SOMEDAY 〜 Chapter.4 決心 〜
一通りの家事が済んで、私は一枚の羊皮紙と向かい合っていた。 朝方飛び込んで来た、マクゴナガル先生からの手紙に返事を書く為だ。 だけど羊皮紙と向かい合う事、既に1時間…。 まだ自分の中で答えは出ていない。 確かに学生の頃はSPEWに夢中になったり、 結婚前はそれなりに仕事もしていた。 仕事をすることは嫌いじゃなかったし、 寧ろ毎日夜遅くまで働きすぎだと思う位働いた。 だからロンと結婚を決めた時は、 仕事に対する未練はほとんどなかったのだ。 毎日が完全燃焼。 やり残した事も、まだやり足りないと思う事もなく、 すっぱりと主婦業に入る事が出来ていた。 なのにロンは私が働いていたほうが私らしいと言う。 どうして? 私はただロンに、喜んでもらいたいだけなのに…。 仕事で疲れて帰ってきたときに、 少しでもホッとしてもらいたいだけなのに…。 そう考える事は私らしくないの? いくら考えても堂々巡りするだけ。 私はまだ何も書いていない手紙をそのままにして、 ぼんやり風になびくカーテンをながめていた。 ****************************************** その頃、もう一人の人物の元にも同じ内容の手紙が届いていた。 彼も返事を書く手を止めて、妻に相談した時の 彼女の反応を思い返していたのだった。 「いい話しじゃない? 別にずっとというわけじゃないんだから、やってみたら?」 「だけどさ、今の仕事に不満があるわけじゃないし、 ・・・それに僕がホグワーツに行くって事は、 君と離ればなれになるって事なんだよ?」 「私は大丈夫よ! あなたがホグワーツに行ってくれればジェームズだって大喜びよ。 私も安心してられるし。」 「この事はジェームズは関係ない。 君と僕、夫婦の問題だ。 ジェームズはちゃんと一人でやってるよ。 それに、親の監視付きじゃかわいそうだろ? 君は大丈夫って言うけど、僕も大丈夫って事なのかい?」 「あら、あそこなら食事も洗濯もみんな屋敷しもべがやってくれるじゃない。」 そうじゃないだろ? 怒鳴りたい気持ちを抑えて、下唇を噛んだ。 僕たちは一応愛し合って結婚したはずだ。 僕だって君を愛していたからこそ、疲れていれば食事の支度もしたし、 なるべく話し相手になって愚痴を聞いたりもしていた。 夫婦の繋がりってそういうもんだろ? 愛していればこそ、自然と相手に対してしてあげたいと思うはずだ。 なのに君はそれさえも、屋敷しもべがやるから大丈夫だと言うのか? 「君はここで一人で暮らしていけるの?」 「ええ、大丈夫よ? あ、でもあなたがいなくなればここは広すぎるから、 職場の近くに部屋でも借りようかしら。」 ・・あなたがいなくなれば・・・、か。 ハハハッ・・・。 あなたがいなくなっちゃったら、とは言えないのか? 寂しいとか、やっぱり一緒にいたいから止めてとか、嘘でも言ってくれれば。 反対してくれるだろうと期待して、断りの返事を書こうと思っていた手紙は、 そのまま白紙のままで長い時間、僕の机の上に置かれていた。 だけど・・・。 それを眺めていた僕の心の中では、一つの決心が芽生えていたんだ・・・。 *************************************************** 「今帰ったよ、ハーマイオニー。」 「お帰りなさい。疲れたでしょ?」 「もう、くたくただよ。 今日の夕食はなに?」 ロンが私の頬に軽くキスをしながら聞いてくる。 いつもと同じ光景。 「今夜は貴方の希望を聞いてから・・・、 魔法で作ろうと思うの。 何がいい?」 「おいおい大丈夫かい?」 「何事も挑戦よ。」 「無理しなくていいよ。 あ、僕がやるよ? そのほうがきっと早いし美味い。」 そんな失礼な事を平気で言いながら、ロンはキッチンに入って行った。 わずか30分後、ロンに呼ばれてダイニングのテーブルを見れば、 それこそいくつものお皿が並べられ、美味しそうなご馳走が湯気を立ていた。 「あなた、こんな事・・・、得意だったの?」 「え?ああ、うん。 君には言えなかったけれど、得意中の得意だったんだ。 ・・・とは言っても社会人になってからだけどね? 学生の頃はママがみんなやってくれて、僕がやる必要なかったんだけど、 1人暮らしを始めてやってみたら、これがびっくりするほど上手だった。」 得意満面で言うロン。 だったら助けてくれればよかったのに・・・。 それなのに、私の失敗をただ笑っていただけだったの? 「学生時代いつも宿題を見てあげていた私に対して、 恩返ししようとは思わなかったってことね?」 「だって・・。 これは君が自分でやるって言ったんだよ? な?僕だってやれるんだ。 心配しないでホグワーツに行けよ。」 脱力した。 夫婦って・・・? 食事の支度をしたり、身の回りの事をするだけが妻の仕事だというなら、 私は結婚なんてしなかったわよ。 ロンと一緒にいたいから・・・。 その明るさが大好きで、とっても安心できたから・・・。 「私がホグワーツに行ったら、あなたはここで1人なのよ?」 「そんな事わかってるよ。 大丈夫。のんびりやるさ。 ね、ね、それよりデザートもあるんだぜ。 食べてみなよ。ホグワーツで食べたのと変わんないはずだよ?」 そう言って出された糖蜜パイ・・・。 一口食べると・・・、切なくて切なくて涙が零れそうになる。 この味。初めてこれを食べた時の思い出が一度にあふれてきた。 懐かしくて、ほんのりと温かくて・・・。 この味を覚えたくて、必死で練習していた自分。 なぜこんなに夢中になるのかわからなかったけれど・・・。 そしてあの日・・・、 これを美味しそうに夢中になって食べていた1人の少年の顔が浮かび上がり 必死で我慢していた涙が、ツゥ・・・っと頬を伝って流れ落ちた。 「ロン?私決めたわ。 ホグワーツに行かせて貰うわ。」 ← Chapter.3 へ → Chapter.5 へ
======== さあ、2人は決心しました。 次回でやっと2人は再会します。 そこでどんな気持ちの変化が現れるのか・・・? そして今まで2人がどうして連絡を取り合うことをしなかったのか、 少しずつ解明されていきます。 ロンの立場を擁護させていただくとすれば、 ロンはハーを想って働けと言っています。 自分が最愛の妻を閉じ込めることはしたくないんですね。 だけど、ハーの真意までは見抜けないでいるんです。 言葉にするって大切なんだよ、ハーちゃん!? ========