Do not go
僕は昼休み、ジニーと湖の畔に座っていた。 あの談話室での衝動的なキスから、お互い何となく付き合う形になっていた。 確かに、ジニーはいつも自分の不埒な想像の対象だったし、 今まで何ともなかったはずの彼女が、急に気になる存在になった事も本当だった。 好きになってしまったんだと思う。 チョウとは何となくうまくいかなくて、 気がつけばジニーが女の子としての対象だったのだ。 「ねえ、ハリー? ハーマイオニーと喧嘩してるんですって?」 「なにそれ。 ロンだろ、そんな事言うのは・・・。」 「何があったの?」 「なにも。 それに喧嘩なんかしてないよ。」 「嘘。 ハリーはハーマイオニーの親友だけど、 私も彼女の親友なのよ?」 「じゃあハーマイオニーがそう言ったの?」 「・・・・ええ・・・、まあ。 ハリーが自分を避けてるって。」 避けたくもなるよ・・・。 心の中でごちてみる。 「何か言った?」 「いや。」 「話は変わるけど・・・、 ハーマイオニーがね、クラムとどこか泊まれる いいコテージを知らないかって言うのよ。」 やっぱりね。 彼女のことだ。 きっとジニーに相談すると思ってた。 でもそんな気持ちを悟られないように怪訝そうな声で応える。 「本気だったんだ・・・。」 「あら、別に付き合ってるんだから普通でしょ?」 「もしかして・・・、どこか紹介したの?」 「ええ。ホグズミードにね、とっても素敵なところがあるのよ? 隠れ家的なところで、多分あまり知られてないわ。」 「それ、今度教えてくれない?」 「なに? 私を連れて行ってくれるの、ハリー?」 え? あ、そうか。 考えてもいなかった。 話の流れからいくとそうだよな。 女の子なら期待するよな・・・。 「なによ、その微妙な間は。」 「ごめんごめん。 うん、もちろん一緒に行くよ。 近いうちに。」 「うれしい! 約束よ、ハリー!」 「うん。」 「きっと気に入ると思うわ。」 「じゃあ、場所の地図を書いてよ。 又詳しい事は話をしよう。休み時間が終わっちゃう。」 「・・・ハリー?」 「なに?」 そっと立ち上がった僕の腕を掴むと、ジニーは優しく口づけてきた。 「本当にうれしいわ。 あなたと一緒に過ごせるなんて。」 ・・・・。 そうだよな。 そう言う展開だよな。 普通にジニーとコテージに泊まったって不思議でもなんでもない。 ハーマイオニーだってクラムと付き合っているんなら、 こうして一緒に過ごしたいって考えてもおかしくない。 おかしくないんだけど・・・。 なんでこんなに腹が立つんだろう。 相手がクラムだからか? ロンとならいいんだろうか。 そんな悶々とする気持ちのまま、僕は午後の授業へと向かった。 * * * 「おい。 やっぱりハーマイオニーはクラムとお泊りするらしいぜ。」 「らしいね。 ジニーが紹介したコテージらしいよ。 だけど、ロン。いいのかい? 後悔したって知らないよ。」 「それはこっちのセリフ。 ハリーこそいいのかよ。」 「どういう意味だよ。」 「だって、めちゃくちゃ怒ってたじゃないか。」 「僕は君の代わりに怒ってただけだよ。 それに、一応親友の彼女が、男と外泊なんて・・・ あんまりいい気分じゃないだろ。」 「・・・まあね。 僕たちも大人になったってことだよ。」 別に喧嘩をしたわけじゃないけれど、僕は知らず知らず彼女を避けていた。 彼女の方も僕に話しかけてはこなかった。 どちらともなく気まずくて、 予想以上に彼女の外泊宣言は、僕に衝撃を与えていたんだ。 彼女がクラムと約束をしたある日の週末。 その前日の夜、僕は嫌な夢を見た。 まっ白いシーツに包まる彼女が妖艶に微笑んでいる。 そして僕を手招きする・・・。 シーツから覗く華奢な肩にドキドキする。 少しずつ歩をすすめ彼女に近づく僕。 すると突然彼女がシーツの中に隠れてしまった。 どうしたんだろう・・・と、そっとシーツを捲り上げる。 するとそこには・・・。 がっちりとした体躯の持ち主である、あのビクトール・クラムが 彼女の真っ白な体を抱きしめていた。 クラムの体で良くは見えないが、 ハーマイオニーは裸だった。 もちろんそれに覆いかぶさる男の背中も裸だ。 「やめろ! 彼女から離れろ!」 力の限り彼女から、その逞しい背中を引きはがそうとする僕は、 なぜか涙を流していた。 「彼女に触れるな! 頼むからやめてくれっ!!」 そんな僕の様子には全く気付く様子もなく、 ハーマイオニーは幸せそうに微笑んでいる。 それはクラムに向けたものなのか、 それとも僕に向けられたものなのかはわからなかった。 「やめろーーーっ!」 自分の声で目が覚めた。 「ハリー、大丈夫か?」 ロンが隣のベッドから心配そうに声を掛ける。 説明するのも面倒くさくて、 「ヴォルデモートの夢を見た・・・。」 と一言言うと、ロンは夢だよ夢…と言って、 そのままその口を閉じた。 なんなんだ・・・。 今の夢は。 別にハーマイオニーがあんな格好で横たわっていたって そんなに動揺する必要はないはずなのに。 彼女は僕の親友なんだ。 ガールフレンドはジニーだ。 関係ないじゃないか・・・。 だけど僕の口からは、無意識にクラムを責める言葉が吐き出されていた。 「ちっくしょう・・・。 彼女に指一本触れてみろ。ただじゃおかない・・・。」 ← →
=========================================================== 物騒な事を無意識に呟くハリー。大丈夫か? 夢は深層心理の表れです。 ハーマイオニーが他の男と一緒にいる姿は我慢できないのです。 ロンはいつも一緒にいたので、特に何も感じない。 これがハリーの大失敗なんだと思います。 ===========================================================