Healer

ホグワーツでの最後の夏休みに入った。 ロンとハーマイオニーは僕に付き合って、 ダーズリーの家まで着いて来る事になった。 いつもはこの家に帰る事が嫌で嫌で仕方なかったけれど、 今回は2人がいるから随分と気持ちが楽になっていた。 なのに・・・・・・ 「ロン、どういう事だよ?急に来れなくなるなんて!」 「だって仕方ないだろ? 結婚式の準備を手伝えって言うんだから・・・。 でも2日位したらそっちに行くから許してよ。」 2日位って・・・別にいいんだけどさぁ、 問題はロンが来るまで、ハーマイオニーと2人きりで過ごさなきゃいけないって事なんだよ! だってそうだろ? 別にお互い特別な感情を持ってるわけじゃないけれど、 17歳の男女があんな狭いダーズリーの家の僕の部屋で一緒に過ごすなんて・・・ 無理だよ!出来っこない! 大体何ておじさんやおばさんに言い訳すりゃいいんだ? 僕は真剣に悩んだが、当のハーマイオニーは全く気にしてないようだった。 むしろこの状況を楽しんでいるようにも見える。 「ねぇ、ハーマイオニー? 君本当に・・・一人で来るつもり?」 「そうよ?どうして?」 「いや、ロンが来てからじゃダメなの?」 「あら、私一人だと迷惑なの?」 「別にそういうわけじゃないけどさぁ」 「だったらいいじゃない!私は何も問題ないわよ?」 一度決めたらてこでも動かない彼女の性格はよく知っていた。 それに、特に意識するような相手じゃないんだろう。 だから僕は一つだけ条件を出した。 「じゃあさ、ロンが来るまではダーズリー達に気付かれないように、 透明マントを被って生活してくれないかな?」 「どうしてよ?別にいいじゃない!」 「よくないんだよ。君には解らないのさ・・・。 ダドリーやあの夫婦がどんな人なのか。 君だって困るだろ?僕と変な誤解されちゃあ。」 「はいはい、わかったわ。  透明マントを被ればいいのね ?  返って困った事になっても知らないわよ?」 困った事って何だろうとは思ったけれど、とにかくロンが来るまでは 2人でいる事がばれないようにするほうが重要だ。 何だか少し気が重くなってきたよ・・・。 次の日、彼女に透明マントを被せてダーズリーの家の前に立った。 「いいかい?絶対声を出すなよ?  僕がいいって言うまでこれを脱がないで。」 「これじゃなきゃ脱いでいいの?」 「なっ・・・・!?」 「冗談よ。」 全く・・・、何を言い出すんだ? 僕の事からかってるのか? 「ちょっとハーマイオニー?  行くよ。・・・お、おい。返事しろよ。何処にいるの?」 彼女はマントを被っているから、返事をしてくれないと何処にいるのか全く解らない。 何に怒っているのか知らないけれど、とにかくハーマイオニーの機嫌が悪い事だけは十分に気が付いていた。 「おい!ハーマイオニー!何処だよ?」 僕の問い掛けにも何も応えてくれない。 「もう!いい加減にしろよ!  入るからな。ついてきてよ?」 そう言って僕は彼女がいるのかどうかも解らずに家の中へ入って行った。 最初の問題は思ったより早くやってきた。 食事の前にシャワーを浴びろと言われたからだ。 僕は男だから一日や二日、シャワーを浴びなくても平気だけど、 ハーマイオニーはそうはいかない。 どうやって、僕が浴びてる振りをしながら彼女がシャワーを使うかが問題だ。 「どうする?君一人で行くかい?」 「あら、ダメよ。一緒に行きましょう?  私がシャワーを浴びてる時に誰かがこの部屋に来たら変でしょう?」 「僕マントを被ってるよ。」 「じゃあ私はどうやってバスルームまで行くの?」 「じゃあバスルームまで一緒に行って、そしたら僕はここに戻ってくる。」 「もし、バスルームにいる私に誰かが声をかけたらどうなるの?  それにあなたがシャワーを使わなかったら、そんなのすぐバレちゃうわ。」 「じゃあ、どうすればいいのさ。」 「・・・一緒に浴びるしか・・・ないでしょうね?」 「ほ、本気で言ってるの?」 「さあ、あんまりぐずぐずしてると変に思われるわよ。」 「ちょ、ちょっと・・・ハーマイオニー!」 困り果てている僕に突然マントを被せると、 ハーマイオニーはすかさず僕の腕を引っ張った。 「待ってよ!着替え持ってかなきゃ・・・」 「あら、変なところで冷静なのね?」 「うるさいなあ。君は?もう持ったの?」 「あなたが持って行く方が安全かもね。突然入って来られて、  女性の着替えなんかが置いてあったら変だもの。」 「え?じゃあどうするのさ。」 「透明マントがあるでしょ?  さ、行くわよ。」 これはきっと誰かの陰謀に違いない。 おそらくこれを書いてる奴だ。 こんな状況、許されるはずがないんだ。 