19章 銀色の牝鹿 こんなの嫌だから勝手に変えちゃえ編・4
おもわずロンと顔を見合わせていた。 彼女は何を言ってるんだ? だけど、もう一人の冷静な僕が声を張り上げる。 「いいから! 壊すんだ、ロン!!」 グリフィンドールの剣が空を切った。 今まで聞こえていた声も、怪しい幻も消え 辺りには又もとの静寂が訪れていた。 聞こえるのはロンと僕の激しい息遣いだけだった。 「ハーマイオニー・・・?」 腕の中でぐったりとする彼女を覗きこめば、気を失っている。 僕達は破壊された分霊箱と剣、そして気を失った彼女を抱えてテントへ戻って行った。 しばらく僕達は無言のまま何時間も過ごしていた。 分霊箱を壊したばかりだと言うのに、喜ぶこともなく さっきのハーマイオニーの言葉の意味だけを、僕は考えていた。 そんな静寂を破ったのはロンだった。 「いい加減、目を覚ませよ。ハリー。」 「・・・目を覚ますって、どういう意味だよ。」 「気付かなかったのか?」 「なにを?」 「ハーマイオニーの気持ちだよ。」 ハーマイオニーの気持ち? 「気付いてるさ。 君の気持ちだってわかってる。 だから僕はずっと、君がいなくなってから彼女に 君の処へ戻れと口を酸っぱくして言ってたんだから・・・。」 「・・・・。 じゃあ、どうして彼女はさっき分霊箱を壊すのを止めさせたと思う?」 「そんなの、わからないよ・・・。」 自分だけがわからないみたいでイライラした。 まるでロンは解ってる風な言い方だった。 「多分さ、僕たち3人の誰が分霊箱を壊そうとしても さっきと同じ幻が現れたんだと思うよ。」 「・・・・。 僕とハーマイオニーの幻?」 「そう。」 「あれは! あれは君の勘違いしてる気持ちを更に煽ろうとして現れた幻だろ。 君が勝手に僕にやきもちを焼いて、勝手に劣等感を抱いていただけじゃないか!」 「感違いなんかじゃないよ、ハリー。 多分君が壊そうとしたら・・・、 分霊箱はこう言うだろうな・・・。 ”本当はこうしたかったんだろう? 親友に義理立てしてできないんだろう? いつも彼女を抱きしめたくて キスしたくてしかたがないくせに。”って。」 ーーーーーなっ! 「そしてハーマイオニーが壊そうとしても同じことを言うだろうな。 ”本当はジニーなんかより、自分が相応しいはずだと思ってるだろう? こうしてハリー・ポッターの腕の中にいるはずなのは、自分だと思ってるだろう?” 結局誰が壊そうとしても、君たちの幻は現れた。 ハーマイオニーはせめて幻でも、君とのああいう姿を消したくなかったんだ。」 「君の想像だろ・・・、そんなの。」 「そう思ってるうちは、何度も現れるね。 今度分霊箱を壊すのが君だったら、その時は僕の言ってる意味がわかると思うよ。」 わかるわけないだろう、そんなの。 ・・・そんなのロンが勝手に考えた妄想だ。 「でも彼女は寝言で君に帰って来てと何度も言ってたんだ。 僕と二人きりにしないで・・・って。 そんなに嫌ってるんだ。 あり得ないよ。」 「どうして二人っきりになりたくないのか、 考えてみたことある? 嫌いなはずないだろ? 彼女は両親の記憶を消してまでも、君と一緒に行くって決心したんだ。 嫌いな相手にできる覚悟じゃないよ。」 「でも、きっと一緒に旅をしているうちに嫌いになったさ。 君のいう通り、何の計画もない僕なんか愛想を尽かされて当然だ。」 頑なに認めようとしない僕に呆れたのか、 ロンは大きなため息をついて立ち上がった。 「僕、これからしばらく見張りに立つよ。 今まで君たちばかりに押しつけちゃったからね。 少し一人で考えてみるといいよ。 ハーマイオニーの看病は君に任せたからね。」 「お・・おい、ロン!」 テントから出る間際、ロンは入り口に盾と遮音の呪文をかけた。 完全に自分と僕達を隔離するつもりらしい。 僕は諦めて、彼女の横たわるベッドをそっと盗み見た。 青白い顔に幾筋もの涙の跡が見えた。 どうして? ロンが戻ってきたのは君も気づいていただろう? なのに、どうしてそんなに辛そうな顔をしているの? ロンがいなくなって、ずっと彼女の辛い顔ばかり見ていた。 笑顔なんか忘れてしまった。 生意気そうに僕達に説教する彼女は、遠い過去に消えていた。 僕はそっと身を起こすと、彼女の寝ているベッドの脇まで近寄っていった。 ベッドの端に腕を乗せて、彼女の顔を覗き込む。 無意識に涙の跡をなぞってみた。 以外にも温かい彼女の頬に安心する。 僕はそんな彼女の頬に・・・、唇を寄せていた。 →
============================================== 次で終わります。 ロンはすべてお見通しです。 だからあんな幻を見ちゃうんです。 ハーがハリーを好きな事くらい、恋する少年の眼は ごまかす事が出来ないのです。 ==============================================