ハグリッドが育てた大きなかぼちゃのランタンが、大広間にいくつも浮いている。
今はハロウィンパーティーの真っ最中。
さっきハリーに「トリック・オア・トリート!」と言ったら、忙しそうに又後でね?と
言われ、ハリーからはお菓子を貰えなかった事を思い出す。
なによ・・・。忙しいなんて事あるはずないじゃない。さっきから女の子に囲まれっぱなしだわ。
それをぼんやりと眺めながら、今夜決行しようとしている事に思いを巡らす。
何ヶ月も前から準備をして、計画に穴はないか何度も確認をしたもの。
・・・きっと大丈夫。
うまくいくに決まってるわ。
そう確信すると無意識のうちに顔が綻んでしまう。
瞳はランタンの明かりを映して、怪しく揺らいでいた。
「ト・・トリック・オア・トリート・・・、
って話しかけてもいいかい?ハーマイオニー?」
突然の声にビックリして振り返ると、
ポケットから沢山のお菓子をはみ出させたロンが立っていた。
「なによ。何か用?」
「用って言うか・・・、ハロウィンのパーティーの真っ最中だよ?」
「だから?」
「おいおい、僕にくれるお菓子はないの?」
「あなた、ポケットからはみだしてるじゃない!」
「口は空いてるよ?」
全く16歳にもなって何がお菓子よ・・・。
悪態をつきそうになったけれど、せっかくのパーティーを台無しにするのも
可哀相なので、ロン用に用意してあったクッキーを彼の目の前に差し出した。
「なあんだ、やっぱり用意してくれてあったんじゃないか。
Thank you!」
「ところで・・・、ハリーは・・・?」
私が差し出したカボチャ型のクッキーを嬉しそうに頬張りながら、
ハリーのいるであろう方向を指差す。
そこにはさっき見たままの、女の子に囲まれたハリーが、
嬉しそうな、それでいて困ったような顔をして、
律儀に「トリック・オア・トリート」と言っていた。
顔を真っ赤にして素直に手作りのお菓子を差し出す下級生・・・。
「どんないたずらをしてくれるの?」と色っぽい目つきで迫る7年生・・・。
6年生になって急にもて始めたハリーのそばには、いつも沢山の女の子の群れ。
今日はハロウィンであって、バレンタインじゃないのよ?
それでも女の子たちは、ハリーにお菓子をねだってほしくて仕方がないようだ。
誕生日もバレンタインも・・・、クィディッチで勝ったというだけで、
この光景はもう当たり前になっていたの。
”いっそのこと、閉じ込めてしまいたい・・・・。”
いつからかそんな危険な感情が私を支配していた。
他の女の子から彼を遠ざけてしまえたら・・・。
「ねえ?なんかやばいこと考えてない?」
ロンが私のただならぬ考えを見抜いたのか、恐る恐る声を掛ける。
「ハリーも大変だよな?
本当に好きな子の所へはなかなか辿り着けないなんてさ。」
意味深な目を向けるロンを無視して、私は辛辣にこう言い放った。
「あら?結構嬉しそうじゃない?」
「そうかあ?
僕には早くこっちに来たい様にしか見えないけどなあ・・・。」
その証拠にハリーはさっきからちらちらとこちらを気にして
様子を伺っているようにも見える。
「来る気があればどんな言い訳をしたってこっちに来るわよ。
そうしないのはハリーが楽しんでる証拠だわ。」
やれやれと首を振るロンには気付かずに、私はハリーを思い切り睨んでいた。
「は〜〜っ。やっと開放されたよ。
どうして女の子ってあんなにしつこいんだろう・・・。」
手に沢山のお菓子を抱えて、少し汗ばんだハリーが戻ってきた。
確かに憔悴したような表情といえばそうなのかもしれないけど。
「しつこくて悪かったわね?」
「あ・・・いや・・・。
別に君の事を言ってるわけじゃあ・・・。」
「でも私だって女の子だわ。」
「そうだけど・・・。ねえ、何か機嫌悪くない?」
機嫌悪くない・・・・?って解らないのかしら、この男は。
私がどんな気持ちで、さっきまでの光景を目にしていたのか・・・。
気付いてるわけないか・・・。
わかってたらさっさと切り上げて来るはずよね・・・。
「やきもちだろ?気付けよ、ハリー。」
「え?」
「やきもちなんかじゃないわよ!!ロン!
