめんね?ジェームズ。」 「はぁ〜〜。  やっと認めた。  お互い好きなくせに、  いつまでも僕には内緒なんだもんな〜。」 いたずらっぽく笑う息子に目を細める。 いつからこんなに大人になったんだろう? 自分が11歳の頃はどうだっただろうか。 いや、自分だってその頃には自立心は芽生えていた。 ただ、恋愛に関しては息子ほどませてはいなかったけれど・・・。 自分とジニーとの事を、こんなにも冷静に見つめていたことに ただただ驚くばかりだった。 「ところでジェームズ?  あなた、風邪をひいてるんじゃない?  少し熱があるようよ?」 「え?本当?」 「やだ、気付いてなかったの?」 「・・・そういえば、昨日辺りから体がだるかったかも。」 「さっき抱きついた時のあなたの体温が、  少し高いかな・・・と思ったんだけど?  まったく自分の事になるとさっぱりなのね?  今夜はここに泊まるといいわ。  明日医務室に行きましょう?」 「ほんとっ?  ハーマイオニー、看病してくれるの?」 しかたないわね・・・と優しく笑って、 ハーマイオニーがジェームズのおでこに手をあてる。 「うん。やっぱり熱があるわ。」 「僕、二人のお邪魔じゃない?」 「ばーか。  余計な気を回すんじゃないよ。」 ジェームズを自分のベッドに横にさせると、 僕はキッチンで温かい飲み物を用意した。 ハーマイオニーは、もう1枚シーツを余分にかけている。 照れくさそうに、それでも嬉しそうにそれに従う息子は やっぱり11歳の男の子だ。 仕事で忙しいジニーに変わって、 僕はよく仕事を休んで、ジェームズの看病をしたことがある。 こんな時、母親がそばにいるのが一番の薬になるのに・・・と、 ジニーを恨めしく思ったこともよくあった。 だけど、今夜はハーマイオニーがいてくれる。 それを嬉しそうにしている息子をみると、 やっぱりきちんとけじめをつけなければ・・・という気がしてくる。 「ねえ?  このベッド、パパの匂いのほかに、  ハーマイオニーの匂いもするよ?」 /////!!?? 「ば、ばかっ!そんはずないだろう!?  ここではハーマイオニーはベッドに入ってないよ!」 「ここでは・・・って?  じゃあ、ハーマイオニーの部屋のベッドなら、  二人で入ったことあるの?  ・・・・あるみたいな言い方だよね?」 「・・・ジェームズ!!」 「ははは・・・。冗談だよ。  おもしろいなあ・・・。」 まったく、前言撤回だ。 こいつはただのマセガキだ、ちくしょう。 これからもこうやって、からかわれていくんだろうか。 ・・・頭が痛い。   だけど・・・、 心が温かかった。 ← Chapter.12 へ           → Chapter.14 へ


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あんまりハリーとハー、絡んでない。
ほとんどジェームズが主役の章でした。
しかも、お約束のジニーは登場せず。だめじゃん!

さて、そろそろお話を動かさないと。
これじゃいつまでたっても終わらないよ。
でも気分は邦版出るまで続けたいような・・・。
どうしよう・・・?

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