SOMEDAY 〜 Chapter.2 溝 〜
真っ暗な我が家の玄関の前に立ち、ポケットから鍵を取り出した。 時計を見るともう午後6時を回っていた。 随分長い時間、マルフォイと話していたんだな・・・。 その割りにそんなに時間が経った様には感じられなかったけど。 ダイニングのテーブルに鍵と時計を置く。 コトリ・・・と何気ない音が無性に寂しく感じられた。 息子がいないだけで、家の中がこんなに広く感じるなんて・・・。 いや、それだけじゃない。 息子がいる時だって、時々そんな風に思うことがあった。 子供の頃、あんなに嫌だったダーズリーの家でさえ、 こんな寂しさを感じたことは無かった気がする。 いつもペチュニアおばさんは家にいたし、 キッチンからは明かりが漏れていた。 お腹いっぱいになるほどの食事にはありつけなかったけれど、 それでもあの家からはいい匂いがしていた。 でも、この家からは・・・。 「何、子供みたいなこと言ってんだ。」 誰ともなしに呟いてはみたけれど、 あまりのネガティブな考えに自分自身突っ込んで、 慌てて家の中の明かりを点けて回る。 仕事で疲れて帰ってくるであろうジニーの為に、 キッチンでコーヒーを落とした。 「ハリー!ハリー!?」 ん・・・? あれ、寝てた? 「どうしたの?こんな所で寝てると風邪をひくわよ?」 「あ?ああ。お帰り、ジニー。」 「すっかり遅くなっちゃったわ。 全くあの上司ときたら、人をこき使うことに関しては天才的よ! いくら私が黙って言うことを聞くからって、もう9時過ぎだわ・・・。」 「え・・・?もうそんな時間?」 「やだ、気付いてなかったの? 食事は?」 「まだだけど・・・。君は?」 「私は軽く済ませたわ。ハリーはどうする?」 どうする・・・って・・・。 まあ、寝ちゃった僕がいけないんだけど・・・。 「おなか・・・すいた。」 「そう?じゃ、なにか買ってくるわ。 サンドイッチか何かでいい?」 「いや、いいよ。それより何か作ってよ。 有り合わせでいいからさ。」 「・・・・。 ハリー。私も疲れてるのよ? 悪いけど・・・。」 そうか。 そうだよね。 今まで仕事してたんだもんね? これは男のわがままなんだ。 「うん、ごめん。 いいよ。僕買いに行ってくるから・・・。 先にシャワーでも浴びて休んでなよ。」 「ええ。そうさせてもらうわ。 明日も早いのよ。」 大変だね?ってどうして言ってやれないんだろう。 無理するな・・・って、どうして労わってやれないんだろう? 言うべき事は沢山あるはずなのに、僕の口からは彼女を非難するような 言葉が飛び出していた。 「ジェームズがママによろしくってさ。 君は真っ先にその事を聞くと思ってたよ。」 微かにコーヒーを淹れた残り香・・・。 それさえもジニーは、僕に聞くことをしなかった・・・。 ************************ 家に1番近いハンバーガー・スタンドで簡単な夕食を調達した。 周りを見れば仕事帰りのサラリーマンや、1人暮らしの学生が、 思い思いの食事をしながら、雑誌を読んだり店のテレビを見たりしている。 こんな時間なのに結構いるもんなんだな・・・。 家ではジニーの仕事が忙しくて、僕が夕食の支度をする事がよくある。 普段は息子もホグワーツにいるので、あまり凝った事はしないけれど、 それでも料理をするのは嫌いじゃなかった。 夏休みに息子と2人でパエリアを作った時なんて、 自分はシェフになればよかったと、冗談抜きでそう思ったりもした。 ジニーだって料理は上手なんだ。 モリー義母さんの娘だもんな、下手なわけない。 でも・・・。 あまり彼女の手料理は食べたことはなかった。 ジニーが仕事をしたいと言った時、僕はそれに賛成した。 いくら夫とはいえ、彼女を束縛するのは嫌だったからだ。 それに僕は彼女の明るく、行動的な部分が大好きだった。 家庭に縛り付けることで、そんな彼女の魅力が半減するのは嫌だった。 別に家計が苦しいわけじゃない。 僕だけの稼ぎで十分暮らしていける。 だけど、今じゃ女の人だって外に出るべきだ。 仕事を持っていたってそんなの当たり前だ。 理想はそうだ。 でも僕は自分の育った境遇がどんなだったのか、忘れていたんだ。 僕の欲しかったのは、温かい家庭。 いつもいい匂いのする家庭。 子供が母親と仲良くしている家庭だ。 母親がバリバリと仕事を優先する家庭じゃない。 だけどそれは僕のエゴだ。 ジニーに押し付けちゃいけない。 こんな所で食事をしている自分が惨めで、 サンドイッチを頬張りながら慌てて席を立ち、 今日二度目の家路についた。 ← Chapter.1 へ → Chapter.3 へ
======== どうでもいい事はさらさら〜っと流してしまいましょうね。 次回、もう片方の家庭の様子も浮き彫りになります。 ========