くだらない事言わないでくれる?」
「・・・あ・・・、そ、そうか・・・。
ごめん、ハーマイオニー。」
「だから!やきもちなんかじゃないって言ってるでしょう!?」
もう!普段は全然無神経で鈍感なくせに、
こんな時ばっかり勘がいいのよ、ロンは。
まあまあと言いながら、ロンがその場の雰囲気を必死で和らげようとしている。
「ハリー。今日はハロウィンだろ?
ハーマイオニーに言うことがあるんじゃない?」
「あ、そうだよ。
ねえ、ハーマイオニー?
トリック・オア・トリート!」
なによ!さっきは私からの問いかけに、忙しそうな振りをして無視したくせに!
「あら、あなたのポケットは他の女の子から貰ったお菓子でいっぱいじゃないの?
今更私から貰う必要ないでしょう?」
「ふ〜ん、そういう事言うんだ。
じゃ、いたずらしていいの?」
「・・・・。」
「早く。僕にもお菓子をちょうだい?」
にこにこと、今までの事なんて無かったかのように手を差し出すハリー。
私はさも仕方が無いというような顔をして・・・、
あきれたような顔を無理やり作って・・・、
ハリー用に用意してあったクッキーを手渡した。
嬉しそうにありがとうと言って受け取るハリー。
他の女の子のお菓子は床の上に放ったまま、一応大事そうに口の中へ放り込む。
「ん。おいしいよ、ハーマイオニー。
ありがとう・・・。」
だけどこの時・・・。
ゆっくりと私に勝ち誇ったような笑顔が広がっていたなんて
この2人はもちろんの事、誰も気付いていなかったの・・・。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
体の自由が利かない気がして、寝苦しさに目が覚めた。
ん・・・?
ここはどこだ?
ふと目を上げると三角の窓が目に飛び込む。
あれ?
ここは寮じゃないぞ?
っていうか・・・、
まだパーティーの喧騒が聞こえる。
そうか、さっきまで僕だってパーティーに出ていた。
それにまだ終わってないじゃないか。
自分の腕時計を確認すると、さっきハーマイオニーからクッキーを
受け取ってから、30分しか経っていなかった。
「ねえ?
ハリーがどこにいるのか知らない?」
自分の耳に聞きなれたジニーの声が聞こえる。
ぼんやりと霞のかかったような頭で、必死にここにいるよ・・・と話してみた。
だけどうまく話せない。声が出ない・・・。
「知らないわ。寮に戻ったんじゃないかしら?」
あ、この声はハーマイオニーだ。
おお〜〜い、ハーマイオニー!
僕はここだよ!
ここ・・・、ここ・・・、ここって・・・?
え?ええ〜〜〜〜っ!?
ちょっと待て。
落ち着け、ハリー・ポッター。
ここって大広間だよね?
ハロウィンパーティーの様子が見えるからそうに決まってるんだけど。
でも僕ははるか高みから、みんなを見下ろすような場所にいた。
いたというか・・・、閉じ込められていたというか・・・。
ここって・・・、かぼちゃのランタンの中じゃないのか・・・?
さっき三角の窓に見えたのは、ランタンの目の部分だ。
明らかに大広間に浮かぶランタンの中の一つに僕は閉じ込められていた。
そしてみんなに気付かれないように、一番高い位置で浮かんでいたんだ。
これは一体・・・・?????
すると下にいたハーマイオニーがふと僕の方に目を向けた。
顔には思いっきりの笑顔を貼り付けて。
「あら、ハリー?
いい所にいるじゃない?
新しいいたずらか何かかしら?」
「冗談言ってる場合じゃないだろ?
ここから下ろしてくれよ!」
「ハロウィンの日にかぼちゃの中に入るなんて経験、そんなにめったにあるもんじゃないわ。
せっかくだから、もう少しそこにいればいいじゃない?」
そして僕は気が付いた。
そうだ。
さっき彼女から貰ったクッキーを食べてからの記憶が全然無い。
そして彼女のあの笑顔・・・。
ハーマイオニーだ。
こんな事が出来るのは、頭のいいハーマイオニーしかいない。
しかもさっき僕は彼女からの問いかけを無視している・・・・。
いたずらされても・・・仕方が無いって事・・・?
「わかった・・・。ハーマイオニー。
さっきの事は謝るよ。
だから、お願いだからここから出してくれよ!」
僕の小さな声で囁く抗議に全く耳を貸さずに、
ハーマイオニーはどんどん歩いていく。
そしてさっきの仕返しとばかりに、男子生徒にだけ声を掛けていく。
「トリック・オア・トリート!
