SOMEDAY 〜 Chapter.1 旅立ち 〜
九月一日。 キングズクロス駅。 9と4分の3番線は、大勢の子供達とその両親達で大変な賑わいを見せていた。 そんな雑踏の中で一際幽玄に白い煙を吐くホグワーツ特急。 既に席を確保する為に乗り込んだ子供達が、 窓越しに両親と別れのキスを交わしている。 そんな様子を何も喋らずじっと見詰めている一人の少年がいた。 「どうしたんだい?何か気になるものでも?」 息子の様子が気になって、自分とそっくりの碧の目をした我が子を覗き込む。 「あ、ううん。何でもないよ、パパ。 ・・・でも・・・」 「・・・? でも、なんだい?」 我が子が何を言おうとしてるのか本当は解っていた。 僕は子供の目を避けながら聞き返した。 「どうしてうちはパパだけなの? どうしてママは来てくれないの?」 「パパだけじゃ不満かい?」 「・・・そうじゃないけどさ・・・。」 いや、彼は不満なはずだ。 今年2年生になる息子は、さっきから両親揃って見送りに来ている家族を 羨ましそうに見ていたのだから。 「去年だってママは来てくれなかった・・・。」 「仕方ないだろ?仕事なんだ。」 「でも! パパは仕事を休んで来てくれるじゃないか。」 「ジェームズ。 しばらく会えなくなるんだ。 言い争いはやめよう? さあ、パパにお別れのキスをしてくれないか?」 じっと僕の顔を睨んでいたジェームズは、 諦めたように小さなため息をつくと、そうだね・・・と笑った。 「ごめんなさい、パパ。 パパが来てくれた事が不満なわけじゃないんだ。 ただ少しだけ寂しかっただけだよ。 ママによろしく伝えて? 僕、頑張るからね・・・って。」 「わかった。 くれぐれも減点されないように頑張れよ。」 「パパに言われたくないよ〜。」 そして二人で笑った。 息子を無事見送り、ホグワーツ特急の姿が見えなくなると、 僕は安心して軽く微笑んだ。任務終了----。 さて、休みも取った事だしロンドンの街でも久し振りに歩いてみようか・・・ と思った瞬間、 「ポッター?」と突然声を掛けられた。 え・・・? マ・・・マルフォイ? そこには卒業以来見かける事もなかった、 色の白いグレーの瞳を持つドラコ・マルフォイが立っていた。 学年時代、彼とはほとんど接点はなく、 接点どころか顔を見ればいつも突っ掛かってくる嫌な奴だった。 その彼が自分から話し掛けてくるとは・・・。 ちょっとびっくりしながら、それでも何とか挨拶だけはと、 「や、やあ。マルフォイ。久し振り・・・。」と笑って見せた。 「卒業以来だな。 相変わらず元気そうじゃないか。」 「お蔭様でね。君も元気だった?」 「ああ。 何だ?子供の見送りか?」 「うん。今年2年生の息子のね。 君もかい?」 「うちは3年だ。」 「そう・・・。」 何だかマルフォイと普通に話している自分が信じられなかった。 あんなに嫌っていたはずの男と笑顔さえ浮かべて話している。 だけど不思議と学生時代に感じていた嫌悪感は全くなかったのだ。 「どうだ?暇ならこれから少し付き合わないか?」 「いいね。ちょっと時間を潰して帰ろうと思ってたところさ。」 「一人か?奥さんは?」 「仕事。君こそ奥さんは?」 「家もだ。お互い大変な事だ。」 そう言って笑うと9と4分の3番線の柱を交互に通り抜けた。 ******************* マルフォイと一緒に立ち寄ったのは、以前なら決して彼はこんな所には 来ないだろうと思われる、マグルの小ぢんまりとしたカフェだった。 そこで彼は彼らしくアールグレイの紅茶を、 僕は平凡にコーヒーをオーダーした。 「ポッター。 お前、ウィーズリーの末っ子と結婚したんだってな? どうだ、大家族の中での生活は?」 僕は久しぶりに会った、学生時代に仲の悪かった友人に、 本来なら当たり障りの無い答え方をして適当にあしらう事もできたはずなのに、 なぜか馬鹿正直に本音を話して聞かせた。 「大家族じゃないよ。 今はロンドンでジニーと子供の3人暮らしさ。 隠れ穴ではウィーズリーのおじさんとおばさん・・・、 僕にとっては両親だけど、2人っきりで暮らしてる。 