19章 銀色の牝鹿 こんなの嫌だから勝手に変えちゃえ編・2
それからも毎晩テントの外に見張りに立つ僕の耳に、 ハーマイオニーの心の叫びが聞こえてきていた。 いつもロンの名前を呼んでいた。 すぐにでもうなされている彼女のそばに駆け寄って、 声を掛けてあげたかったけれど、僕にそんな資格はない。 テントの外で膝に顔を埋めて、 「ごめんね、ハーマイオニー・・・。」と呟くことしか出来ないでいた。 いつも強気で我慢強い彼女が、こんなにも弱くて儚いものだったなんて 僕は今回のこの旅で初めて気が付いた。 ロンさえ戻って来てくれれば、きっと彼女も元気になってくれるだろうけれど そうしたら今度こそ自分は一人になってしまうと思い、 それが怖くて僕は、ロンを探すことさえしなかった。 そんな身勝手な自分が、どうにも嫌だったけれど。 今日もテントの外で見張りをしている時だった。 いつになく寒くて底冷えのする夜だ。 こんな夜は一人でいるのが心細くて、 近くにハーマイオニーを座らせて、話し相手になって欲しいと思っていた。 随分体の調子も良くなってきてはいたけれど、 病み上がりの彼女にそんな無理はさせられない。 すると又彼女の寝言が聞こえてきた。 「ロン・・・、ロン、いかないで・・・」 うなされているようだった。 いつもより切羽詰まった声がする。 ちょっと気になってテントの中を覗き込む。 入り口に背を向けていたので、彼女の表情まではわからなかった。 でもきっと苦しみに歪んだ表情をしているんだろう・・・。 僕はそっと入口から彼女に声をかけた。 「・・・ハーマイオニー?」 「お願い行かないで・・・」 僕の声は届いていないようだ。 「お願い、ハリーと・・・ハリーと、 二人っきりに・・・・しない で・・・。」 ・・・・。 そ、そうか。 僕と二人でいる事が嫌なんだ・・・。 そうだよな。 こんな時に何も出来なくて、引っ張っていく力もなくて。 挙句の果てには大事な親友とケンカ別れだもんな。 ハーマイオニーの体が良くなったら、、やっぱり僕は一人で旅を続けよう。 これ以上二人に迷惑はかけられないし、何より二人に愛想を尽かされたくなかった。 惨めで悲しくて寂しくて・・・。 僕は旅に出て初めて涙が頬を伝った。 * * * 「ハリー?」 しばらくして突然、彼女が声を掛けてきた。 「な なに?」 鼻にかかった声を悟られないように、あくびを噛み殺すふりをして振り返る。 「見張りを変わるわ。 随分調子がいいの。もう大丈夫だわ。」 「・・・でも、さっきもうなされてたようだよ?」 彼女の顔を見てるのがつらくて、夜の闇を見つめながらそう答える。 そんな僕の気持ちを知りもしないで、ストンと僕の横に彼女は腰をおろした。 僕は気付かれない程度に、彼女から離れるようにして身体をずらした。 「いいんだ、僕はちっとも眠くないし。 起きていれば何かいい作戦が思いつくかもしれないだろ・・・・。」 「でも、少し休まなくちゃ。 ずっと私の代わりに起きていてくれたでしょう? 今度はハリーが体を壊しちゃうわ。」 「僕の体の事なんて、どうでもいいじゃないか。」 彼女の優しい声が妙に癇に障った。 彼女に罪がない事は解っているけれど、優しく答えてやる余裕なんてない。 「どうしたの?」 「なにが?」 「・・・・。」 「だから、なにが!?」 いつもと違う僕の剣幕に圧倒されて、彼女は口を噤んだ。 「君がどうしても見張りに立つというのなら、僕はテントの中に入るよ。 君はどうやら僕と二人っきりになるのが嫌みたいだから・・・。」 「な、なによ、それ。」 「いいんだ、無理しなくても。 誰だって嫌気がさすよな? こんな無計画で統率力のない英雄になんてついていけないよな? 元気になったのなら、君はロンドンに帰ってくれ。 ここからは僕一人で分霊箱を探す・・・」 僕が言い終わるか終らないうちに彼女の右手が僕の頬を打った。 パンっと言う乾いた音が闇の中に響いた。 「何一人で勝手な事をいってるの? ロンの言った事をまだ気にしていたの? 弱虫! 私はあなたに付いていくって・・・、ずっと前から決めていたのに。」 彼女はうそつきだ。 ずっとロンの事を考えていたくせに。 ロンの名前ばかり呼んでいたくせに・・・。 「君は寝言で、僕と二人っきりにしないで・・・と言っていた。」 「・・・え?」 「寝言で言うくらいだから本心でしょ。 いいよ。わかっているから。 ロンを選べばよかったんだ、あの時。」 なんだか駄々をこねた子供みたいだ・・・と思った。 これはハーマイオニーが誰を選んだかの問題じゃない。 どの道を選んだかの話だ。 ハーマイオニーは僕を選んだのではなく、 僕と分霊箱を探すことを選んだだけだ。 これじゃまるで、ハーマイオニーを失いたくなくて ロンの処へ行かせたくないみたいに聞こえる気がした。 「あなたは根本的にわかってないわ。 寝言で言ったんなら多分本心だわ。 ・・・ううん、多分じゃない。その言葉は本心よ。 あなたとは二人っきりになりたくなかった。」 「だろ? じゃ、もう帰った方がいいよ。 僕が旅をつづける以上、ロンはここへは戻ってこないと思うから。」 「ハリー? 私はあなたと二人っきりになりたくないとは言ったけど、 ロンの処に帰りたいなんて・・・、多分一言も言ってないと思うわ。」 「さあ、どうかな。 僕が聞き逃したのかもね。」 辛辣な言葉しか出てこなくて、これ以上話すのが嫌だった。 早くここから立ち去りたかった。 そして、我慢の限界がきて僕が腰を上げたその時・・・・。 僕達の目の前に銀色に輝く牝鹿が現れた・・・。 →
====================================================== 分割して書いているため、無駄に長くなってしまいました。 自分なりに原作と対比して書くと言う技を 持ち合わせていないせいだと思われます。 ======================================================