SOMEDAY 〜 Chapter.3     相手に望むこと 〜

真っ白なレースのカーテンを揺らして、一羽の見慣れない梟が飛び込んできた。 朝食の準備をしていた自分は気が付かなかったけど、 ロンの大きな声に自分宛の手紙が届いたことを知った。 「ハーマイオニー!  ちょっと、君に手紙みたいだよ?」 「待って、今手が離せないのよ。」 ちょうどフライパンからベーコンをお皿に乗せようとしていた時だった。 苦手な家事で、フライ返しにベーコンを乗せるだけでも大仕事なのだ。 「こっちだって手が離せないよ。  早くしてくれよ。  この梟に何かやってくれないか?」 ホーホーとうるさく鳴いている声がキッチンまで聞こえてくる。 私はベーコンをお皿に盛り付けるのを諦めて、フライパンをコンロの上に置いた。 隣のダイニングルームに入ると梟に1シックルを払い、 軽く嘴をなでてやると嬉しそうに梟はホーと鳴き、今来た窓から飛び立った。 そして後ろを振り返り、自分の夫を目に留める。 手が離せないと言っていた夫は、なぜかのんびりとコーヒーを啜りながら 新聞を読んでいる最中だった。 「ロン?  これのどこが手が離せないの?」 「離せないよ。新聞読んでるんだから・・・。」 「・・・・。」 「それより朝食はまだ?」 「・・・・もう出来てるわ。  今、運ぶところよ。」 「そう。  ところで、どこからだったの?梟便。」 あ・・・、忘れるところだったわ。 封筒を見ると懐かしいホグワーツの紋章が目に飛び込んだ。 「ホグワーツからだわ・・・。」 「え?どうして今頃?」 「わからない・・・。」 「開けてみなよ。」 「ええ・・。」 昔は毎年夏休みに届くホグワーツからの 「新学期の案内」の手紙が待ち遠しくて仕方が無かった。 6年生になる前の夏休みには、OWLの結果を運んできたこともあったっけ・・・。 だけど今頃私に何の用事があるんだろう? 卒業してからはここから手紙が届いたことは一度も無い。 ここからだけじゃないけど・・・。 手紙がこないのは・・・。 その理由は自分が一番良くわかっている。 手紙は懐かしいマクゴナガル先生からだった。 私がロンと結婚したことは知っているはずなのに、 なぜか書き出しは、Dear ミス・グレンジャー・・・。 気を悪くするどころかちょっとだけ笑ってしまった。 「なんて書いてあった?」 ロンが新聞から目を上げることもせず問いかける。 だから私も手紙から目を離さずに簡単に答えた。 「ホグワーツで臨時の教員を探しているんですって。  で、私に今学期から先生をやらないかって・・・。」 その言葉を聞いて初めてロンが顔を上げた。 「すっごいじゃん!  やりなよ、ハーマイオニー!」 「え・・・?やりなよ・・・って・・・。」 「どうして?こんな機会めったにないよ?  今は女の人だってどんどん働くべきだ。  そうだろ?」 「でも・・・。  ホグワーツの先生になるって事は、  ずっと向こうで生活するって事なのよ?  私がいなかったら、あなたの生活はどうなるの?」 「そんなの、どうにでもなるさ。  だって僕は魔法使いだぜ?  それに僕の稼ぎだけじゃ、君に贅沢な暮らしはさせてあげられないよ。  自分のためにも働いた方がいいだろ?  それに君は家庭にじっとしてるタイプじゃないよ。」 勝手に決め付ける言い方にすこしだけ傷ついた。 私には普通の主婦は似合わないってこと? それに私の望んでいるのは贅沢な暮らしなんかじゃないわ。 「ところでこのベーコン、ちょっと焦げ臭いけど・・・?」 「あ、ごめんなさい。  フライパンから下ろすタイミングが遅れてしまったの。」 「ふ〜ん。  魔法でちゃちゃっとやればよかったのに・・・。  相変わらず、料理の腕はあがらないなあ・・・。」 だったらあなたが新聞を読む手を止めて、 梟にお金を渡してくれればよかったのよ。 そう喉まで出かかったが言うのはやめた。 朝から喧嘩はしたくない。 「私はあなたの為に普通の奥さんでいたいの。  仕事から疲れて帰ってくるあなたの為に、  食事くらいは自分で作って待ってたいのよ?」 「そりゃ、ありがたいけどさ・・・。  でも、もうちょっと要領よく出来なきゃね。  それにさ、君の魅力はその行動力だろ?  家庭に縛られてたらその魅力も半減しちゃうよ。  そうだろ?」 「そ・・・そうね・・・。」 「ま、マクゴナガルに返事を書きなよ。  喜んでお受けします・・・って。  やらなきゃきっと後悔すると思うよ?  何を教えるんだい?変身術か?」 「変身術はマクゴナガル先生がいらっしゃるじゃない。  他の教科だと思うけど・・・。」 「まあ、君なら何でもできるよ。  家事以外なら完璧だ。  じゃ、行って来るから。帰りは多分遅いから先に休んでて?」 そう言うとロンは、ベーコンにはほとんど口をつけず、 1杯のコーヒーとトーストをかじっただけで仕事に出かけて行った。 ロンが出かけた後、お皿を片付け掃除をして洗濯をした。 魔法を使えばあっという間に片付くはずのそれを、 私はすべて自分の手で行った。 気付けばもうすぐお昼になる。 要領が悪いのかもしれない。 だけど、私は子供の頃からそういう家庭で育ってきたのだ。 魔法なんて知らない両親の元で。 歯医者を営んでいた私の両親は、仕事が忙しくてもいつも 私を温かい家庭の中で可愛がってくれていた。 どんなに忙しくても、ママは私と一緒に夕食をとってくれたし、 パパは寝る前に私に絵本を読んでくれていた。 それが私の理想だった。 そしてもう一つ。 私が家庭の温かさにここまで拘る理由。 ここまで手を抜かない理由。 それを考えた時、 自分の胸がキュッと痛んだ・・・。         ← Chapter.2 へ           → Chapter.4 へ


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賢者の石の映画で、ハリーがフライパンから不器用に
ベーコンを取り分けようとして失敗してましたよね?
あんな感じを想像していただければと・・・。(笑)
マグルで育ったハーマイオニーと、バリバリの魔法界で育ったロン。
環境の違いは生活の大きな障害になるんでは・・・?
大きなお世話ですけどね。
次回、お話が若干動き出します。公開は週明けだな・・・。

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