House 3-4 |
とりあえず僕はチョウを部屋の外で待たせて、一旦頭を冷やそうと思考を目孫るしく回転させた。
ああ、そうだ。ハーマイオニーをなんとかしなきゃ。 僕は彼女に隠れているように言ったバスルームの扉を、玄関の外に居るチョウに気付かれないようにそっと開けた。 「あの・・・、ハーマイオニー・・・?」 あれ? 「ハーマイオニー?」 ここに隠れているように言ったはずの彼女がいない。 おかしいな、トイレかな? 僕はトイレの扉も開けてみたがもぬけの殻だ。 どこに行ったんだろう?玄関は僕とチョウがいたんだから、そこからは外には出られない。 ベランダやキッチン、僕の寝室と狭い家の中を一通り覗いてみたがどこにも彼女の姿はなかった。 「ハリー!まだなの?」 「あ、ちょっと、もうちょっとだから!」 僕は適当にクローゼットの中のシャツとズボンを掴むと、玄関に向かいながら適当に着替え、そして玄関の扉を開けた。 「もう!いつまで待たせるのよ。」 「あー、ごめん。外に出よう。本当に散らかってるし今日は勘弁して」 有無も言わせずに僕は玄関の扉を閉めると鍵を掛けた。 非常に不愉快な気持ちのまま、それでもやましい事がある自分は、なんとかその顔に笑顔を張り付けて。 なるべく自分の家からは離れたくて、僕たちはバスで移動した。 チョウはブツブツと文句を言ってるようだったが、僕はいなくなったハーマイオニーの事で頭がいっぱいでそれどころではなかった。 「・・・ちょっと、ハリー!聞いてるの?」 二つほど停留所を乗り過ごして、気まぐれに降りた場所の公園のベンチに僕たちは座っていた。 「あー、ごめん・・・」 「なによ・・・。こんな所まで連れて来て、人の話には耳も貸さないし・・・」 「だから。気分が悪いって言ったじゃないか」 「だったらあなたの部屋でもよかったのよ」 「急に来たって上げられないよ。連絡くらいしてから来てよ・・・」 「・・・迷惑なの?私が来ること・・・」 ・・・・。 迷惑だよ。僕の部屋まで押し掛けないでよ。 本心はそうだ。 でも、そんな事は言えない。自分で付き合ってもいいと言っておきながら。体の関係まで持っていながら自分の家への訪問を拒む僕。 これじゃ何にもならない。拒むべきはチョウの訪問ではなく、ハーマイオニーの訪問を拒むべきなのだ。 まだ自分の気持ちが整理できていなくて、チョウまで傷つけてしまう。 そんな事をしたいわけじゃないのに・・・。 やるせなさに思わずため息が漏れてしまう。 「あー、ごめん。そんなんじゃないよ。急だからびっくりしたんだ・・・」 「・・・・」 「でも。これだけは言っておきたい。僕はあんまり人を家に上げるのが好きじゃない。自分の居場所を探られるのも嫌だ。それが例え恋人だとしても。勝手な事を言って悪いと思うんだけど、理解してくれない・・・?」 本心半分、隠した気持ち半分。 自分でもどうしても譲れない気持ち。 自分の心の大部分を占めているものが変わらない限り、このスタンスは変えられない。 これから先、心からチョウを愛せる日が来るのならば、また話は変わってくるかもしれないけれど。 今はまだ時間がかかりそうだ。 「やっぱりあなたは何かを吹っ切ろうとしてるみたい・・・。魔法界から離れたのも・・・、きっとそのせいなのね」 又連絡するからと、チョウはその場を去っていった。 その後ろ姿がひどく寂しそうで、チョウは本当に僕の事が好きなのかもしれないと思ってしまう。 そう思っても・・・。 どうしても僕の心は違う女性の事ばかりを考えてしまう。 今ハーマイオニーはどうしているか、気になって仕方がなかった。 僕はそのまま大急ぎで家路についた。 *** 自宅に戻ってみると、さっき食べ掛けだったハーマイオニーが持って来てくれたランチが綺麗に片づけられていた。 あの後、ここに一人残って片付けてくれたんだろうと思うと居た堪れなくなった。 一人彼女を部屋に残し、そのまま他の女と戻らなかった僕をどう思っただろうか。 謝りたくても彼女の連絡先なんて知らない。多分彼女はもうここへは来ないだろう。 あからさまに僕とチョウの関係を知らされて。 ・・・そこまで考えて、自分の自意識過剰ぶりに呆れてしまった。 別に彼女は、僕とチョウがどんな関係だろうと気にするわけないよな。 彼女はあくまでも僕の親友として、僕を心配して来てくれているだけだ。 それこそ僕にガールフレンドが出来たとなれば、手放しで喜んでくれるような人だ。 それなのに、僕が彼女を置き去りにした事を傷ついてるなんて考えてる。 「何考えてんだか・・・」 勘違いも甚だしいや。 そう、彼女は親友なんだ。だからここに来る。 だったら別に来たっていいじゃないか。自分の気持ちさえ押し留めておけば何の問題もないんだ。 チョウと鉢合わせしようと、僕が誰と付き合おうと、後ろめたく感じる必要なんてないのだから。 精一杯自分自身に言い聞かせる。 ただこの時の僕は、自分が彼女と会う時間が増えることで、この気持ちがどんどんと膨らんできている事に気付かない振りをしていた。 彼女と会う口実が見つかったことで有頂天になって・・・。 |
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