Do not go
「ねえ・・・。 お昼休みに、少しだけ時間取れないの・・・?」 「え? あ・・・うん。 その時間はちょっと・・・ね。」 「どうして? 前はお昼休みなんてそんなに忙しくなかったじゃないの。」 「ごめん、ハーマイオニー。 はっきり約束できないんだ。 又都合のいい時に声かけるから・・・。」 ハリーは困ったような顔で、視線を私から外した。 理由なんてわかってる。 私のお願いを聞くことが出来ない本当の理由。 それを承知でお願いしているのだから。 もしかしたら今でも、 私のわがままを聞いてくれるんじゃないかという期待。 そんなもの、とうの昔に叶わなくなったって・・・、 私はわかっているはずなのに。 ハリーのバカ。 ハリーがジニーと付き合うようになって、 3人はいつも一緒ではいられなくなった。 私はロンと、いつも二人で昼休みを過ごし、 ハリーはジニーと一緒に過ごしていた。 1分でも惜しむように、慌ててランチを飲み込み、 私たちへの配慮もそこそこに、 ジニーの待つ湖のほとりまで走って行ってしまう。 次の授業が始まるぎりぎりまで、 時にはほとんど遅刻寸前に教室へ飛び込むハリー。 汗をかいて慌てるハリーの顔が赤いのは、 ここまでかなり急いで走って来たのとは また違う理由があるに違いない。 二人はいつからか恋人同士になっていた。 あのクイディッチの試合の後から。 談話室でみんなの見ている前で、熱いキスを交わしたあの日から。 ーーーーーそして、私は? いつものようにロンと口げんかをして、 ほんのちょっぴり傷ついて・・・。 私の想いは宙ぶらりんになってしまった。 最初は私はロンが好きなんだと思っていた。 ラベンダーと付き合っていたロンを見るたび不機嫌になっていたし、 人目もはばからずキスをしていれば、心底傷ついて 涙を流す日もたくさんあった。 だけど、そんな二人を邪魔しようとは思ってなかった。 ・・・そう、今みたいに。 私はハリーがジニーと一緒に過ごしていることが ほとんど我慢できなくなっていたのだ。 ハリーの幸せそうな顔を見るのは大好きだった。 辛い事や悲しい事が続くハリーには、 いつも笑っていてもらいたかった。 でも、その笑顔は私が与えてあげたいと思っていた。 親友という立場に胡坐をかいて、 ハリーが自分から離れていくなんて事は考えられなかった。 ジニーと幸せになるのならそれもいいと思っていたのは、 単なるうわべだけの強がり。 私からハリーを奪わないで--------! そんな叫びにも似た私の想いが、我慢の限界まできていた。 * * * 「ハーマイオニー、まだクラムから手紙が来るの?」 「え?あら、いけない?」 「まだ付き合ってるのかよ。 ブルガリアとイギリスじゃほとんど会えないじゃないか。 もっと近くにいい男がいるだろう?」 「あら、ロン。 それは自分の事をいってるのかしら?」 「い、いや・・・、別に・・・。」 「ハーマイオニー、君ならもっと頭のいい 君に似合った男がいくらでもいると思うんだけど・・・。」 「ハリーまで! 私がどんな男の人と付き合おうと関係ないでしょう? それともなあに? あなたたちの許可を得てからじゃないと、 私は誰とも付き合えないのかしら。」 わざとらしく腹を立てて、クラムからの手紙をカバンへとしまう。 「今度こっちに試合で来るのよ。 だからお休みを利用して逢わないかって言ってくれてるの。 どこか彼と泊まれるような、気の利いた素敵なコテージでもないかしら。」 「・・・えっ!? あいつと泊まるつもりなのかよ!」 「いけない?」 ロンはあからさまに嫌な顔をした。 チラッとハリーの様子を伺う。 下を向いて何やら考え込んでいる感じだった。 そして恐る恐る口を開いた。 「君、クラムとはそういう関係なの?」 「そう言う関係って?」 「はぐらかすなよ。 平気で一緒に泊まれるような、 そんな関係なのか・・・って聞いてるんだよ。」 