NATURAL
撮影の合間、いつものように一緒にいた。 ひとこまひとこま進む撮影の、ほんの僅かな時間でも、 必ず僕達は近付いて視線と言葉を交わしあう。 当たり前の光景。 当たり前の存在。 友達という言葉に寄り掛かって、 今のこの状態を心地よく思っていた。 彼女といると楽しかった。 子供のようにじゃれあい、自分に触れてくる体温も心地よかったし、 こちらからも何の遠慮もなく、彼女に触れていた。 肌を大胆に見せたドレス姿でも、平気で肩や腰に腕を回せたし、 その肌に直接触れる事も平気だったんだ。 そう、ただの友達なんだから・・・。。 「ねぇ、ダン? 今度のプレミアには、白いワンピースで行こうと思うの。」 「そう?じゃ僕は白いネクタイで行こうかなあ。」 「じゃ、決まりね!」 いつからか二人で、公の場に出る時の服装に 少しだけ共通点があるように相談する様になった。 グリーンのスーツを着る時はエマもドレスに必ずグリーンを入れる。 逆にエマのドレスが紺なら、僕はやっぱり紺や黒で。 あ、前にはエマが明るい紺を着ると言っていたので、 思い切って紫のシャツで行った事もあったっけ・・・。 だけどあからさまに揃えたとは分からない様に、 あくまでもさりげなく、自然に統一感が出る様に…。 どちらから言い出したと言うわけでもなかったけれど、 そんな微妙なやりとりを、僕は内心とても楽しんでいた。 でも僕達は恋人同士ではないんだ。 誰から見ても、本当に仲のいい友達。 冷やかされる事はしょっちゅうだけど。 口では否定するものの、決していやではなかったし、 そんなインタビューが続けばどちらともなく電話して、 今日はこんな事を言われたとか、あんな事を言われたと言って、 笑いながら何時間も話していた。 そんなある日の事、僕のエマに対する意識が急変する出来事が起きた。 それはいつもの様にエマと電話で長話しをしていた夜の事だ。 「ねぇ、ダン? 今度のプレミアに、ルパは紺のブレザーで行くんですって。 だから私も紺のドレスを着ようと思うの。 ダンはどうする?」 「え…?あ、あぁ。」 「あぁってなによ? ダンは違う色にする?」 「・・・。 僕だけ違う色のほうが・・・、いいかい?」 「そんな事言ってないじゃない! そういう事じゃなくって・・・、」 「君はいつも、ルパの服装の色も気にしてたのかい?」 「え?今回はたまたまよ?」 へぇ…。 たまたまねぇ。 子供みたいだと笑われるかもしれないけれど、 エマとルパの楽しそうな会話を想像して僕は急に不機嫌になった。 電話を通して聞こえるエマの声が、いつもより遠くに聞こえる。 「何よ。何、不機嫌になってるの?」 「別に。 じゃあ君はルパと合わせて紺を着て行くんだね? 僕は・・・、 まあ、参考までに覚えておくよ。」 「何色を着て行くのか教えてくれないの?」 エマが寂しそうに問い掛ける。 だけどそんな事気付かない振りをして、 「何色だっていいだろ? 君とルパははもう決まってるようだし? 別に三人で色を揃えなくたっていいだろ?」 かなりきつい言い方をしていたと思う。 自分で自分に嫌気がさした。 エマにあたってどうするんだ。 別に決まりがあるわけじゃないのに。 まるでこれじゃあ、やきもちじゃないか・・・。 そう・・・、やきもちだよ。 するとエマが囁くようにこう言った。 「私は三人で紺を着たいの。 で、あなたとはその紺色の服装の他に、 もう一つどこかに共通点を作りたいのよ…。」 エマ…? え・・・?どういう事・・・? 「だっていつも三人バラバラの格好でしょ? だから、いくらあなたとどこかを揃えたってちっともわからないじゃない? でも三人が同じ色の服を着て、その上で私とあなたに共通点があれば、 もっとあなたと近い感じがすると思ったの。 きっとあなたも同じ様に考えてくれてると思ったのに・・・。」 うん・・・、そうだよ。 エマと同じ色や雰囲気でいる事がとっても大事だったんだ。 でもそれは僕が勝手に考えていた事だと思っていた。 公の場で彼女とは、何の抵抗もなく仲良くしていたけれど、 それだけでは物足りないと感じていた僕は、 どこか彼女との繋がりが欲しくて、 子供っぽいとは思ったけれどスーツの色やシャツの色を 少しでも彼女とお揃いになるように頑張っていた。 なのに急にルパとはもう相談済みみたいな事を言われ、 僕と彼女だけのささやかな秘密だと思っていたことが、 ただの僕の独りよがりだったんじゃないかと思ってしまった。 「エマ?」 「・・・。」 「・・・エマ?」 沈黙の中から、彼女が寂しそうに俯く姿が垣間見えた。 「ごめん・・・。 ルパにやきもちやいただけ。 もう二人で決めちゃったのかと思って・・・。」 「ルパに着ていくものについて、相談なんてしたことないわ・・・。 今回は本当に、たまたまルパが話してくれただけよ・・・?」 「・・・うん・・・。 本当にごめん・・・。」 「・・・ダン?」 「ん?」 「・・・・。」 「なんだよ・・・?」 「いつか・・・、 堂々とお揃いの服を着て歩きたいわ。」 「・・・ハリポタじゃいつもお揃いの制服だろ?」 「そうじゃなくて・・・! もう!」 「はははっ!ごめん・・・、わかってるよ?」 「じゃあ、いつか・・・、君と僕の指に お揃いになる物をつけて記者会見に出よう・・・ね?」 そしてプレミア当日。 ものの見事に3人紺色一色だった。 「おや?今回は気が合うねえ・・・。 全員同じ色だ。」 ルパが訳知り顔で言う。 「でも、ちょーっとこれじゃあ地味じゃないか? もっとこう・・・赤い色が欲しいよ。」 赤い・・・色・・・? ・・・・!! そうだ。この手がある・・・。 「ちょっとエマ、こっちに来て?」 「何だよ〜。もう写真撮影始まるぜ?」 何が起こるのか、全て分かっていると言う顔のルパが ニヤニヤした顔で僕を見る。 そしてどこからも死角になる壁際にエマを引っ張って行き、 びっくりした顔の彼女に突然口付けた。 何が起こったのかわからず、呆けた顔をしているエマを再び引きずって 僕らはカメラの前に立つ。 「お?ダン、やるね〜。 丁度いい具合に赤みが差してるよ。 ・・・おい、エマ?大丈夫かい?」 何か言おうとするエマを遮るかのように写真撮影は始まった。 僕が軽く触れるたび、目が合うたびに赤くなるエマ。 これから先、二人の服を選ぶ時には赤い色は必要ないね? だけど・・・、 今夜電話でエマにどんなお叱りを受けるのか・・・。 そう考える僕の顔には青みが差し・・・。 随分と僕達の周りは華やかになっただろうね・・・。 ========
プレミアなどでいつも目にする二人の衣装。 スタイリストさんが選んでいるのか、自分で決めるのかはわかりませんが、 いつも、どことなく似た感じだと思うのは気のせいですか? お揃いにしようと思ってるのは、全くの私の妄想ですが、 何気なくそんな話題の中で「じゃあ、僕は(私は)あれを着よう。」って 考えてるんじゃないかな・・・と思いました。 Art by Joie ========