LESSON

チョウとのキスシーンを撮り終えた。 前々からいろんなインタビューで、楽しみだ楽しみだと言い続け、 キスシーンなんて何ともない風を装ってきたんだ。 モニターで確認した時も、我ながらいい感じで撮れてるなと思い安心した。 だって僕だって17歳だ。 キスシーンの一つや二つ、普通にやりこなせなけりゃ役者とは言えないだろう? このチョウとのキスシーンは、映画に携わるキャストやスタッフの 1番の関心事だったらしく、何人もの見学者の中で演じなければならなかった。 ネビル役のマシューや、ドラコ役のトム、もちろんルパがいないわけはない。 揚げ句の果てにはこのシーンを1番見せたくないエマまでが見に来ていた。 それでも撮影はスケジュール通りに進んでいく・・・。 僕がインフルエンザにかかってしまった事から、 この撮影は2週間も先延ばしになっていたので、 見学者がいるとかいないとかで我が儘を言ってる場合ではなかった。 とにかく今は無事撮り終えて、控室で着替えをしているところだ。 コンコン 控え室のドアがノックされた。 こんな時このタイミングで僕に用があるって言ったら・・・。 どうせ僕を冷やかすか、からかいにきたんだろう。 おそらくルパだろうと思い、 「なんだよ、君も僕にキスして欲しいのかい?」 と言ってドアを開けた。 「・・・どうやら、ケイティとのキスが相当お気に召したようね・・・?」 「エマッ!?」 そこにはかなり不機嫌な顔をしたエマが腕を組んで立っていた。 「何だよ、君も僕をからかいに来たんじゃないよね?」 「あら、どうして私がそんな事をすると思うの?  でも・・・からかいには来てないけれど・・・  一言言いたいことがあって来たのよ。」 「な、何だよ?  とても素敵なキスシーンだったって  誉めにきてくれたとか・・・?」 「何バカな事言ってるのよ。  あなた、原作は読んでるの?  あれじゃあ、純粋なハリーの様子がちっとも伝わってこないじゃない!?」 「だって・・・監督はOKだしてくれたじゃないか・・・。」 「あ・・あんなしっかり、バッチリのキスなんてしちゃって・・・。  本の中のハリーはもっとドキドキしてたでしょ?  どっちかと言えば、チョウの方からキスしたように書いてあったじゃない!?  あれじゃ、あなたの方からしてるみたいだったわ。  しかもかーなーり、慣れてる様子でね!」 すごい剣幕でまくし立てられていた。 原作と映画に多少の違いがある事は、彼女だってよく理解しているはずなのに、 このシーンだけはどうにも我慢ならないといった感じだった。 ふ〜ん、なるほどね。 そういうことか・・・。 エマはやきもちをやいているんだ。 可愛いとこあるじゃないか? ついつい顔がにやけてしまう。 「何にやけた顔してんのよ!」 「だってさ、あれは・・・  エマとの練習通りにやると、ああなっちゃうんだもん・・・。」 「な、な・・・」 「そうだろ?いつも通りにやっただけだよ?  他のキスなんて知らないんだからどうしようもないよ。    あれでも僕にしてみたら随分控えめにしたつもりなんだけど・・・?  今、くらべてみようか?」 じわじわと近づく僕に、顔を真っ赤にしたエマが、 うわべだけの抵抗を見せようとする。   「わ・・わかったわ、ダン。  もうわかったから・・・。  わたしこれから出番なの。  ・・・だから・・・」 「あ、そうだ。僕今度やる事になってる舞台で、  もうちょっと先までのシーンがあるんだ。    よかったら、又僕の練習に付き合ってくれない?」 「もうちょっと先って・・・?」 「ん?だから・・・今やってみるって言ってるだろ?」 「ちょ、ちょ、ちょっと!ダン!!」 わざと彼女の前で、今さっき着替えたばかりの私服のシャツを脱いでみる。 彼女は凍りついたようにそのなりゆきを見ていた。 おいおい、ここでキャーとか言って飛び出して行ってくれなきゃ困るんだけど・・・。 それともOKって事なのか? いやいや、彼女にはまだ出番がある。 ここでこんな事をしている場合じゃないはずだ。 そんな事を心の中で考えていると、 「おい、君達。何、やばそうな事してんのさ?」 ルパがわざとらしく手で目を覆って話しかけてきた。 「さっきから見てりゃ、こっちまで顔が赤くなるよ・・・。」 「い、いつからそこに?」 「はじめっから。」 だったらもっと早く声をかけろよ・・と思ったが、 ここでルパを怒らせたりしたら、僕達の関係をいつばらされるかわかったもんじゃない。 「今の会話・・・誰にも言うなよ?」 「言わないさ!  最後の映画を撮り終えるまではね。    でもそれが終わったら、君達2人の赤裸々な愛の日々を  本に書かせてもらうよ。  今までの心労に対する報奨だね。」 ルパは僕の脱いだシャツを拾いながら、エマに言った。 「エマ、出番だって監督が呼んでるぜ。  それとも続き・・・済んでからにするかい?」 「もう!!知らないっ!」 僕をからかいに来たはずのエマはしっかりルパにやり込められて スタジオへ戻って行った。 後から聞いた話だけれど、この日のエマはNG連発だったようで・・・。 たかが僕のキスシーンでこんなに動揺するんだから、 やっぱり舞台は見に来ないように釘を刺しておこう。 ======== いや、練習したんじゃないかと思っちゃうほど ダンのキス・・・慣れてるようにみえました・・・。 練習の相手・・彼女しかいないでしょう!? Art by Lizzie ========