His Birthday 3
「レジリメンス・・・。」 囁くように唱えた呪文の向こう側で、 ハーマイオニーがハッと息を呑む声が聞こえたような気がした。 すると何の前触れもなく、僕の頭の中に、今見ている光景とは 全く異なる光景が流れ込んできた。 これは今ハーマイオニーが考えていた事なのだろうか・・・? 今更ながら罪悪感を感じて、それを見ないようにとギュッと目を瞑った。 しかし呪文の効果は薄れることなく、最大限に発揮されている。 目の前に立ちはだかるトロール。 こん棒を振り上げ、今まさに襲われるかと思う瞬間に どこからか「逃げろ!」と叫ぶ声が聞こえる・・・。 ブラッジャーが僕の腕を直撃し、バランスを崩しながら箒から投げ出される瞬間・・・。 嵐の中のクイディッチ・・・。 はるか上空から僕が落ちてくる・・・。 ディメンターが湖の向こう側からこちらに向かってくる。 「ハーマイオニー!何か幸せな事を考えるんだ!」と叫ぶ僕の声。 ふと目を開けると、ハーマイオニーが苦しそうに荒い息をして震えていた。 これ以上ダメだ! 「ハーマイオニー!?  ・・・ハーマイオニー!!」 彼女の体を強くゆすって意識を覚醒させる。 すると、かすかに目を開けたハーマイオニーの目からすうっと涙が零れ落ちる。 「大丈夫?ハーマイオニー?」 僕の問いかけに何も答えず、右手で涙を拭いまっすぐに僕を見つめる。 そしておもむろに立ち上がると・・・・、 バシッ!! 彼女の右手が僕の頬を打った。 「楽しかった・・・?」 そう一言言うと、本もそのままに彼女は図書室から出て行ってしまった。 ・・・・最低だ。 彼女の心を読もうなんて・・・、一体何を考えていたんだ? ちょっとした冗談のつもりが、彼女を傷つけて何になる? 彼女に打たれた左頬をそっと触ると、何か冷たいものを感じる。 「涙・・・?」 ああそうか。 涙を拭った手で僕をひっぱたいたからだ。 だからこれは彼女の流した涙なんだ。 「ごめん・・・、ハーマイオニー・・・。」 そこにハーマイオニーはいなかったけれど、 僕は口に出して彼女に謝罪していた。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 それからというもの、彼女はとことん僕を避けるようになった。 当たり前だ。 友達に対して使っていい魔法ではない。 ましてや、親友の僕が女の子の親友に対して 無遠慮に心の中を覗こうとするなんて・・・。 自分の無神経さに腹が立った。 でも、このままでいいわけがない。 彼女にきちんと謝らなくては。 許してもらえる自信は全くなかったけれど、 彼女とこのままでいるのは辛い。 「おい、ハリー?  ハーマイオニーと喧嘩でもしたのか?」 「・・・・。」 「何?図星かよ。  仕返しとか言って、ひどい事したんじゃないだろうな?」 「した。」 「マジかよ?」 「最低も、思いっきり最低な事をした。  彼女、口をきいてくれないどころじゃない、  僕の前に姿も現さないよ。」 「何をしたんだ?  そんなに彼女が怒ることって・・・、覗きでもしたか?」 「うん。覗いた。」 「おいおいおい!ホントか?  風呂場でも覗いたのか?」 「・・・・。」 風呂場を覗いて怒られる方がどれだけマシだったか・・・、と 不謹慎な事を考えてる事自体、又彼女に怒られる原因になるんだろうなあ? 「風呂場じゃないよ。彼女の心の中を覗いた。」 「・・・へ?」 「つまり・・・彼女に対して開心術を使ったって事だよ。」 そこで深いため息をつくと机の上に顔を伏せた。 「ねえ、ロン。どうしたらいい?」 「どうしたらって言ったって・・・。  そりゃ彼女も怒るのは無理ないよ。  どうしてそんな・・・。  だけどハリー。よくそんな高度な魔法を使えたね?」 「感心してる場合じゃないだろ。  だけどさ・・・、かなり酷い事しておいてこんな事を言うのは間違ってるかも  しれないけどさ・・・、そんなに怒るほどの内容じゃなかったと思うんだよね。  彼女も僕に何を見られたのか解ってるはずなんだけど、  どうしてあんな事を見られた位で、僕を避けるんだろう・・・?」 ロンは聞いていいのか躊躇っているようだったけれど、 「で?ハーマイオニーの心の中って・・・?」 と、恐る恐る聞いてきた。 「1年生の時トロールに襲われて、僕が逃げろって叫んだ時の事と、  ブラッジャーが僕の腕を強打した時の事・・・、それから  僕がクイディッチの試合で箒から落ちた時、  ・・・・あとは・・・、ハーマイオニーと2人でディメンターに  襲われた時に、僕が励ましてあげた事だったかな・・・。  ね?彼女が見られて困る事なんて一つもないだろ?」 縋る様な目でロンを見ていたが、ロンはなぜか「ふ〜ん」と言って 理解したような顔をした。 「やっぱり君は相当彼女に対して酷い事をしたようだ。」 え? どうしてそうなるんだよ。 何が彼女の癇に障るっていうんだ? そりゃ開心術を使った事自体、申し訳ない事だとは思うけれど・・・。 「どの辺が・・・、酷かったんだ?」 「自分で考えろよ。自分で気がつかなければ意味がない。」 あっさりと冷たいことを言うロンを、恨みがましい目で見つめた。 「そんな目をしたってだめだよ、ハリー。  さあさあ、こんな所で悶々としてないで  彼女を探してとっとと仲直りしてこいよ!」 「どこにいるか解んないよ。」 「馬鹿だなあ。  君には "忍びの地図" があるだろう?」 忍びの地図か・・・。 自分で悪い事をしておきながら、何も教えてくれないロンを冷たい奴だと心の中で罵って、 僕は足取りも重く、部屋に "忍びの地図" を取りに上がった。         
甘いお話を作ろうとしてたのに、
ハリーとハーマイオニーはほとんど絡んでいません。
逆にハーにひっぱたかれてしまうハリー。
果たして二人は仲直りできるのでしょうか・・・?