フィネガン?お菓子をくれないといたずらするわよ〜。」
「あ、ハーマイオニーか。
君にならいたずらされてもいいけど、ま、今回はこれをやるよ。」
ばかめ。
ハーマイオニーのいたずらがどんなに怖いか知らないだろう?
こんな事になっちゃうんだよ。
こんな間抜けな姿を見られるのは勘弁してもらいたかったので、
1人心の中で叫んでみる。
「ネビル!トリック・オア・トリート!
お菓子をくれる?それとも私にいたずらされたい?」
「ハーマイオニー!
僕・・・、さっきのでお菓子が終わっちゃったんだよ〜。」
「そう?
じゃあ、いたずらさせて貰うしかないわね〜?」
ハーマイオニーの頭の上を、他の人に気付かれない様に、
ぷかぷか浮かんで後を付いて回る僕の事を目の端に捕らえながら、
彼女はネビルの腕を引っ張って大広間から出て行こうとした。
ちょ・・・ちょっと、どこへ行くつもりなんだ?
「ハーマイオニー?ど・・どこに行くの?」
恐々とネビルが問いかける。
「どこだっていいじゃない?
それともなあに?
私とじゃ不満・・・?」
妖艶な微笑を浮かべてネビルを挑発するハーマイオニー。
君、いつからそんなキャラになったんだ?
僕にだってそんな目を向けてくれる事はないじゃないか?
それとも君が僕を好きだと思っていたのは、僕の勘違いってこと?
居ても立ってもいられず、僕は彼女に向かって全神経を集中させ、
アクシオを唱えていた。
「アクシオ!」
「きゃっ!」
「やあ、ハーマイオニー。
ようこそ、ランタンの中へ・・・。」
「ちょっと!なにするのよ!?」
「君こそいい度胸してるじゃないか?
僕にこんな事をするなんて・・・。」
「あら?さっき私言ったはずよ?
お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ・・・って。」
「で?これが君の考えたいたずらなわけ?」
「そ・・・そうよ?
いけないの?」
「随分高度な魔法が必要だったと思うけど、実は準備してたんじゃないの?」
「・・・・。」
「それに僕にやきもちをやかせようとしてた。」
突然僕に呼び寄せられて、僕の腕の中に納まっているハーマイオニーは
下を向いて何も話をしなくなってしまった。
「ねえ?なんとか言いなよ・・・。」
しばらくすると真っ赤な顔をして僕を睨みつけ、彼女は思い切りまくし立て始めた。
「そうよ。やきもちよ!
なによ、ハリーだってずっと女の子の所に行きっぱなしだったじゃない。
私が見ているのを知っていて、平気で女の子からお菓子を強請られてたじゃない!」
「だって・・・、
そうした方が早く君の所に行けるかと思って・・・。」
「・・・え?」
「だってそうだろ?
早くケリをつけた方が、後はずっと君といられると思ったんだ。
だけど思ったより女の子の数が多くて・・・。」
「なにそれ?自慢してるの?」
「いや・・・、そうじゃないけど・・・。
でも、やっぱりやきもちをやいてたんだね?」
「今日だけじゃないわ。いつもいつもあなたの周りには女の子がたくさん・・・。
鼻の下を伸ばして・・・、嬉しそうな顔をしているわ。」
「大丈夫だよ。僕はいつも君の中に閉じ込められっぱなしだよ?
もっと自信を持ってよ。
君こそ僕にしてみれば、いつどこかの男に持ってかれちゃうか・・・。
閉じ込めておきたいのは僕の方だよ。」
私の方だってあなたに閉じ込められて、がんじがらめなのに・・・。
な〜んにもわかってない。
「でも、とにかく・・・、今は2人きりになれただろ?」
「私のいたずらのお陰じゃない・・・。」
「そうだね。」
そして僕はゆっくりと、僕たちの乗るランタンを更に天井へと移動させた。
「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」
「ほら、ここならみんなから見えないよ?」
「ハリー・・・。」
「パーティーがよく見えるし、二人きりだし・・・、サイコー!」
大広間に浮かぶ、とびきり大きなハグリッドの作ったかぼちゃのランタン。
まるで僕達が乗るために作られたかのように、とっても居心地のいい空間。
みんなに見つからないように、高く高く浮かんでいたはずなのに、
そのランタンは他のどのかぼちゃよりも光り輝いて目立っていたなんて・・・、
次の日散々ロンに冷やかされて、僕達は知る事になった・・・。
END
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