SOMEDAY 〜 Chapter.5     再会 〜

臨時のホグワーツ特急が出ることになっていた。 新学期は既に始まっている。 ジェームズにその事を手紙に書いて送ると、 生徒たちは今学期から新しい先生が来ることを既に知っていると言う。 ただ、それが僕だとは思わなかったらしくて、とってもビックリしていた。 そりゃそうだ。 父親が自分の学校の先生なんて・・・、複雑な気持ちだろう。 そしてその手紙には、その新しい先生は3人いることも書かれていた。 一体誰だろう? 自分が在学中のメンバーなら何となく覚えてはいるけれど、 世代が違えば当然初対面となる。 まあ、楽しみにしていよう。 こっちが知らなくても、 向こうはハリー・ポッターの名前ぐらいは知っているだろう。 知り合うきっかけとしては便利な名前だ。 ハリー・ポッターであることを嫌がっていた、 子供の頃の自分はもういない・・・。 この間ジェームズと来た時とは違って、ホームは閑散としていた。 そりゃそうだ。 たった3人の、臨時の職員を迎え入れる為だけの列車だからな・・・。 既に止まっている列車の最後尾に乗り込んで、 一つのコンパートメントに入った。 誰もいないから、空いているコンパートメントを探す必要はない。 だけど、あと2人の人物は一体どこに乗っているのだろう? ホームでは誰とも会わなかったし、乗っているのかさえ疑問だ。 そんな事をぼんやり考えていると、列車は既に動き出していた・・・。 たった一人でコンパートメントにいること1時間。 懐かしい風景が次々と目の前を横切っていく・・・。 あの頃はいつも、僕の前にロンとハーマイオニーが座っていた。 今頃2人は何しているんだろう? お互いに結婚してから、ほとんど会うことはなかった。 なぜ・・・? 僕はこうして2人のことを思い出すことすら、意図的に避けていた。 避けざるを得ない状況だったんだ。 それは僕に原因があったわけでもなく、 もちろんハーマイオニーにあったわけでもない。 原因があるとすれば、それはロンとジニーの不仲のせいだ。 昔からよく喧嘩の耐えない兄妹だったけれど、 卒業してからは更にそれに拍車が掛かった。 ほとんど修復不可能と思われる喧嘩を幾度と無く繰り返し、 2人が会うことはほとんどなくなった。 必然的にロンの家族と僕の家族が会うこともなくなり・・・、 僕がロンと連絡を取り合うことすらジニーは嫌うようになった。 多分ロンも同じだったんだろう。 自然とお互いに連絡は途絶え、その度にジニーと喧嘩をするのも煩わしくて 僕もロンやハーマイオニーに手紙を送ることもやめてしまった。 唯一の親友なのに・・・。 やっと出来た家族なのに・・・。 僕の憂鬱の原因はそこにあったのかもしれない。 ************************************************* 「ポッター・・・、ポッター・・・?  おい、起きろ!」 車内が薄暗くなって、車窓には僕の影しか映らなくなったのをきっかけに 僕は眠りに落ちていた。 ホグズミード駅に着くまでにはまだ1時間以上あると思って、 意識的に眠ろうと思って目を閉じたのだ。 憂鬱の原因を断ち切りたかったのも理由の一つ・・・。 「・・・あれぇ・・・?  なんで君がここにいるの・・・?」 はっきりしない意識で、色の白い痩せた男の姿を確認した。 「・・・君・・・、マルフォイ・・・?」 上から見下ろす灰色の瞳に、前のような嫌悪感は感じられない。 何だかとっても安心した。 「おい、もうすぐ着くぞ。  とっとと降りる準備をしろ。」 「・・あ?・・・うん。  ね、なんで君がここにいるんだよ?」 網棚に載せたボストンバッグを下ろしながら、まだぼんやりした頭で聞いてみる。 「なんで・・・って、君と同じ理由だからに決まってるだろう?  今日からホグワーツの臨時教師だ。」 「へえ・・・。  3人来るって聞いてたけど、その1人は君だったんだぁ・・・。  いやぁ、嬉しいなあ。  知ってる顔がいてくれて・・・。」 「何、子供みたいなこと言ってるんだ?」 「この間、偶然出会えたのも必然的って事かな?」 