Happy Halloween

突然に目が覚めた。 別に怖い夢を見たわけでもなく、大きな音に驚いたわけでもない。 深い眠りの底から突然覚醒したその事実に驚いていた。 時計を見ればまだ夜中の2時。 月夜のせいか部屋の中はぼんやりと明るかった。 「ハリー・・・?」 僕が突然目覚めたことが、なぜ彼女にわかったのか・・・。 隣で眠っていた彼女が、小さく僕に囁いた。 「どうしたの?  嫌な夢でも見た?」 そう言って、柔らくて優しい手を僕の額にそっと置く・・・。 その手の上に自分の手を重ねながら、 「ううん。大丈夫。  何故だか急に目が覚めたんだ。  ごめん、起こしちゃった?」 にっこり笑って首を横に振る彼女を見つめた。 すると彼女はそのまま僕の首に腕を絡ませ、自分の頭を僕の胸の上に置いた。 「今日はもうハロウィンね?」 「うん・・・。ここに来て7回目のハロウィンか・・・。  僕、ここに来るまでハロウィンって何をするのか知らなかったよ。」 「・・・・。」 「あ、ごめんね?  気にしないで。  そんなに悲観してるわけじゃないからさ。」 悲しそうな顔を見たくなくて、僕は慌てて付け加えた。 「子供の頃なら、沢山のお菓子もパーティーも楽しいんだろうけれど、  今となってはそんなにはしゃげるものじゃないよね?」 「あら。ロンやハグリッドなんて大はしゃぎじゃない?  ハリーは楽しくないの?」 「・・・楽しいよ。君は?」 「ハロウィンのパーティーは好きよ。  でも、この日は・・・。」 「うん・・・。」 お互い理由を言わなくてもわかっていた。 そう、今日は僕の両親の亡くなった日だ。 記憶にほとんどない両親を偲ぶというのは不思議な感覚だったけれど、 ここに来て両親の色んな記憶に触れることが出来たせいか、 朧気ではあるけれど、僕には段々両親を身近に感じることが出来るようになっていた。 両親が亡くなったのがこのハロウィンの日だと知ったのも、ここに来てからだ。 「あなたのご両親が・・・、自分たちを思い出してほしくて、  あなたを目覚めさせたのかもしれないわよ?」 いつもよりトーンを落とした彼女の声が心に染み渡っていく。 「じゃあ、君も僕の両親に起こされたってことだよね?」 「ふふ・・・、そうね。  私も自然と目が覚めちゃったわ。」 「ハーマイオニー・・・?」 「ん?」 「・・・・ありがとう・・・。」 「何言ってるのよ。」 恥ずかしそうに僕から目を逸らして、自分のシーツに潜り込む彼女。 僕はクスッと笑った。 「ねえ?」 「なあに?」 声を掛けるとシーツの中からくぐもった声で返事をしてくる。 「朝まで話をしようよ。  だからこっちを向いて?」 恥ずかしいのか、シーツを自分の目の下まで下ろして、 目だけで僕を見つめている。 そんな彼女にもう1回微笑むと、僕は彼女の方に身を寄せた。 そして彼女の目を見つめたまま耳元でそっと囁く。 「トリック・オア・トリート・・・。」 「・・・。」 「顔を見せないと、いたずらするぞ?」 そう言いながら彼女が被ったシーツをそっと下にずらしていった。 予想通り顔を真っ赤にした彼女が現れる。 「ねえ、今日もずっと一緒にいてくれるんだろ?」 「パーティーが始まるまでよ・・・。」 「うん。」 「ご両親のお墓へは・・・」 「一緒に。」 「ええ・・・。」 そして又微笑んだ。 1年に1度のハロウィンの日・・・。 僕を見守る両親の、クスッと笑う幸せそうな声が、 僕たちにははっきりと聞こえていたよ・・・。


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キスも、「好き。」という言葉も全く出てこないけれど、
2人の愛し合う、信頼しあう姿が書きたくて・・・。
2人の交わす言葉は本当に少ないですが、お互い何を言いたいのか、
何を感じているのか、手をとるように分かっているんだと思います。
原作でもそういう場面はたくさんありましたよね?

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