Do not go
ふと目が覚めた。 窓の外で何かがガラスを叩く音が聞こえたからだ。 見るとヘドウィグが嘴で窓ガラスを叩いていた。 「ヘドウィグ・・・。 なに・・・、手紙・・・?」 僕が窓を開けてやると、 「やっと気づいてくれたわね・・・。」とばかりに僕の頭をわざとらしく掠め バサバサとベッドの上に舞い降りて、足に付いた手紙をつっついた。 「ごめんごめん。悪かったよ。 ちっとも気がつかなかった・・・。 何、よくここがわかったね?」 そう言って嘴を撫でてやりながら手紙を外した。 いつもの様にホーッと鳴きそうだったので、 「シー。 ちょっと今日は鳴かないでくれる? この部屋、意外と安普請でさ。 隣の声が筒抜けなんだよ。」 ごそごそと手紙を開きながら、そうヘドウィグに注意した。 ヘドウィグは、 「あなたのしようとしている事くらい、お見通しよ!」という目をして 僕の注意を無視し、思いっきり大きくホーと鳴いた。 そして今来た窓から飛び立っていった。 「なんだよ・・・。 まったく、彼女に気付かれちゃうじゃないか・・・。」 そわそわとしながら、隣の部屋に耳を当てる。 するとさっきまでの声が嘘の様に、今はシンと静りかえっていた。 僕は手紙が来た事なんてそっちのけで、時計を確認する。 「夕食にでも行ったのかな・・・?」 手紙をベッドの上に放り投げ、そっと自分の部屋のドアを開け 隣の部屋の様子を伺った。 やっぱり何も聞こえない。 「夕食ならもうすぐ戻ってくる頃かな。」 時間を見ればもう夜の8時を回っていた。 一体、何時間寝てしまったんだろう? 彼女とクラムのデートをぶち壊そうと思って来たのに 寝てしまったんじゃ何の意味もない。 大きくため息をつきながら窓の外を眺めてみる。 「木立のせいで、月はおろか空だって見えやしない・・・。 こんな所、二度と来るもんか。」 あれだけジニーがいい、いい、と言っていた意味が少しも分らなかった。 確かにシンプルで、チョウと初めてデートした所みたいに 居心地が悪い場所ではなかったけれど。 でも僕としてはもっと開放的で、遠くまで見渡せて、 一緒に過ごす相手と星のひとつも眺めてみたい。 人目を避けるように建っているくせに、部屋の壁が薄くて プライベートが保てないなんて最悪じゃないか。 そんな事を一人ブツブツと呟いていると、隣の部屋に誰かが入る音がした。 帰って来た・・・。 一応僕にも緊張が走る。 僕は邪魔したくて邪魔するんだからいいけれど、 ハーマイオニーは望んでここに来たわけだから、邪魔される事は不本意だろう。 クラムと朝まで一緒に過ごしたくて、楽しみでここに来ているのに いきなりわけも分からず僕に邪魔をされたら・・・。 それに、一体僕はその理由をなんて説明するつもりなんだ? 「いやだったから!」 なんて子供のわがままみたいな事をいって、 ハーマイオニーに一発殴られるのがオチだろう。 下手すりゃクラムのあの太い腕からも、 一発どころか二発位お見舞いするかもしれない。 自分が嫌だからと言って ハーマイオニーにそれを押し付ける権利は僕にはない。 そうだよな。 やっぱりここは我慢するしかないんだ。 僕は彼女のボーイフレンドじゃない。 でも、彼女が嫌がる様子が伝わってきたら、 その時は迷わず踏み込もう。 ありもしない期待だけど、壁際に椅子を引っ張っていき、 座って彼女の悲鳴を聞き逃さないよう、しっかりと聞き耳を立てた。 * * * その頃隣の部屋では・・・・。 さっきから真っ暗な闇の中で、ひときわ白く輝いている何かがいた。 それが何なのかよく分からない。 でもひどくこちらの様子を監視しているような、 そんな感じがしてならなかったのだ。 クラムとは下のカフェで夕食を済ませた後別れた。 この部屋を宿泊用に取ってある事は告げずに。 部屋に戻って今夜は一人でここに泊って帰ろうと思っていた。 ハリーにやきもちを焼かせたくてこんな事をしてしまったけれど、 だからと言って彼が私を止めるわけでもなく、 かえって空しい気持だけが残ってしまった。 そっと窓辺に近づいて窓を開ける。 湿った草木の香りが鼻をついた。 何にも見えない。 何にもない。 1、2メートル先の木立しか、ここからは何も見えなかった。 閉鎖的な場所にいるせいか、気分もドッと落ち込んでくる。 テラスの柵に寄りかかるようにすると、先ほどから白く輝いていたなにものかが こちらへ向かって飛んできた。 え・・?え・・・? なに・・・? 一瞬恐怖に身をすくめたが、それが私の目の前にある柵の上にとまると 見慣れた姿に体中の力が一気に抜けた。 「・・・・ヘドウィグじゃない・・・。」 それはいつもハリーと一緒にいるヘドウィグだった。 「こんな所でなにしてるの・・・?」 すると彼女はつんと嘴を上にあげ、隣の部屋を見た…ような気がした。 「え?な、なに・・・?」 そう言った途端、ヘドウィグは急に羽をばたつかせ、 私の部屋へ飛び込んできた。 いつもの穏やかな飛び方ではなく、荒々しくて私を怖がらせるかのような飛び方で。 「キ、キャーッ!! やめて、おちついて? お願いだからじっとしていてちょうだい!」 大声で叫びながら部屋中彼女を追いかけまわしていた。 * * * 突然隣の部屋から悲鳴が聞こえた。 ついでにガタガタと椅子や机にぶつかるような音。 彼女の危機だ。 やっぱりクラムは彼女を襲おうとしているんだ。 ほら見ろ。やっぱり思いっきり抵抗しているようじゃないか。 それでこそハーマイオニーだ。 今僕が助けてやる。 それまで何が何でも、その君の貞操を守ってくれ! 僕は飛び上がると自分の部屋のドアを足で蹴飛ばし、 ハーマイオニーの襲われている現場に踏み込んだ。 「やめろ!!」 ・・・・・。 え? 「ハ、ハリー・・・?」 「あ・・・、や、やあ。」 「なにしてるの?」 「・・・・君こそ、大声だして・・・。 ・・・って、ヘドウィグ?」 ヘドウィグは急に静かになって、辺りに白い羽を散々ばらまいて 何事もなかったかのように窓から出て行った。 「す、すっごい素敵なコテージだよね?」 僕は心にもない事を言って、彼女に向って微笑んだ。 ← →
========================================================================== ハリー。手紙はどうしたの? 読まなきゃだめでしょ? ヘドウィグの登場でえらい勘違いをしてしまったハリー。 でも、いいきっかけだったかな? ・・・というわけで次回は最終回。 いかに最初に作った話が無駄に長かったか、お分かり頂けたと思います。(ヒィ) 読む方が本当に読みたいのは、最後の最終回の部分であって こういうどうでもいいような前置きは端折っていいんですよね〜。 それが出来なくてなかなか公開できませんでした。 十分無駄が多いですがご勘弁ください! ==========================================================================