SOMEDAY 〜 Chapter.10     満たされていく心 〜

「おい、最近大広間で食事しないけど、どうしたんだ?」 休み時間の移動中、偶然廊下で出会った マルフォイが不思議そうに訊ねてきた。 「あ、ごめん。  いつもハーマイオニーが作ってくれるんだ。  彼女もここに来たからって、屋敷しもべに頼ることは  したくないって言ってね。  そうだ!今度君も一緒にどう?」 「人の恋路を邪魔するような、そんな無粋な真似はしたくない。」 「恋路ってなんだよ〜。  人聞きの悪い事言うなよな。」 「そうか?  最近会った時とは違って、二人ともいい顔してるがな。    ま、今度グレンジャーの作るマグルの料理でもご馳走になりに行くよ。」 「うん、彼女にも伝えておくよ。」 そう、あの日を境に僕と彼女は、ほとんど一緒に食事をしていた。 彼女もこれ以上料理の腕が下がったら、ロンに何を言われるか分からないと言って、 「いい機会だから練習に明け暮れるわ。」とほとんど大広間には来なかった。 特に遠慮する間柄でもないので、本当に手抜き料理だったり、 有り合わせで作ったりして、ごく普通の気取った所の無い家庭料理だ。 それが僕をとってもリラックスさせてくれていた。 クィディッチでヘトヘトになった時は、それなりにあっさりとしたスープだったり、 逆にジェームズが一緒の時は、ミートパイやキッシュといった息子の大好きなものを 選んで作ってくれた。 週末の僕にも時間がある時は、一緒に料理をすることも少なくなかった。 狭いキッチンの中で、それぞれに分担作業をする事はとっても楽しかった。 2人とも子供に戻ったようにはしゃいでいた。 「ハリー、あなた本当に美味しそうに食べるのね?」 「・・・え?だっておいしいんだもん・・・。  どうして?」 「ん?  申し訳ないな・・・って。  こんな簡単なお料理で。  大広間に行けばもっと美味しくて沢山のご馳走が並んでるでしょ?  私の自分勝手につき合わせてるみたいだわ。  ジニーだってもっとましな物を食べさせてくれるでしょうに・・・。」 それを聞いて僕は、手に持っていたフォークをコトリと置いた。 そして、彼女の方に向き直ると、 「ハーマイオニー、よく聞いて。    君にとってはロンに作る料理が最高の料理かもしれないけれど、  僕にとっては、それでも君の手料理が1番のご馳走なんだ。」 「ロンに褒められる為の練習だってかまわない。  これからもここにいる間は、君の手料理が食べたいんだ。  だからそんな事言わないでよ。」 「ハリー?  あなた間違ってるわ。」 「え?なにを?」 「ここで作っているお料理は、全てあなたの為に作ってるって事・・・、  ちっともわかってくれてないわ。」 「僕の・・・、為?」 「そうよ?  ロンの為でも、ロンに褒めてもらう為の練習でもない。  あなた1人に喜んでもらいたくて作っている料理なの。  でも、あなたにとっては迷惑かもしれないって・・・。」 「じゃあ君こそ間違ってるよ。  僕は望んでここにいるんだ。  君への気遣いでもなんでもない。」 僕はハーマイオニーがそんな事を考えていたなんて思ってもいなかったので、 心底びっくりした。 僕の方こそ図々しく、ほとんど毎日ここに来て 彼女の好意に甘えていたと思っていた。 「だったら相思相愛じゃないか・・・。  ねえ?お代わりしていい?」 「あなたはささやかだけど・・・、  私にとって本当の幸せを与えてくれる人ね・・・。」 「そうだ。今度マルフォイも呼んでいい?  あいつにも君の手料理を食べさせたい。」 「・・・・手強そうね?」 「いや、大丈夫だよ。  これだけ美味しいんだ。認めてくれるさ。」 「だといいんだけど・・・?」 いや、お世辞抜きにハーマイオニーの作る料理は美味しかった。 ジェームズだって大喜びだ。 自分の母親の手料理をあまり知らない息子にとって、 これ以上の情操教育はないってくらいに・・・。 そしていつものように、後片付けは2人でやる。 ハーマイオニーがお皿を洗い、僕がそれを拭きながら食器棚へとしまう。 僕はいれたてのコーヒーを、両手が泡だらけの彼女の為にその口元へ 運んであげる。 時々こぼしそうになってナプキンで口を拭いてあげたり・・・。 こんな事ジニーにだってしてやったことがない。 そりゃそうだ。 2人でキッチンに立ったことなんて、一度も無いんだから。 一通り片づけが終わって、今テーブルの上にはハーマイオニーが 剥いてくれたりんごが置いてある。 おしゃれなデザートなんかじゃないけれど、 チョコレートや糖蜜がたっぷりかかったどんなケーキよりも甘かった。 そんなりんごを、この間ジェームズにウサギの形に切ってあげたら、 とっても喜んでくれたと言って、嬉しそうに彼女は話してくれた。 その時突然・・・、   コンコン。 ノックの音に2人で顔を見合わせた。 「誰かしら?」 「うん。今はもうみんな談話室にいる時間だし・・・。  ジェームズじゃないよね?」 ハーマイオニーはエプロンを外すと、ドアの方へ向かった。 「はい、どなた?」 「ハリー・ポッターのお部屋は・・・、こちらかしら?  それとも隣のドアかしら?」 どこかで聞いた事のある声に、2人で顔を見合わせた。 そしてすぐにそれが誰だかわかった僕は、急いでテーブルを 片付けるようにハーマイオニーに目配せをする。 魔法でテーブルの上を跡形もなく綺麗にすると、 もう一つ自分の部屋から職員用のノートを呼び寄せた。 そしてハーマイオニーにO.Kを出す。 ハーマイオニーが恐る恐るドアを開ける・・・・。 「お久しぶり、ハーマイオニー。」 そこには数ヶ月ぶりに見る僕の妻、 ジニーが立っていた。 ← Chapter.9 へ          → Chapter.11 へ


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今回短い上に、今後あまり出てこないと言ったはずのジニー登場。(爆)
いや・・、ここでジニーかロンのどちらかがちょっとだけ登場してもらわないと、
2人とも自分の気持ちにはっきり気付きそうもなかったもので・・・。(言い訳)
ロンはなんかいい人っぽくて、悪役には向いてなさそうなので、
原作ではあまり目立った個性のなかったジニーに、この役を押し付けました。

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