Do not go
「ハリー・・・。」 「ご、ごめん!!」 しばらく無言のままで見詰め合っていた僕達だったが、 僕は急に自分のしている事が恥ずかしくなって そのまま荒々しくドアを閉めて、自分の部屋へ飛び込んだ。 ああ・・・。 僕って一体なにをしてるんだろう・・・? これじゃあ二人のデートを邪魔しにきたのがバレバレじゃないか。 彼女の部屋に飛び込んでしまったからには、下手な言い訳もできやしない。 彼女に嫌われてしまう・・・。 そう考えただけで、僕はドッと落ち込んだ。 ベッドにうつ伏せになって、しばらくの間顔を枕に埋めていると、 そっと僕の隣が沈んだ気がした。 不思議に思って顔をあげると、そこにはハーマイオニーが座っていた。 「ハーマイオニー・・・。」 彼女は憐みとも軽蔑とも取れない複雑な表情をしていた。 「軽蔑したけりゃ・・・、していいよ。」 「軽蔑? どうして・・・?」 「どうして・・・って。 僕は君のデートをつけてきて、挙句の果てにはそれを邪魔しようとしたんだよ? あからさまに嫌な顔をするロンよりも性質が悪いだろ・・・?」 そしてまた顔を枕にうずめる。 彼女の顔を見ていられなかった。 すると彼女の手がそっと僕の頭に添えられた。 ビクッとして身を捩ってみたが、嫌ではなかった。 「軽蔑されなきゃいけないのは私の方よ、ハリー。」 「なんで僕が君を軽蔑しなきゃならないの?」 「だって・・・。 邪魔をしたのは私の方だもの・・・。」 「どういう事?」 すると彼女は、僕の体の反対側に無造作に放り投げられている手紙を拾った。 「これ・・・。」 「あ、いけね。手紙が来てた事なんてすっかり忘れてた。」 「多分ジニーからだと思うわ。 あなた今日、ジニーとここへ来る約束をしてなかった?」 ジニーとここへ? ・・・・あ、そういえば・・・。 「してたかもしれない・・・。」 「してたかもじゃなくて、してたのよ。」 「どうして君が知ってるのさ。」 「ジニーが話してくれたに決まってるでしょう? だから私も同じ日に予約を入れてもらったの。」 「え?どうして?」 わからないの?と呆れた顔でハーマイオニーはため息をついた。 「まず初めに、私がどこかいいコテージを知らないかってジニーに聞いた時、 すぐにここを教えてくれたの。 私は誰と一緒に行くとか、泊まりたいとか、そんな事は一切言ってなかったのよ? でも彼女はそれがクラムだってすぐ勘ぐったわ。」 「そりゃそうだろ。 クラムの試合がこっちであるって事は、ロンから聞いて知ってたはずだから。」 彼女は寂しそうに微笑んだ。 「ハリーも・・・、そう考える?」 「だって! 君が最初に言ったんだよ。 クラムと一緒に泊まれるような、いいコテージを知らないか・・・って。」 「私が本気で恋人でもない男の人と、 一緒に泊まるような女だと思う?」 「思わないさ! それに思いたくもないよ。 でも・・・、君が言ったんだ・・・。 クラムと一緒に・・・って。」 「ハリーに止めてほしかったから・・・。」 「え?」 「あなたに止めてほしかったの。 だからわざとジニーとの約束がある日に自分も予定を入れたの。」 「どうしてそんなこ・・・、」 「そんなことをしたのか? あなたが私を止める権利がなくても、 それでも止めてくれるかも・・・って思ったのよ。 あなたの恋人は私じゃなくてジニーだから、 私が誰と泊まろうと関係ないでしょうけれど、 それでもあなたに、少しだけでもやきもちをやいてほしかったの。」 ちょっと待って・・・。 彼女の言ってる意味が今一つ理解できない。 「あのさ。 それってさ・・・。 ・・・・。 ごめん、よく言ってる意味がわからないんだ。 僕じゃなくて、ロンに止めてもらいたい・・・の間違いじゃないの?」 「いいえ。あなたよ?」 