SOMEDAY 〜 番外編 Kiss Me Please 〜
朝起きると、外は真っ白な雪で覆われていた。 いくつになってもこの光景には心が弾む。 急いで着替えると、隣の部屋の扉を勢いよく開ける。 「ハリー、起きて!雪よ、雪!」 息を弾ませ、どんな反応が返ってくるかと 期待しながら、ハリーの反応を待った。 「う〜ん、今、何時?」 「もうっ!6時よ、6時。 それより外を見て? まーっしろだから!」 「今日は休みだろ?もう少し…、寝かせて?」 ちょっと! 期待通りの反応が返ってこなくて、 私は思い切り頬を膨らませた。 そしてハリーの部屋の窓まで歩いて行くと、 カーテンをそっと、音を立てない様に開ける。 後ろを伺うと、まだシーツに包まっているようだ。 笑い出したくなるのを必死で押さえ窓を開けるると、 冷たい空気がスッと室内に流れ込む。 窓の桟に積もる雪を両手ですくうと、 それを丸くボールのように固めて雪玉を二つ作った。 そしてそれを両手で一つずつ持つと… 「ハリー? 早起きしない罰よ。覚悟して?」 そう言ってベッドに寝ているはずのハリーの元へそっと近付くと、 シーツを思い切り剥いだ。 ・・・? あれ?いない? さっきまでそこで寝ていたはずのハリーがいない。 雪玉を持ったままベッドの上まではい上がって、 いるはずのない枕の下まで確認してみた。 すると突然、 「ハーマイオニー、隙あり!」 え? バシャッ。 「キ、キャーッ!!」 物の見事にハリーの投げた雪が、私の顔に命中した。 「ひどいわ、ハリー!不意打ちなんて!」 顔をびっしょりにして抗議の声をあげる。 「何言ってるの? 自分だって僕に不意打ちしようと思ってたくせに! ホラ!ぼんやりしてるともう一発お見舞いするよ?」 そう言って立て続けに雪玉が飛んできた。 もう!容赦しないんだから! 私は手に持ったままの、半分溶けかかった雪玉を ハリーに向けて投げてはみるものの、 あっさりと交わされ一つも当たらない。 更に雪を取ろうと窓際へ行こうとするんだけれど、 ハリーの身体とハリーの投げる雪玉に阻まれて、 ちっともそこへは辿り着けなかった。 「少しは手加減しなさいよ!」 「プロの闇祓いにそれは無理な相談だよ。」 そのうち自分ばかりがビショビショになってくるし、 ベッドのある所から少しも前に進めないわで、 仕方なく降参するしかないようだった。 「わかったわ、ハリー! 私の負けよ。もうビショビショだわ!」 「初めから僕に敵うわけないんだよ? 逆に僕を甘く見た罰として・・・」 え?なに・・・? ハリーはまだ両手に持っていた雪を、 わたしの頬っぺたにピチャっと張り付けると 「は〜っ、冷たかった。 このままハーマイオニーの頬っぺたで暖まろ。」 そう言って冷えた両手で私の頬を包んだ。 私の熱くなる頬と、ハリーの手の温もりで、 あっという間に溶けていく雪が、私の顔から滴り落ちる・・・。 「ん〜〜、ハーマイオニー。 色っぽい。」 少しトーンを抑えたハリーの低い声。 「・・・ば、ばか・・・。」 少しずつハリーの体重が私に圧し掛かる。 やだ、私。 まだベッドの上だわ・・・。 そんな私の心配をよそに、ハリーは片足をベッドの上にあげた。 「ちょっとやり過ぎたかな? 頭から肩までびしょ濡れだ。」 「そ、そうよ。 加減を知らないんだから…。」 至近距離で見つめ合う目と目。 ハリーの手は私の濡れた髪や、頬を優しく撫でている・・。 自分の心臓の音が煩いくらいに聞こえる。 ハリーの碧色の目に自分の映るのが見えた。 も、もうダメ・・・。 「あなたのベッドまで・・・、びしょ濡れよ?」 「・・・濡れているのは・・・、そこだけ・・・?」 やだ・・・、そんなハリーの言葉に体が熱くなる・・。 左ひざをベッドに乗せ、ペタンと座り込んでる私のセーターを さり気なく脱がしていくハリー。 「風邪をひくといけないからね・・・?」 「あ・・あなたも、風邪をひいちゃうわ・・・。」 魔法に掛かったように動くお互いの手。 ハリーの濡れたパジャマのボタンを、 悴んだ手で外していく自分が信じられない。 「今日はクリスマスだから・・・、魔法を掛けようか。」 「・・・・、もう、掛かってるみたい・・・。」 そう言って私は自分からハリーの唇に、チュッとキスをした。 「ホントだ。」 「ハリー? ・・・キス、して・・・?」 この時既に私は、ハリーの体に完全に押し倒されていた。 ハリーは私の唇を、そっと自分の親指で撫でると、 そこへ優しくキスを落とした。 「じゃあ、今日はもう少しだけ・・・。 結婚する前の僕達に戻ろう? たった一回、限られた時間だけ使える タイムターナーを持ってるんだ。」 そう、結婚する前の自分達に戻れたらどんなにいいか・・・、 ここに来てそんな事ばかり考えていた。 別に今の自分の生活に不満があるわけじゃないけれど・・・、 もう一度やり直す事ができたなら、私は何を選んで、 どんな人生を歩んでいただろうか? 少なくとも今よりは笑っていられた? ため息をつく回数は減っていた? 「私があなたと一緒に一番笑っていられた、 4年生の頃に戻りたいわ。」 「え?4年生って・・・、僕達まだ14歳だよ・・・?」 「いいの。 あのドレスを着て、あなたと一緒に躍りたかったんだもの。 でもあなたは違う子の事ばかり・・・。 今なら私にも、ちょっとだけ勇気が出るかもしれないわ・・・。」 「これだけの事をしておいて、いまさら・・・?」 私の手は既にハリーのパジャマのボタンを外し終え、 肩からそれを取り去っていた。 「あの頃の僕じゃ、君だけじゃなくて他の女の子にも こんな事はできないよ・・・。」 ハリーの唇は、限りなく優しくて・・・、 触れるか触れないかの感覚で、私の首筋に移動していた。 「じゃあ・・・、もう少ししてからタイムターナーを回しましょう?」 「うん。そうだね・・。」 「だからもう少しこのままで・・・。」 「・・・うん。」 目をつぶれば、あの頃のハリーが鮮明に思い出される。 ダンスパーティーに女の子を誘えなくて、 見てるこっちがハラハラした不器用なハリーが。 でも今のハリーは違う。 自分から親友の私に対して、男としての感情をぶつけてくる。 そんなハリーだけど、私に触れる手からは以前のように遠慮がちな、 控えめな愛情が伝わってきた。 あの時ずっと待っていたもの。 ずっと欲しかったもの。 大人になってからのクリスマスに、 初めて自分が心から望んでいたプレゼントが届いた。
======== 皆様、Merry X'mas!! 連載の本筋にはあまり関係ないんですが、クリスマスということで 2人にはしっかりプレゼントを贈らせていただきました。 もっと愛し合う(いちゃいちゃする)2人が書きたかったんですが、 このままいくと裏モノになりそうなので、stopかけちゃいました。 でもいつか、単純に愛し合ってる2人が書きたいです。 裏でも素敵な描写を書ける、先輩方を見習って精進いたしますね。 ========