House 1-2



僕の住むフラットは、オフィス街からバスで30分ほどの所にある。
バス停を降りてから歩いて約15分。
その間に、生活の細々とした物を売っている小さな商店街が連なっている。
そこで僕は、簡単なサラダになる材料とサーモンフライ、缶ビールを6本買った。

スーパーマーケットの横のベーカリーは僕のお気に入りの店だった。
そこで一押しのベーグルとフランスパン、明日の朝食用にクロワッサンを買い、
思ったよりも大荷物になってしまったことに舌打ちをして、首と肩で傘を挟みながら
目の前のフラットまで出来得る限りの速さで走って帰った。
・・・すでにズボンの裾はびっしょりになっていたけれど。

玄関を開け、ホールに買い込んだ食料品をドサッと置く。
すでに荷物も自分もぐっしょりと濡れていて、さすがにこのまま部屋に入るのは躊躇われた。
仕方なくその場でTシャツとGパンを脱ぎ棄て、足にぺったりと張り付いたソックスを悪戦苦闘しながら脱いだ。
このままバスルームへ直行して、片付けはそれからだ・・・。
びしょびしょの足を、びしょびしょのTシャツで軽く拭いてバスルームへ駆け込もうとしたその時。


大きなドアをたたく音とそして、懐かしいようなほろ苦いような、そんな感情を呼び起こす大きな声。

「ハリー、ハリー!いるんでしょ?居るのは解ってるの。だから早くここを開けて!」
「・・・え?」
「ねえ、早くったら!」

・・・早くっていわれても、ねぇ。
いるのは誰なのか想像はついたけれど、まさかそんなはずはあり得ないと、
冷静な自分がドアの向こうの相手に問いかける。

「・・・あの・・・。どちらさま・・」
「何のんびりしたこと言ってるのよ。いいからこのドアを開けなさーい!」

あまりの剣幕に、フラットのドアをブチ破られそうな恐怖を感じ、恐る恐るドアを開けた。

「もうっ、早く開けてって言って・・・!?キャーーッ!!」
バタン!
・・・・・。

何なんだ、一体。

僕はため息をつきながら、そおっと首だけをドアの外に出した。
そこには先程の僕と同様の、全身ずぶぬれになった女性。

「あ・・・と。もしかしてハーマイオニー?」

真っ赤な顔をして、とっさに又ドアを力任せに閉めようとするのを制止しながら、
「・・・こんな所で、何してるの?」と聞いた。

だって。
彼女と会うのは何年ぶりになるんだろう?
彼女がロンと結婚してからすぐに、僕はこちらの世界の住人となった。
だからその後の二人の様子も、ウィーズリー一家の様子も全くわからなかった。
わからなかったんじゃない。自分から背を向けてマグル界へ逃げてきたようなものだった。
つまり、僕は彼女に恋をしていた。
気がついたら彼女を目で追っていた。
彼女がロンと付き合っている間も、ずっとずっと・・・。
忘れるためにここで生活を始めたのだった。

なのに。


「ちょ、ちょっと待ってて。僕もびしょ濡れなんだ。タオルをとってくる・・・。」
それだけ言うと、急いで彼女の為に新しいタオルを用意してヒーターを入れる。
自分は適当に寝室のベッドの上に放りっぱなしだったスエットに着替えると、バスタブに熱いお湯をはって玄関に戻った。

「ごめん。お待たせ。これ使って。」
「あ・・ありがとう。」
「とりあえず入ってよ。これじゃ風邪をひいちゃうよ。バスルーム使ってくれていいから。」

あんなに大騒ぎをしてドアをブチ破りそうだった彼女だったけれど、
急に冷静になったのか、遠慮がちに戸惑いながらバスルームへと入って行った。
そんな僕はと言うと、彼女の着替えをどうするか、自分の寝室で真剣に悩んでいた。

まっ白いYシャツを手にとって、
・・・恋人同士じゃあるまいし・・・と、苦笑いをする。だけどこれを着た彼女を見てみたいような気もした。
ふ・・っと自嘲して、先日たまたま買っておいた新しいパジャマを袋から取り出し、

「僕ので悪いんだけど、これ、まだ新しいやつだから。濡れた服はランドリーに入れておいて。」
シャワーを使う彼女にバスルームの外から大声で言うと、少しだけ開けたドアの隙間から着替えを差し入れた。



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