「な、なんで? ・・・っていうかさ、確かに自分でもどうしてこんな事をしてるのか 今一つ君に説明はできないんだけどさ・・・。 でも、それって君が仕組んだこと・・・ってこと?」 ハーマイオニーは少し頬を染めて頷いた。 「だって、私も嫌だったんだもの。 あなたがジニーと二人で朝まで過ごすなんて。」 「そ・・それってやきもち?」 「ええ。ずっとやきもちをやいてたの。 でももう我慢できなくなっちゃったのよ。 だから・・・、謝るのは私。 本当にごめんなさい。 これ・・・。 ジニーに早く返事を出してあげて。」 そう言って僕に手紙を差し出した。 だけど。 僕にはそんな手紙を読む意思はもう残っていなかった。 「僕は多分・・・。 ジニーとの約束を覚えていたとしても、 こうして君のデートを邪魔しに来たかも知れない。」 「え?」 「最初ここへ来たとき、こんな所で君と一緒に過ごしたいって思ったんだ。 あ、変な意味じゃなくてだよ? 普通に話をしたり食事をしたり、一緒に星を眺めたり・・・。 そんな事をしたいと思う対象が、僕にとってはジニーじゃなくて君だった。」 「・・・ハリー・・・」 「僕はまだ恋人と親友の区別がつかないのかもしれない。 ジニーにキスしたい時もあれば、君に対してもキスしたいって思う時がある。 でも君の好きなのはロンだと思っていたから、そんな事しなかったけどね。 でも君が他の男と外泊するって言うのは、どうにも我慢ならないんだ。 君は僕の恋人じゃないから、僕にそれを止める権利はないけれど でもこうして邪魔をしに来てしまった。 何が何でも嫌だったんだ・・・。」 素直な自分の気持ちを話していた。 それによってこれからの僕達が変わるとは思ってないけれど、 今、それを伝えておかなければきっと後悔すると思っていた。 「ねえ、もし嫌じゃなかったら、今日は僕と一緒に朝まで過ごさない?」 他の人が聞いたら絶対に誤解されるようなセリフを、 僕は何のためらいもなく彼女に囁いていた。 「ジニーに叱られちゃうわよ?」 「かまやしないよ。 別に彼女とはそう言う関係じゃないし、これからだってそうなるとは限らない。」 「私とはそう言う関係になっちゃうかもしれないわよ?」 悪戯っぽく笑う彼女に胸がときめく。 「うん。 確率的には君との可能性の方が高いかもね? でもさ、君にはいつまでもそのままでいてもらいたいんだ。 いつまでも純粋でいてほしい。」 「私に恋人を作らせないつもりなのね?」 「ハハハッ。そうしてもらえると嬉しいよ。」 でも・・・と、僕は彼女に歩み寄った。 「今夜は僕に・・・、 キスだけさせてくれない?」 そう言って、彼女の顎に手を滑らせた。 うっとりと眼をつぶる彼女にそっと顔を近づけていく。 ジニーとのキスの時とは違って、心臓が煩いくらいに鼓動していた。 お互いの唇が触れるか、触れ合わないかの一歩手前で彼女が言う。 「私の純潔もあなたに奪ってもらいたいわ。 もちろんその時は恋人として・・・。 あなたさえその気になってくれたら・・・。」 もうすでにその気になってるかもしれない。 でもそんな事は今ここで言える事じゃない。 それに・・・、 僕は早く彼女に触れたくてしかたがなかった。 だから短くて、それでも僕の本当の気持ちを返事した。 「必ずもらうよ。」 E N D ←
========================================================================== 友達以上恋人未満。 無意識のままハリーがハーマイオニーを想うシーンって 原作ではたくさんあったような気がします。 でもこのまま気付かず終わっちゃいそうですが・・・。 ==========================================================================