彼女と一緒にマントを被ってバスルームのドアを開けた。 バスルームに入ると、まず僕が裸になった。 彼女は透明マントの中で着ている物を脱ぎ、僕に続いて入ってきた。 お互い後ろ向きとはいえ、一つのシャワーを二人で使わなくてはならない。 それにいつ、ダドリーとかが入ってくるかわからない。 大して大きくもないバスタブに二人後ろ向きで入るのは、想像以上に大変な作業だ。 それに・・・何ていうか・・・この状況って・・・、 非常にまずいんだけど。 相手はハーマイオニーだ。 妹みたいなもんだ。 だから別に何の問題もないはずなんだ。 だけど・・・、僕の身体はこの状況にすっかり反応している。 彼女がうっかりこっちを見たりしませんように・・・。 だけど、そんな僕の葛藤を知ってか知らずか、彼女は事もなげにこう言った。 「ハリー?背中流してあげるわね?」 あげるわね・・・? あげるわね?じゃなくて、あげましょうか?って聞いてくれよ。 有無も言わさず、突然こっちを向かれても困るんだけど。 「君、この状況解ってる?」 「もちろん解ってるわよ。でもこの状況で何かしようなんて考えられないでしょう?  それともなあに?変な事、考えてるの?」 「んな事、か、考えるわけないだろう!?」 「でしょ?いいじゃない。  こんな機会めったにあるもんじゃないわ。」 滅多にあっちゃ困るよ!と心の中で叫びながら 「ロンに知られたら、僕殺されるよ。」  と、口に出して言った。 「どうして?」 「どうしてって、君ロンの気持ち知ってるんだろう?  だったら僕がロンに半殺しの目にあうわけだってわかるだろ。」 「だったら私もジニーにやられちゃうわね。  それにあなたがやられるのは、ロンだけじゃないかもよ?」 「どういう意味?」 「うふふ・・・、きっと私のパパやママに知られたら、  多分ヴォルデモートにやられる前にあなたはあの世行きよ。」 ハーマイオニーは冗談ともとれない事を囁きながら、 それでも手は僕の背中を撫で続けている。 とてもこの場にそぐわない光景だった。 小さい頃から何度もこの場所では涙を流してきた。 ダドリーに虐められた時も、叔父さんや叔母さんに理不尽な事で叱られた時も・・・、 ここはこの家の中で唯一僕が涙を流せる空間だった。 そんな場所なのに、今ここでは僕の親友の一人が 優しく、優しく僕を癒してくれている。 「ハリー?」 「ん?」 「あなたは来年の今頃、どこに住んでいるのかしらね?」 「何だよ、突然。」 「だって・・・、ここにはもう戻ってこないんでしょう?」 「うん、そのつもりだけど・・・。  でもここにはもう何の未練もないから、すごく気が楽だけどね。」 「だけど・・・  ここはあなたが17年間過ごしてきた場所だわ。    いやな思い出ばかりかもしれないけれど、  それでもここはあなたの命を守ってきた場所よ?  最後くらいいい思い出が残ってもいいじゃない?  私じゃ・・・いい思い出にはならないかもしれないけれど・・・」 「じゃあ・・・僕のために・・・こんな?」 「これがジニーだったら良かったとか思ってるんでしょう?  本当はロンも一緒が良かったんでしょうけど、  私は・・・  ロンもジニーも抜きで・・・あなたに感謝したかったの。  うふふ・・・これじゃ感謝の意味にならないわね?」 「ハーマイオニー・・・・」 彼女の顔は見えなかったけれど、その声の優しさに とっても癒されていく自分を感じた。 「背中をこうして流してもらうのって・・・  僕生まれて初めてだよ・・・。」 「そんなわけないわ。  あなたのママが毎日こうしてあなたを抱いて  優しく洗ってくれてたはずだもの。」 「そうか・・、そうだよね。  でも、”こうして抱いて・・・”って、  ハーマイオニー、僕の事抱いてくれてないじゃないか。」 「贅沢言うんじゃないの!  ヴォルデモートを倒したらそうしてあげるわよ!」 ふざけて言う彼女の顔はきっと真っ赤になっているんだろう。 でも嬉しかった。 彼女の気遣いが・・・。 世界で一番切なかった場所が、彼女のお陰で とてもいい思い出の場所に変わった。 それに僕の記憶にはないけれど、 母さんがこうして僕を優しく洗ってくれていたんだと思うと、 自然と涙があふれてきた。 だけどそれは今までとは違う、幸せを感じる涙だった。 ======== サイト始動初のお話は、やっぱりお風呂ネタ。 いえいえ、いやらしい意味なんてありません。 お風呂って一番自分が無防備になれる場所ですよね? 心も体も無防備になって、ハーの優しさを身に沁みて 感じなさい!という、私からのハリーに対する メッセージなのでした。 ========