一応腹を立ててる感じだった。 別にやきもちをやいてるとかじゃないと思うんだけど・・・。 だから話を違う方向へ持っていくことにした。 私が今、一番気になっていること。 「あなたとジニーだって同じでしょう? 一緒に朝を迎えたことがないなんて言うつもり?」 「ぼ・・僕と彼女はそんな関係じゃないよ!」 「あら、ロンの前だからって気を使ってるの?」 「違う! 本当にそんな関係じゃないよ。 そんなこと考えたこともないんだから・・・。」 まさか。 いい子ぶっちゃって・・・。 湖のほとりで何をしているのか・・・、 私が気がつかないとでも思ってるのね。 「とにかくクラムと泊まったりするなよ。 わかったかい?」 「ハリーは私のパパか何かなの? 関係ないわ、あなたなんて。」 「関係・・・ない。」 「そ、そうよ。」 「じゃあ勝手にすれば?」 勝手にするわよ。 なによ、ハリーに私を止める権利なんてないのに。 「おい、ハリー!」 「ロン、ごめん。 僕、先に休むよ。」 振り返ることもしないで、ハリーはそのまま寮への階段を上って行った。 「何、急に怒ってんだ?あいつ・・・。」 「・・・さあ・・・。」 「君が変なこと言うからだよ。 クラムと泊まりたいだなんてさ。 本気で言ったのかい?」 「本気だろうとそうでなかろうと どうしてハリーが怒ったりするのよ。」 「・・・わからないの?」 「なにが?」 「・・・・。」 「なによ、はっきり言いなさいよ。 ハリーは私の恋人でも何でもないのよ。 ハリーだってジニーがいるじゃない。」 「そりゃそうなんだけどさ。 でも、ハリーとジニーはそんな関係じゃないよ?」 「だけど、付き合ってるでしょう?」 ロンはどう説明していいやら頭を抱えていた。 私にはハリーが怒る理由も、ロンが頭を悩ませる理由もわからなかった。 でも・・・。 本心は止めてほしかった。 止めてくれたんだからそれでいいはずなのに、 意地っ張りな自分の性格が災いとなって、 引っ込みがつかなくなってしまったのだ。 ちょっとやきもちを妬かせたいと思っただけなのに、 本気でハリーは怒ってしまったようだった。 * * * 「ねえ、まだ怒ってるのかい?」 「なにが。」 「ほらほら、それが怒ってるって言うんだよ。 ハーマイオニーがクラムと泊まるって言うのが そんなに気に入らないのか?」 「別にそんなんじゃないよ。」 「じゃあいいじゃないか。 いつまで彼女を避けてるつもり?」 「別に避けてなんかいないさ。」 「ハーマイオニーの言う通りだと思うよ。 君にはジニーというガールフレンドがいるわけだし 君に止める権利はないよ。」 「・・・・。」 「・・・・。」 「じゃあ、君はいいのかよ。 彼女が他の男のモノになっても。」 「それは彼女が決める事だろ? いくら親友だって、たとえ僕とハーマイオニーが恋人同士だって 束縛はできないじゃないか。 そりゃあね、いい気はしないけどさ。」 「そんなことだからいつまでたっても恋人ができないんだよ。」 「女は彼女だけじゃないさ。 ハリーもジニーと泊まってくれば?」 「っば・・・バカ言うな! ・・・・・あ、でも・・・、それいいかも。」 「へっ?」 「サンキュー、ロン。 君は僕の無二の親友だ!」 そう言うとハリーは何かを思いついたように、 慌てて大広間を飛び出していった。 →
========================================================================== 少し長くなりそうなので(短く出来なかった…とも言う。)、小出しで行きます。 前、後編・・・?はたまた前、中、後編くらいかな? よろしかったらお付き合いくださいませ。 ==========================================================================