Call

僕を見つめているわけじゃないけれど・・・。 目線はただカメラを見ているだけだと、 同じ仕事をしている僕には分かり切った事だけど・・・。 だけど妖艶に微笑む彼女の瞳には、 いつだって僕だけを映していてもらいたい。 深夜、彼女の載っている雑誌を見ていた。 日に日に大人っぽく綺麗になっていくエマ。 たまらない。 すぐに会いたい。 会って、近くでその声を聞いて細い肩を抱きしめて・・・。 そして僕の名前を呼んでもらうんだ。 近くにはいないけれど、声だけは聞きたい。 僕は迷うことなく彼女に電話をかけた。 ********************************** 「エマ?ごめん・・・、遅い時間に。  もう寝てた?」 「ダン?  どうしたの?なにかあったの?」 「・・・ううん、そうじゃない。」 「どこからなの?」 「自分の部屋だよ。  エマは当然ベッドの中?」 「ええ。  確かあなたと私は3時間ほど前に会っていたと思うんだけど?」 「・・・うん、そうだね。」 「・・・・。」 「いけない?  また声が聞きたくなったんだ。」 「私の・・・?」 「もちろんだよ。君以外に誰がいるのさ。」 寝起きのせいか、エマの声はいつもよりちょっぴりハスキーだ。 「ねえ、僕の名前を呼んでくれる?」 「どうしたの?しばらく会わないうちに  すごく甘えん坊さんになっちゃったのね・・・。」 クスクスと笑いながら、彼女は楽しそうだ。 顔は見えないけれど、僕と話す彼女はいつも笑顔でいてくれる。 「ねえ、呼んで・・・。  いつもみたいに、僕の耳元で囁くように。」 「・・・こう?  ダニエル・・・。」 目を閉じて今の声を頭の中で反芻する。 まるで彼女の吐息が頬にかかるような錯覚をおぼえた。 「ねえ、いったいどうしちゃったの?」 「・・・え?  べつにいいじゃないか。  男だって人恋しくなる夜があるんだよ。  ねえ、もう1回呼んでよ。  今度はダンって言って・・・。」 「ダン・・・。」 「ちょっと早いよ。  僕がいいよって言ってから。」 「もう、わがままなんだから。」 「・・・はい、いいよ。」 僕は彼女の声が心に染み入る様に目を閉じた。 「・・・ダン・・・」 「エマ・・・」 「ダン・・・、  これからそっちに行ってもいい?」 「・・・うん。」 「ドアを開けて待ってて。」 「すぐ来てよ?  そのままの格好で・・・。」 「このままの格好で?」 「そう。  来たら何してくれる?」 「直にあなたの耳元で名前を呼んであげるわ。  そして私の名前も呼んでもらうの。」 「うん・・・、  じゃあ、それから?」 「それから・・・、優しく抱きしめてあげる・・。」 「最高。  やっぱり薄手のパジャマに着替えてきてよ。」 「ばか。」 「ねえ、・・・・それから?  抱きしめてくれた後は?」 「あなたはせっかく来た私に何もしてくれないの?」 「え〜、人恋しくて寂しくてたまんないのは僕の方だよ。」 「意地悪ね。  じゃあ、今回はそこまで。  優しく抱きしめた後は、すぐに自分の部屋にもどるわ。」 「わかったよ。じゃあ僕も君がしてくれたことを全部してあげる。」 「全部?」 「そう、全部だよ。」 「じゃあキスもしてあげるわ。」 「・・・それから・・・?」 「・・・え?」 「それから?」 「・・・・」 「アハハ・・・、冗談だよ。」 「・・・でも、  私がしたことは全部してくれるのよね?」 「・・・ああ、そうだよ。」 そして唐突に電話は切れた。 僕も受話器を置くと、急いで部屋のドアを開けた。 重い鉄製のホテルのドアを、なるべく音をたてないように。 隣のルパートが起きないように細心の注意をはらって。 廊下を覗き込むと、一つ部屋を挟んだ向こう側から エマが小走りで駆けてくる。 本当に電話で言っていたように、薄手のパジャマ一枚で 上に何もはおらずに裸足のままだ。 僕はそんな彼女に手を差し出した。 「そこの彼女、そんなに急いでどこに行くの?」 彼女の腕を自分の方へ引き寄せる。 僕の胸に飛び込みながら彼女は、 「寂しがり屋の恋人の所へ・・・。  早くしないと二人ともどうにかなっちゃうの・・・。」 そう言って微笑むエマを、再び大きな音を立てないよう気遣いながら そっと自分の部屋へ招き入れた。                      E N D  


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書いたのは確かGoFのDVDが出た頃だったかな。
例の顎乗せ映像に触発されて、ダンエマのネタばかり浮かんでました。
このお話が出てこなかったのは、ずばり!書き掛けだったからでした〜。

女の子から会いたいって言うシチュエーションは多いけど、
これがダンからだったら面白いなあ・・・と。
ちょっぴり情けない男になってしまいましたが、
これも彼の策略ということで・・・。

自宅が離れていてなかなか会えないと思いきや、
実はロケ先のホテルでのひとコマだったよーというお話でした。
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