SOMEDAY 〜 Chapter.7     求めていたもの 〜

「・・・・ハリー、入っても?」 シャワーを浴びようとしていた僕に、突然ハーマイオニーの声が聞こえた。 急いで扉を開けると、 「どうしたの?  何か困ったことでもあった?」 「ううん、そうじゃないの。  ねえ?少し話をしない?  お茶を淹れるわ。  私の部屋に・・・来ない?」 「え?いいの?  疲れてない?」 「大丈夫よ。」 「じゃ、少しだけお邪魔しようかな?」 そう言うと彼女はとても嬉しそうな顔をした。 そのまま彼女に着いて隣の部屋へと入ってみる。 あれ? 僕の部屋と変わらないじゃない。 家具もカーテンも地味な感じで、ハーマイオニーが使うには 少し可哀相な感じがした。 「ねえ?  僕の部屋と同じでちょっと殺風景だね・・・。」 「そうね。  今度アンブリッジの部屋みたいにしようかしら。」 5年生の時ホグワーツで闇の魔術を教えていた あの極悪非道な魔女を思い出し、思わず鳥肌が立つ。 「やめてくれよ。  そんな部屋になんかしたら僕は2度とここへは来ないからね。」 「うふふ・・・。  冗談よ。あんな悪趣味な部屋にしたら、私の方がおかしくなっちゃうわよ?」 「そうだ。  今度休みの時にでも、ここをもっと住みやすくしないか?  僕得意なんだ、そういうの!」 嬉しい・・・と微笑む彼女を真正面から見つめる。 そして自然と伸びる腕。 そっと彼女を抱きしめると、 「会いたかったよ、ハーマイオニー。  元気にしてた?」 そう言って、彼女のふわふわの髪に顔を埋め、 彼女の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。 「あなたこそ・・・。  ずっと会いたかった。  ずっと話がしたくてしょうがなかった・・・。」 僕の背中にそっと腕を回し、優しく抱きしめ返してくる。 連絡を取り合えなかった理由は、お互いが一番よく知っているから、 余計なことは一切何も言わず、僕たちは久しぶりの再会を心から喜び合った。 「あなたに会いたくて家を飛び出そうと思ったこともあったの。  家族になれたのにそれが出来ない事が、とっても歯痒かったわ。」 「僕も君の写真に向かって、よく愚痴をこぼしていたよ。  君はいつも、僕の素晴らしい聞き役でいてくれたんだ。」  こんなに君を必要としていたなんて、それまで気付かなかった。」 そう。 家族になれたのに。 近い存在になったはずが、一番遠い存在になってしまっていた。 まるで僕たちを引き裂くことが目的であるかのように感じることもあったくらいだ。 「まるで恋人同士の再会みたいね?」 「本当だ。  あぶない、あぶない・・・。」 そう言って二人で笑った。 ハーマイオニーの淹れてくれたミルクティーはとってもおいしかった。 「随分料理の腕を上げたんだろうね?  これ、とっても温かくておいしいよ。」 「私の作ったものをおいしいなんて言ってくれるのは、あなただけね?  ましてやこんなミルクティーくらいで・・・。」 「そんなことないだろ?  ・・・・ロンは・・・元気?」 「相変わらず私の前ではズケズケ物を言うわよ。  それに最近知ったことなんだけど、わたしなんかより  ずーーーーっとお料理が上手なの。  だから・・・、褒められた事なんて一度も無いわ。」 諦めたような口調で話すハーマイオニーを見ながら、 僕は頭の中で、「ロン」の名前を口にした時の 自分の心のざわつきの意味を考えていた。 どうしてロンの事を聞こうとした時、 あんなに心が痛んだんだろう? 今まで口にすることすら避けていたせいで、 心に鎧がきせられてしまったのだろうか? 「あなたのほうこそ・・・、ジニーは元気?」 「ああ。  仕事仕事で忙しくしてるよ。  今回も僕にここへ行け行けって煩くてさ。  僕がいないほうが思う存分仕事に専念できるだろうからね・・・。」 何を言ってるんだろう、僕は。 こんな事をハーマイオニーに話したって、彼女が困るだけなのに・・・。 だけど、今まで心の中で鬱積していた気持ちが 堰を切ったかのように溢れ出していた。 「結婚てさ、なんだろう・・・っていつも考えていた。  好きだから一緒にいたいって気持ちだけじゃうまくいかないのかもしれない。  僕が求めていたものを、ジニーならきっと解ってくれるって信じてた。  付き合っているときも彼女は僕の事、一番理解してくれているって思ってた。  でも所詮魔法界で育ったジニーと、マグルの中で育った僕とは  価値観がまるで違うんだ。  結婚してみないとわからない事がたくさんあったんだよ。」 ティーカップを大事そうに、両手で持つハーマイオニーの手が震えていた。 「ごめん。  こんな事君に話したって困るだけなのに・・・ね。  気にしないで。」 