House 4-2

チョウが僕に何を・・・?
大きさからいって、ただの手紙じゃなさそうだ。
A4サイズくらいあるその大きさの封筒は、厚みも結構あった。

「なんだろう・・・」
「・・・私、夕食を作ったのよ。用意してくるわね・・・」

気を使ったのか、そのままハーマイオニーはキッチンへ向かった。自分のためにわざわざ食事の用意をしてくれたんだ。嬉しさ反面、一体彼女はどういうつもりなんだろう。
そんな事を考えながらチョウからの封筒を開けてみる。
・・・新聞?
そこには懐かしい日刊預言者新聞が入っていた。あぁ、そうか。彼女はそこの記者をしていたんだっけ。前に会った時、凄いスクープがあると話していたことを思い出した。
わざわざ僕に送りつけてくるなんて、よっぽどのスクープなのだろうか?
他人のゴシップになんてほとんど興味はないけれど、僕はそれを開いて膝の上に乗せた。
そこには今の魔法省大臣のコメントやら、クィディッチの順位表などが、写真入りで載せられている。
一面をさっと見たところ、特に僕の気を引くような記事はない。
・・・?
一面じゃないのかな?
パラパラとひっくり返して見ていくと、そこにチョウの手書きのメモがはさんであるのに気がついた。

前に話したと思うけど、4面の記事は私がスクープしたのよ!
あなたにもきっと興味があると思って。
感想はまた会ったときにでも聞かせてね。
ついでにこの件について何か知ってることがあれば、破格な値段で取引させてもらうわよ。


・・・4面だって?
僕の興味のある話題?

と、そこには。

突然に飛び込んできた見知った人物の写真。
しかも、二人とも知っている。
その二人は人目も気にせず、お互いの耳元で仲睦まじく何かを囁き合っている。
その会話の内容まではわからないが、その人物の一人の腕はもう一人の人物の腰にまわされている。

その記事のタイトルは、

ホグワーツ魔法魔術学校現職職員とクィディッチのスーパースター 白昼堂々の熱愛現場

・・・なんとも下世話なタイトルが記されていた。

どんな意図をもってこれを僕に送りつけてきたんだろう。これを見て僕にどう感じろと?
そりゃあ腸が煮えくりかえるほどの怒りは感じている。
なぜ?どうして?
そんな疑問だって頭の中を支配するような内容の記事だ。
だけど。
これを見て怒る権利は僕にはない。
これを見て怒っていいのは、僕のもう一人の親友だけだ。

「ハリー?温かいうちに食べて」

そう言いながら手にお盆を持って、ハーマイオニーは僕の寝ているソファの下にちょこんと座った。

僕はそんな彼女をじっと見た。
そこにいるのは前より少しだけ痩せて、大人びた表情のよく知った親友。
若々しくてとても結婚しているようには見えない。
本当にあの頃のままと言ってもいい位の・・・、愛しい女性。

「どうしたの?具合、悪い?」

心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。手には作ったばかりの熱々のオニオングラタンスープ。

「・・・君は、まだ日刊預言者新聞を読んでる?」

学生だったころ彼女は定期的にこの新聞を読んでいた。今もそうだとしたら・・・。

「え、ええ。それが何か?」
「・・・今は、ホグワーツで先生をしてるんだ・・・」

一瞬彼女の顔が翳った。どうして僕が知ってるんだろう・・・という顔だ。

「これ。たった今君が玄関から持ってきた封筒の中に入ってた。差出人はチョウだよ」

彼女からスープの乗ったお盆を受け取ると、代わりに今見ていたページを上にして彼女に渡した。

「・・・・っ!!」
「ここに載ってるの・・・、君、だよね?」
「ハリー・・・、私・・・」

彼女の眼が驚きに、見る見るうちに大きくなってきた。
驚きとショックで唇がわなわなと震えている。ショックなのは僕も同じだ。
だけど、僕に怒る資格はない。そんな立場でもない。でも・・・

「君はクラムとも付き合ってるの?こうしてロンの目を盗んで僕に会いに来る傍ら、クラムの所にも通ってるんだ・・・」
「ち、ちがうわ」
「違う?君はそんな浮気性だったっけ?」

一方的に彼女を責めるような言葉が突いて出た。

「だってほら、ここ読んでみなよ。”週末は必ずホグワーツから離れて何処かに泊ってる”って」
「浮気なんかしてないわ、だって・・・」
「どうだか?クラムの都合が合わないと僕の所なわけ?」
「ハリー、お願い、聞いて」

「僕もそのうち、その浮気相手の一人になっちゃうんだ・・・」

お願いだから、こんな事を言わせないで。
君は今まで通り、ロンの所に帰って。
そして、もう二度と・・・・!!

もう二度とここへは来ないで、とは・・・、言えなかった。

「・・・少し眠りたい。今日は帰って」

寂しそうに俯く彼女に、それ以上は何も言えなかった。
彼女にしてみれば、どうしてこんなに僕が取り乱すのかわからなかっただろう。
いや、きっと。
ロンをないがしろにして、自分が浮気をしている事を咎められてると考えたかもしれない。
テーブルに彼女の作ってくれたスープを乱暴に置いて、僕は蒲団を手に自分の寝室に向かった。
そして彼女に冷たい一瞥を送ると、バタンと大きな音を立ててそのドアを閉めた。

寝室に入ると熱のせいなのか、怒りのせいなのか。
僕の体がブルっと震えた。




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