Eavesdropping

お昼休みに私はいつもの様に、湖のそばの大きな木のそばで読書をしていた。 今まではいつも3人で、他愛も無い話をしたり冗談で笑いあったり、 ホグワーツに入学してからここは、いつも私達の憩いの場所だった。 ・・・だけど・・・ ハリーがジニーと付き合うようになってからは、 3人でここに来ることがあまりなくなってしまった。 仕方ないけれど、それでもちょっぴり寂しい気持ちがしていた。 「フゥ・・・」 大きなため息を一つついて、そっと目を閉じてみた。 あぁ、気持ちいい・・・。眠っちゃいそうよ・・・。 「ハリー、ハリー!」 突然大きな声が聞こえて、びっくりして目を開けた。 あの声はジニーだわ・・・。 「こっち、こっち!ねぇ早く!あそこの木の下に座りましょう?」 あそこの木って・・・もしかしてこの木? やだ・・・・、私がいることに2人とも気付いてないんだわ・・・。 どうしよう・・・? そんな私の心配をよそに、2人は私の反対側に腰を下ろしてしまった。 し、仕方ないわ・・。私の方が先に来てたんだもの。 読書に集中していればいいのよ。これは不可抗力なんだから・・・。 「ねえ?今度のホグズミート、一緒に行くでしょう?」 「あ?ああ。多分行けると思うよ。」 「どこに行く?私、行きたい所があるの。」 「うん、じゃあ、そこでいいよ。  僕これといって行きたい所があるわけじゃないし・・・。」 まあ、ハリーったら・・・ もう少し気の利いたこと言えないのかしら? 「じゃあ、決まりね!」 「うん、でもどこに行くんだい?」 そうそう、どこに行くのか聞いてあげなくちゃ・・・。 まるで恋人に全く興味がないみたいだもの・・。 「ハーマイオニーの誕生日がもうすぐでしょ?  だから何かプレゼントを・・と思ってるの。」 「ふ〜ん、で何を買うつもりなの?」 「そうねぇ・・・、アクセサリーとか、香水とか・・・  そういう物には全く興味なさそうだし・・・。  本にしようかと思ってるの。」 まあ、失礼しちゃうわ!ジニーったら。 私だって女の子だもの。 アクセサリーに興味がないわけじゃないのに。 「彼女はそういう物に興味がないわけじゃないと思うけど・・・?」 そうよ、ハリー!もっと言ってやって? 「それで、どんな本にするつもり?」 「中世イギリスにおける間違った呪文集」 「あ、それ彼女もう持ってる」 「じゃあ、”世界一簡単に古代ルーン文字が翻訳できる本”」 「残念!それも持ってるよ。」 「・・・じゃ、じゃあ・・・何がいいかしら・・・?」 間違いなくジニーの声が不機嫌になっていく。 馬鹿ね、ハリー。 それにしてもよく私の持っている本を、あんなに把握してるじゃない。 「彼女が今一番欲しいと思ってる本は、あと3ヶ月しないと  本屋には並ばないよ?  アクセサリーでいいじゃないか。僕も一緒に選んであげる。」 「そ、そう?ありがとう・・・。  だけど、詳しいのね?ハーマイオニーの事に・・・。」 「そりゃあね?だてに長く一緒にいたわけじゃないよ。  彼女だって僕のことなら、この位の事は分かってると思うよ。  ・・・それに・・・」 「それに?」 「いや、なんでもない。」 何よ何よ?気になるじゃない! ジニーだって気になるじゃない!? クシュン! 「ジニー、寒いの?くしゃみなんかして。」 「ええ、少し・・・。」 ほらほら、ハリー! ここで名誉挽回しなくちゃ! そっと抱きしめてあげるとか・・・、 ローブの中に入れてあげるとか・・・! 「じゃあ、早く城に戻った方がいいよ。  風邪引いたら大変だよ。」 「あなたは・・・戻らないの?」 「うん、もう少しここにいるよ。  僕は寒くないからね!」 馬鹿だわ、この男は・・・。 一緒に戻りなさいよ・・・。 っていうか、それ普通の事じゃないの? それに2人で行って貰わないと私がここから出られないじゃないの! 「あなたはいつも、ハーマイオニーの話ばかりよね?  彼女の話をしてる時のあなたって、とっても嬉しそうだわ・・・。」 「何言ってるんだよ?今日は君から彼女の話を始めたんだぜ?」 「そうね。・・・じゃハリー、またね。」 ここでよっぽど私は飛び出して、ジニーをお城まで送るようにと 言ってやるつもりだったけれど、 まるで盗み聞きをしていたみたいでばつが悪かったので、 そのまま静かにハリーが立ち去るのを待つことにした。 「で?誕生日には何のアクセサリーが欲しい?」 え?え? 私に話しかけてるの? 「そこにいるんだろう?ハーマイオニー?」 あきらめて私は、下を向きながら姿を見せた。   「盗み聞きをするつもりじゃなかったの・・・。  出るに出られなくなってしまって・・・。」 「いや、いいけど。君の方が先に居たんだ。  邪魔したのは僕達の方だよ。ごめんね?」 「いつから気付いていたの?」 「いつからだろう・・・?  君の匂いっていうか・・・気配がしたんだよね。  すぐわかったよ。あ、ハーマイオニーがいる・・・って。」 「だったら声を掛けてくれれば良かったじゃないの?  そしたらこんな、盗み聞きみたいなことしなくてすんだのに。」 「別に構わないさ。いつもこんな感じだし・・・。  見られて困るようなことは何一つしてないし。  それとも・・・何か期待してたとか・・・?」 「ば、ばかね!そんなわけな・・・くしゅん!」 「寒いの?馬鹿だなあ、こんな薄着で来るからだよ?」 そう言ってハリーは私に自分のローブをそっとかけてくれた。 「馬鹿はあなたの方よ、ハリー。  どうしてジニーがくしゃみをした時に、同じ事をしてあげなかったのよ?」 「え?あ・・・そうか・・・。そうだよね?」 「あなたって・・・本当に・・・」 「・・・偉大な魔法使い・・・?」 あきれるやら、おかしいやら、私達はしばらく2人でクスクス笑っていた。 これじゃ、まるで、私達の方が恋人同士みたいじゃない? そんな不謹慎な事を考えていると・・・、 「これじゃ、まるで、僕達の方が恋人同士みたいだね?」 「もしあなたがジニーに振られる時がきたら、仕方がないから  恋人になってあげてもいいわよ?」 「そう?じゃ、近いうちに僕達は恋人同士になれるかもね。  ジニーにはこんな事してあげたことないし、振られるのは時間の問題だよ。」 そう言うとハリーは、私に掛けてくれたローブの中に自分も入ってきた。 「やっぱり僕も少しだけ寒いや・・・。」 そうして2人、顔を見合わせて笑った。 ホント恋人同士みたい・・・。 この偉大な魔法使いの恋人になるのも悪くないかもね・・・? だって・・・ 3人でここに居る時よりも・・ 1人でここで読書をしている時よりも・・・ こうしてハリーと2人で何も話をしなくても ぴったり寄り添っているだけの事が、 私にとって1番心地いいものだって、気付いちゃったんだもの・・・。 ======== 6巻でハリーが ”湖のそばで2人きりで過ごした、この上ない幸せな時間を回想していた” ってのを読んで、そりゃそうだろう?だっていつもいつもハーの話題ばかり なんだもの!と思ったのが、このお話を作るきっかけでした。 ハリーはそんな事には勿論気付いていないですけどね。 Art by Weasleywin101 ========