そうかもな・・・、と言って笑うマルフォイに、僕は心底嬉しくなった。 本当に学生の頃の彼とは別人みたいだ。 最近ロンとも会ってなかったし、こうして同じ歳の友人と話すことなんて 久しぶりで、さっきまでの憂鬱がうその様に吹き飛んでいた。 「おい、もう1人の臨時教師・・・、誰だか知ってるか?」 ちょっと意味ありげにマルフォイが聞いた。 「知らない。これに乗る時誰にも会わなかったし。  何、君知ってるの?」 「ああ。  さっき見た。」 「誰だった?僕の知ってる人?」 「・・・・。」 「何だよ。  もったいぶらないで教えろよ。」 「もうすぐ嫌でも会えるじゃないか。  こりゃ楽しくなりそうだ・・・。」 ま、いいか。 別に誰でも。 こうしてマルフォイと一緒にホグワーツで過ごせるだけで、 僕はここへ来て良かったと思っていたから。 別に前の生活が嫌いだたわけではないけれど、 これから少しの間は、前より楽しくなりそうだと不謹慎なことを考えていた。 しばらくすると列車はその速度を段々と緩めていった。 マルフォイと2人、ローブを羽織りコンパートメントを後にし、 列車の止まるのを待った。 前は押し合い圧し合いしながら降りたものだったけれど 今回は気楽なもんだ。 通路には僕とマルフォイしかいない。 もう1人の臨時教師は、きっと随分前の車両に乗ったのだろう。 ここからはその姿を確認することはできなかった。 列車が完全に止まり、先にマルフォイが降り立った。 外はもう真っ暗で、急にお腹が空いてきた。 「早く夕食にありつきたいよ。腹ペコだ・・・。」 「その前に・・・、感動のご対面が待ってるぜ・・・。」 そう言ったマルフォイの視線の先を辿ってみた。 はるか前方の車両から降りてくる、一人の人物。 小柄な魔女の姿が目に留まる。 どこか見覚えのある燐とした立ち姿。 そして嫌と言うほど見慣れた、ふわふわの茶色い髪。 その人物が何気なく僕のいる方を振り向く・・・。 「ハ・・・、ハーマイ・・・オニー・・・?」 そんな僕の小さな呟きが聞こえたかのように、 ハーマイオニーの手にしたボストンバッグがストンと落ちた。 そしてその顔に満面の笑顔を湛えると、 「ハリー・・・っ!!」 大きく叫んで、ボストンバッグもそのままに僕のいる方へ 猛ダッシュで賭けて来た。 そして僕もその場にバッグを放り投げると、 ハーマイオニーの駆けて来る方へ走り出す。 会いたかった・・・。 その彼女が今、僕めがけて走ってくる。 自然と顔が綻ぶ。 泣きそうになるくらい締まりの無い顔で 僕は彼女に向かって両手を広げていた。 得体の知れない感情が押し寄せてきて、今自分がどこにいるのか、 何をしているのかわからなくなっていた。 ポスンと軽い衝撃と共に、僕の胸に飛び込んできた彼女を強く抱きしめた。 あの頃と変わらない彼女の香りとやわらかさ・・・。 抱きつき癖は彼女の十八番だったから、この柔らかさは知っている。 そして・・・・。 押し寄せる感情に素直に従うかのように、 僕たちの唇は重なり合った。 ハーマイオニーとの初めてのキス・・・。   子供の頃のような軽いキスなんかじゃない。 深く深く・・・、 お互いを感じ取ろうとするかのようなキス・・・。 「・・・会いたかった・・・。」 「・・・私も・・・。」 そんな会話もお互いの吐息と共に、口内へと消えていく。 この時の僕は、ハーマイオニーが自分の家族だとか、 ロンの奥さんだとか・・・、 そんな事はすっかり忘れていて、 彼女を1人の女性として自分の胸に抱き締めていたんだ・・・。         ← Chapter.4 へ           → Chapter.6 へ


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禁断の恋の幕開けです。
もう誰も2人を止めることは出来ません。(あ、私も止められません。)

この後、マルフォイはやれやれと言いながら、
2人のボストンバッグを拾ってくれました。
しつこいようですが、これはハリドラSSではありません・・・。<黙れ

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