ロンはハーマイオニーとスコットランドにいるよ。 ウィーズリーの家族が一緒に集まることはほとんどない。 みんなそれぞれの生活で忙しくてさ。 僕はひと月に一度は隠れ穴に両親の様子を見に行くようにしてるけどね。」 「なんだ。そんなもんか?」 「そうだよ。 ロンとハーマイオニーに会ったのは、卒業してから2回だけ。 僕の結婚式と彼の結婚式の時だけだ。 だから今は何をしているのか知らないんだ。」 「手紙は書かないのか?」 「・・・うん。・・・どういうわけかね・・・。」 いや、手紙のやり取りをしない理由は僕が一番よく知っていた。 だけど、その事をマルフォイに話そうとは思わなかった。 「そうか・・・。 いや、家庭にはそれぞれ色んな理由があるからな・・・。 学生時代のままの自分でもなくなるし。 だけどあの頃、スリザリンの寮の中では、てっきりお前とグレンジャーが くっつくと思ってた奴の方が多かったんだがなあ。 実際僕もそう思ってた。」 「まじで?」 「ああ。 賭けの対象になってたんだぜ。 パーキンソンなんて、負けてしばらくは酷いもんだった。」 「人をネタに遊ぶなよ。」 ああ・・・、と言って静かに笑うマルフォイに心が和んだ。 「だけど・・・。 どうして僕になんか声を掛けたのさ? 前はあんなに顔を見れば突っかかってきたくせに。」 「ばーか。 大人になったってことだろ? 今更おまえとやり合ったって何の得にもならないさ。 今じゃただのハリー・ポッターだろ?」 「うん。そうだね・・・。 ただのポッターとマルフォイだね・・・。」 あれだけ特別な存在だった僕が、卒業から何年も経って、 ヴォルデモートもいなくなった今では、本当にただの冴えない魔法使いでしかない。 魔法省でそこそこの地位は与えられているとはいえ、 学生時代の頃のような覇気が、今の僕には不足していた。 平凡な毎日。 平和な日常。 だけど、どこか満たされない心。 そんな僕の気持ちを見抜いたのか、マルフォイが眉間に皺を寄せ尋ねる。 「お前、幸せじゃないのか?」 ・・・・。 「どうしてそんな事を聞くんだい? 幸せそうに見えない?」 「ああ。お世辞にも幸せでしょうがないようには見えないな。」 「するどいねえ・・・。」 だけどそれ以上彼は何も聞いてこなかった。 聞かれても多分、自分でも答えられなかったと思うけど。 だって、これが当たり前だと思っていたから。 愛する人と結婚して子供も授かり、 大親友の2人とは家族と言う繋がりまでできた。 家庭を知らなかった僕が、一度に与えられた幸せ。 これを幸せじゃないなんて言ったら、それこそ罰が当たる。 だけど・・・。 「ねえ、マルフォイ。 又時々会ってくれない? 知ってる顔が近くにいないんだ。」 「なんだ?僕は間に合わせか?」 「そんなんじゃないよ。 君とこうして話してると肩の力を抜いて話せるんだ。 どうして学生時代あんなに喧々囂々としてたのかわかんないよ。 もし迷惑じゃなければ・・・だけど。」 「迷惑なんかじゃないさ。 僕も周りにはマルフォイ家におべっかを使う奴ばかりで辟易してるんだ。 お前みたいに何の利害関係も無い奴と話すのは楽しいよ。」 そう言ってお互いの携帯電話の番号と、住所を書いた紙を交換した。 思いもよらない出会いに少し気持ちが軽くなって、 今日仕事をキャンセルして息子の見送りに来て良かったと思った。 ジニーとは、どちらが仕事を休んで見送りに行くかで少し揉めていたから あの時僕が譲らなければ、こうしてマルフォイに会うこともなかっただろう。 自分の迷いに気付いてくれた彼を、ほんの少し身近に感じて、 少しだけ温かくなった心で家路についた。 → Chapter.2 へ
======== 身の程知らずに連載スタートです。 断っておきますが、これはハリドラ連載ではなく、ハリハー連載です。(笑) ハリジニ、ロンハー前提でスタートです。 ハリハーがいちゃこらするのはまだまだ先になりそうですが、 辛抱強くお付き合いくださいませ。 クリスマス前には完結の・・・予定? ========