His Birthday 7
さすがは学年一・・・いや、ホグワーツ一の秀才と言われるだけの事はある。 彼女がこの呪文を使うのは初めてのはずなのに、 僕はあっさりと彼女の前で、自分の心の中を曝け出していた。 組み分け帽子に「スリザリンはだめ!スリザリンはだめ!」と囁く僕。 ハーマイオニーと一緒に透明マントを被り、 ノーバートを塔の上まで運んでいる。 グリフィンドールの剣がバジリスクの身体を貫く・・・。横たわるジニー。 アンブリッジの暖炉を使ってシリウスとコンタクトを取ろうとする僕。 脈絡もない思い出が次々と現れては消えていった。 呼吸が乱れる。 苦しい・・・、もう、やめてくれ・・・。 僕は必死の思いで彼女の目を見つめた。 すると今度はふっと呼吸が楽になり、 まるで雲の上にいるような浮遊感を感じ始める。 バックビークの背中に彼女と二人で乗っている。 ロンとの喧嘩で苛々する僕の前に、 ナプキンに包んだトーストを持って立っているハーマイオニー。 心配そうにマートラップの液体を僕に差し出すハーマイオニー。 これは・・・いつだろう? 突然僕に抱きつく彼女。 しょっちゅう抱きつかれてるから、いつなのか判断できない・・・。 ちょっと待て。 さっきから彼女しか出てこないじゃないか・・・。 これじゃあまるで僕が、いつもいつも彼女の事を考えてるみたいじゃないか? いや、だめだ。 この感情は危険すぎる。 僕の本能が警告を発する。 違う違う! 僕が彼女を思う気持ちは、親友としてだけで愛とか恋なんかじゃないはずだ。 だって・・・、 彼女の好きなのは多分ロンで、僕の好きなのはジニーのはずなんだ。 いつも彼女に助けて貰ってばかりいるから、 心の中は彼女でいっぱいになってしまうんだ。 これ以上覗かれたら一体何が飛び出してくるやら、僕は急にあせりを感じた。 全神経を集中させて彼女の呪文を跳ね除けた。 何キロも走った後のように荒い息をする僕に、 彼女は心配そうに声を掛ける。 「ハリー?大丈夫?」 「うん・・・。多分大丈夫・・・。  どう?満足したかい?」 そう言って軽く微笑んだ。 「ごめんなさい。・・・苦しかったでしょう?」 「いや、大丈夫。君と違って心の準備が出来ていたから・・・。  僕は君に何の断りもなく、心の中に進入したからね・・・。  だけど・・・、  こんなに君の事ばかり出てきたんじゃ、  ヴォルデモートの格好の餌食になっちゃうね。」 そう・・・。 もしこれがヴォルデモートに掛けられた呪文だったら、 彼女が奴の狙いになるのは避けられないと思った。 僕の本能が警告を発した理由はそこにあったのだ。 「ごめん。  僕にとって君は大切な親友だ。  辛い時助けてくれるのもいつも君だよね。  だから、こうやって心の中では、君に助けられた思い出ばかりが顔を出す。  自分が弱い証拠さ。」 「・・・親友・・・。」 「そう、親友。」 きっぱりと彼女に言い放つ。 彼女は何か言いたそうにしていたが、 僕はなぜかこれ以上何も聞いてはいけない様な気がしていた。 自分の気持ちの中で、彼女を失う事だけは避けたかったので、 もしここで僕が何かを言えば、きっと取り返しのつかない事になる。 彼女が僕に何を言いたいか・・、 そしてそれに対して自分が何て応えたいのか、 はっきりと自覚した僕に言えるのは、 「君は僕の親友だ。」という事だけだった。 そんな気持ちをごまかすように、わざと明るい声で話題を変える。 「さあ、これで気が済んでくれた?  もうこの間の事は許してもらえるのかな?」 「・・・そうね。  これでおあいこになったもの。」 「よかった・・・。  じゃあ、明日からは白昼夢呪文に対しての仕返しを再開させてもらうよ。」 「ちょ・・・ちょっともういいじゃない!  これでおあいこでしょう?」 「これはこれ。  だって・・・、君のおかげで僕はジニーとみんなの前でキスしちゃったんだよ?  あの責任は大きいだろう?」 「私はジニーの夢を見るように仕掛けてなんかいないわ!  あれはジニーのラブポーションの力か、それとも・・・」 「それとも?」 「あなたのジニーを想う潜在意識がそうさせたのか・・・。」 「・・・させたのか・・・?」 「本当にあなたがジニーを好きなのかのどれかだわ。 潜在意識・・・? 本当にジニーが好き・・・? 残酷な事をいうなあ、君は。 「僕の心の中をあれだけしっかり見ておいて、  ジニーへの思いは僕の潜在意識の中にあったって言うの?」 「え?・・・だって・・・」 「・・・・。  ま、いいよ。君がそう言うのならそれで。  その方がきっといいんだ。」 「どういう意味?」 「いや。意味なんてないよ。  それよりさ、仕返しが嫌なら一つお願いがあるんだけど・・・?」 「な・・・なあに?」 「そんなビクビクしないでよ。  大した事じゃないんだ。  来週僕の誕生日がくるだろ?  一日僕と付き合ってくれないかな?」  
ハリーは自分の中で一つのけじめをつけるつもりで、
ハーをデートに誘いました。
悪ふざけの中で気付いた自分の気持。
でも、この想いはハーに告げる事はできません。
さて、男としてのけじめをハリーはどうつけるのでしょうか?