House 4-4 |
「だから!これじゃあの女とやってる事は同じだろう!?」
「これは私の仕事よ!プライドを持ってやってる事をとやかく言われたくないわ!」 「これのどこがプライドを掛けてるって言うんだよ。友達を出し抜いて楽しいのか、君は?」 外のテラスに座って、凄まじい剣幕で捲し立てる僕を、道行く人が怪訝そうに振り返って行く。 そんな事全く気にならなかった。チョウの顔を見た途端、押さえていた怒りが又込み上げてきて、テーブルに例の新聞を叩きつけた。 テーブルの上の水の入ったコップが倒れそうになって、新聞にバシャリとかかった。 「・・・どうしてあなたがそんなに怒る事があるの?」 「当り前だろう。親友を出し抜かれて黙ってる男とでも思ってるの?これを読んだ彼女がどれほど傷ついているか・・・」 「・・・ハーマイオニーと、会ったの?」 「・・・あ、いや・・・」 思わず口が滑ってしまった。彼女が僕の所に来てる事を知られてはいけない。クラムとの熱愛どころか、僕とまで噂になってしまうわけにはいかなかった。 「そうじゃなくて。そんな事会わなくたってわかるだろう?ロンに読まれたりモリー叔母さんやアーサーおじさんだって!」 「ロン・・・って、Mr.ウィーズリーのこと?」 「他に誰がいるんだよ」 「・・・あなた、もしかして・・・?」 「なんだよ」 しばらくチョウは無言で僕の事を見つめていた。そしてあからさまに肩をすくめて楽しそうな顔をする。 「・・・そうね。あの記事がMr.ウィーズリーの目に入ったら、そりゃ大変だわ」 「ふざけんなよ。からかってるのか?」 何だか馬鹿にされたような気がして、チョウを思い切り睨みつける。 「あなた、この新聞読んだのよね?」 「だからこうして・・・」 「わかってる。だからこうして怒ってる。でも、ちゃんと読んだの?何かおかしいなとは思わなかった?」 何を言ってるんだ?おかしなことだらけで・・・。 「何が言いたいんだ?」 「・・・まあ、いいわ。よくわかった。あなたは昔から彼女の事になると一生懸命で我を忘れちゃうのよね。要は・・・。 自分が腹を立ててるって、ことでしょう? 自分が傷ついたのよ。Mr.ウィーズリーがどうとか言ってるけど、本当はそんな事じゃないんだわ」 「・・・・っな!」 「それともう一つわかった事がある。あなた、彼女と最近会ってるわね?」 どうして?どこからそんな発想になるんだ?彼女が僕の部屋に来るのは姿現しで来るはずだ。見られてるわけがない。 「カマかける気?」 「あら。今のあなたの反応を見てればわかるわよ。何年も会ってない親友の事を気遣ってる風にしては、少し異常だもの」 異常?どこが?親友を悪く書かれて怒らない奴がいるのか。 確かに僕は、その親友の事を密かに想っていたから過剰な反応を見せてしまうのかもしれないけれど・・・。 でも知られてはいないはずだ。決して。 「まあいいわ。一応断っておくけど、これは仕事なの。上からの命令じゃ私だって逆らえない。 これが例え恋人のあなただったとしてもよ。これからも私はグレンジャーの担当だし、記事を書くために彼女を追ってなきゃいけない」 「じゃせめて。金輪際僕の所にあんな新聞は送ってよこさないで」 それだけ言うのが精一杯だった。 仕事と言われれば確かにそうなのかもしれない。上からの命令で動いているのなら尚更だ。 だけど、いかにも面白がって僕に記事を送ってよこすような無神経さに腹が立った。 今度からはもう少し慎重に行動するように、ハーマイオニーに言っておかなくちゃ。 隙を見せなければ付け込まれる事もない。透明マントを渡しておいて、本当によかったと僕はその時思った。 「ねえ、それより。明日は休みなんでしょう?何処か飲みに行きましょうよ。まさか私を怒鳴り散らすだけでさよならなんて言わないわよね」 こんな怒りを抱えたままデートしろってのか? まったく女ってのはわからない生き物だ。これだけあからさまに嫌悪感をぶつけても、これっぽっちも堪えていないらしい。 「こんな気持ちのままデートして楽しいかい?」 「怒鳴られっぱなしで別れるよりましだと思うけど」 「・・・・」 「これでも一応悪いと思ってるのよ。お詫びに奢るから少しだけ付き合って?だめ?」 そんなしおらしい顔をして見せたって騙されないよ。 だけど自分にもやましい事があったのは事実だった。頻繁に彼女とは会っているのにそれを隠そうとして・・・。 だからというわけじゃないけれど。 「少しだけだよ。実は病み上がりであんまり調子が良くないから」 一応恋人と言う立場のチョウを無碍にもできず、僕は引き摺られるようにしてタクシーに乗せられていた。 *** 家に戻るとハーマイオニーが来ていた。 「おかえりなさい、ハリー!」 「あ、ああ。ただいま」 ただいまなんて・・・。ちょっと気恥ずかしい。 「身体の調子はどう?久しぶりの仕事で疲れなかった?」 「うん、大丈夫。ありがとう」 僕の上着を肩から脱がそうと、さり気なく後ろに回って手を差し出してくれる。 昼間チョウとあんなに言い合っておきながら、ちょっとの事で気が緩んで、すべてに身を委ねたくなってくる。 ハーマイオニーはそんな存在だった。 「ねえ、ハーマイオニー。今日昼間、チョウと会った」 「わざわざ恋人と会った事を私に報告しなくてもいいわよ」 くすくす笑って僕の上着をハンガーにかけている。 これってちょっと落ち込むシチュエーションだよね。チョウと会ったって聞いても、さほど気にしてないらしい。あ、当り前か。 「これからも君を追いかけまわすって宣言されたよ」 彼女が極力気にしないように、洗面所で手を洗いながらさり気なく伝えた。 だけど彼女が気にしたのはそっちじゃなくて・・・、 「私が会いに来てる事・・・知ってるの?」 あれ。 気にするのは追いかけられるって事じゃなくて、ここにきてる事を知られるのが嫌なの? 「いや。そっちはちゃんとごまかしておいたよ。疑ってるみたいだったけどね。でも、それより気にする事が違うだろ?」 「ううん。私がチョウにどれだけ追いかけられたって平気よ。でも、ここに私が来てる事を知られたら、あなたに迷惑が掛っちゃうじゃない」 「・・・ハーマイオニー・・・」 「恋人のチョウにだって誤解されちゃうでしょう?魔法界を去ったあなたが、また預言者新聞のネタにされるなんて我慢できないわ」 まったく君って人は・・・・。 「ありがとう、ハーマイオニー。でも僕の方こそ気にしないで。僕も君が誤解されるような扱いをされる方が堪えるよ。」 そう言うと彼女は、ちょっとはにかんだ様に頬を染めて嬉しそうに微笑んだ。 僕は抱きしめたくなる衝動を抑えるのに、きつく拳を握りしめなくてはいけなかった。 |
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