彼女はどう話していいか困っているようだった。 だけど、 「ハリー?  私も同じよ。」 同意の言葉が返ってきた。 「え?」 「うちも同じなの。  ロンと私では・・・、価値観がまるで違うの。  あなたの言った通りなのよ。」 「あれだけ毎日一緒にいて、ロンの事は誰よりも解ってると思ってたわ。  どうしたら喜ぶか、何をしたらいつも笑って暮らせるのか・・・、  そんな事ばかり考えてたら辛くなってきちゃったの。  だからロンがここに来ることを賛成してくれた時、  私は本当は来るつもりじゃなかったんだけど、  少し自分を見つめなおそうと思って。  逃げ出して来ちゃったわ。」 あれだけ僕の目から見たってお似合いだった2人が? いつも2人の家庭からは笑い声が耐えないんだろうな・・・と、 想像してはやきもちを妬く日だってあったのに。 「一番の憂鬱の原因は、せっかく家族になれたあなたと  一度も会えなかったことだわ。  ロンとジニーの問題は、はっきり言って私たちにはどうする事も  できない問題だもの。  だけど、あなたに会わないでいる事が、  ロンに対しての忠誠心みたいなところがあって・・・。  今考えると本当に馬鹿みたいなんだけど、  彼を前にするとどうしてもあなたに会いたいって言えなくなるのよ。」 何だか彼女の言葉がとっても嬉しかった。 彼女も僕と同じような問題で悩んでいたんだ。 会いたいと願っていたのは僕だけじゃなかった。 「ハーマイオニー。  今日からはロンもジニーもいないんだ。  昔のように誰かに遠慮することなんてしないで、  与えられた限られた時間を楽しもうよ。  そしてその中で自分自身見つめなおしていけばいいんだ・・・。」 マルフォイが聞いたら怒るだろうか。 だってこれは裏を返せば、ロンとジニーの知らないところで 楽しくやろうぜ・・・と言ってるようなものだ。 そんな意味じゃないけれど・・・。 だけど僕はここにいる間くらいは、憂鬱から解き放たれたいと考えていた。 ジニーの事も、色々考えてみたかった。 離れることで気付く気持ちだってあるはずだ。 ハーマイオニーに対しても、そう考えてくれれば・・・と思っただけだ。 「そうだ、ハーマイオニー。  ここに僕の息子がいるんだ。知ってるよね?」 「ええ!ジェームズね?  大きくなったでしょうね?」 「うん。  今年から2年生なんだ。  君、ジェームズに会うのは初めてだよね?」 「そうなのよ。  写真で生まれたばかりの頃しか知らないわ。  すごく楽しみだわ。  あなたに似て男前かしら?」 「からかうなよ。  でもどっちかと言えば僕にそっくりだろうな。  明日からビシバシしごいてやってくれよ?」 「ええ!!  あなたにそっくりならしごき甲斐があるってことね?  うふふ。まかせて!」 「君は・・・、子供は?」 聞いていいのかわからなかったけれど、 前から気になっていた事を思い切って聞いてみた。 彼女は軽くため息をつくと、 「それも憂鬱の原因よ。  ロンは子供はいらないって言うの。  彼は大家族で育ってきたでしょ?  反対に私は一人っ子。  意見があうはずないの・・・、わかるでしょう?」 「家族や兄弟って多い方が素敵だと思うけどなあ。」 「そうよ。  私もそう思うの。  あんまり子供が欲しいって言ったら、    ”君は僕のパパやママの苦労をわかってない!   僕の苦労もわかってくれてなかったんだ!”  ってすっごい剣幕で怒られて・・・。  だからそれ以来、子供の話題には触れてないのよ。」 ロンも意外と頑固なところがあったからなあ・・・。 大家族の苦労を知らない僕やハーマイオニーでは きっと説得力にも欠けるだろう。 それから数時間いろんな話をした。 久しぶりの彼女との会話は、時間の経つのも忘れるくらい楽しかった。 相変わらず絶妙なタイミングで相槌を打ってくれるし、 綺麗な発音で話す彼女の会話は、聞いていて耳に心地よかった。 お互い無事に着いたと言う家族への報告も忘れて、 僕なんかは息子に会いに行く事もしないで、 ずっとずっと話し続けていた。 お互いに愛があるなんて事は 無自覚のままだったけれど・・・。         ← Chapter.6 へ           → Chapter.8 へ


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んまあ!いけないお父さんだこと!
ハーマイオニーがついていながら何たる失態でしょう。
でも仕方ないですよね?
本当に久しぶりで、会いたくて聞いて欲しくて・・・。
そんなあれやこれが一度に溢れてきちゃったんですから。
勢いで一線を越えなくて良かったです、ホント。

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