Beside you
ビルとフラーの結婚式を終え、僕は隠れ穴でロン達と一緒に過ごしていた。 ホグワーツで過ごしてきた日々とほとんど変わらない平和な毎日だった。 でも、夏が終われば僕は分霊箱を捜す旅に出なくてはならない...。 死を覚悟しなくてはならない旅が一日一日と近づいてくる...。 少しずつだけど、不安が体中を支配していく・・・ 「ハーマイオニー!・・・ハーマイオニー!」 さっきまで目の前で本を読んでいた彼女の姿が見えない。 いらいらして僕は大声で叫んだ。 外を見るとロンがいる。 「おーい、ロン。ハーマイオニー知らない?」 「ハーマイオニーは知らないけど、ジニーならここにいるよ。」 「・・・どこ行ったんだろう?さっきまでここにいたのに・・・」 「誰をさがしてるの?」 急に背後から声が聞こえてびっくりして振り返ると、 そこには探していたハーマイオニーが立っていた。 「ちょっと!どこにいたんだよ? さっきまで僕の目の前で本を読んでいただろう?」 「ど...どうしたのよ?何怒ってるの?」 困った顔をして彼女が聞いてくる。 「べ..別に怒ってなんかいないだろ?」 「じゃあ何イライラしてるの?私に何か用があるの?」 「いいから!ここに座っててよ。急にいなくなったりしないでよ。」 「・・・?」 「お願いだから僕を一人にしないでよ・・・」 普段はこんな事を言わない僕に彼女はひどく驚いたようだったけど、 それでもそっと僕の隣に腰掛けた。 「・・・あら、又私とジニーを喧嘩させるつもり? ジニーが聞いたらすごく嫉妬しちゃうわよ。 でも・・・そうね、ハリー。ごめんなさい。今はちょっと喉が渇いたから・・・ 今度はちゃんと声をかけてからにするわ。」 そう言って優しく微笑んでくれた。 「うん・・・僕のほうこそごめん・・。急にどなったりして・・・」 イライラする気持ちが自分でもわかるように静かになっていった。 次の日の夕食の時、又ハーマイオニーが見当たらない。 夕食は必ず僕の隣か真正面で食べている。 ホグワーツでもそうだった。 よっぽどの喧嘩をしていない限り、いつも近くにいるはずだった。 また、気持ちがイラつく・・・ ハーマイオニーはおばさんの手伝いをしていて、ジニーと一緒に料理を運んでいた。 運び終わるとそのままジニーと一緒に、テーブルの隅に座ってしまった。 だけど、それを見ていた僕と目が合うと優しくにっこり微笑んでくれたんだ。 僕もそれに笑って応えると、少しだけイラついた気持ちが遠ざかっていくのを感じた。 ここで生活するようになってから、僕は夕食の後ジニーとよく散歩に出掛けていた。 別れたとはいっても嫌いで別れたわけじゃなかったし、 それにここは最高のセキュリティーで守られていたから 安心してジニーと二人きりになる事ができた。 いつも他愛も無い話をして、冗談を言い合い、 「あなたなら大丈夫よ!」と勇気付けられ、そしてお休みのキスをした。 二人が座る場所からはいつも隠れ穴のリビングが見える。 ロンが箒の手入れをしている・・・ そしてハーマイオニーはいつも通り本を読んでいる・・・ 少し微笑んでジニーと二人隠れ穴に戻った。 「やあ、ハリー、ジニーとのデートは楽しかったかい?」 ロンのひやかしは毎度のことだ。 「ああ、おかげさまで。まだ寝ないの?」 「うん。もう少しここにいる。」 「そう・・・あれ?ハーマイオニーは? ずっとここにいたじゃないか?」 「あ?あれ?どこ行ったんだろう? 確かにさっきまでここにいたんだけど....って君どうしてわかるんだい? ここにずっとハーマイオニーがいたなんて...。 ジニーとずっと一緒にいたんだろう?」 「え?・・・そうだけど・・・。 あ、ハーマイオニー!どこにいたんだよ?」 「あら、ハリーお帰りなさい。外は寒くなかった?」 「今どこにいたの?」 「え?今?・・・ずっとここにいたわよ。どうして?」 「僕が帰って来た時はいなかったじゃないか!」 「もうすぐハリーが戻ると思って・・・はい、ココアを入れにいってたの。」 ハーマイオニーは僕の手にマグカップを渡しながら言った。 「あ、ありがとう・・・」 「どういたしまして。」 「な〜んかさあ、いつもハーマイオニー、ハーマイオニーって、 どうしちゃったんだい?ハリー」 「べ、別にどうもしやしないよ。ただ・・・」 「ただ・・・?」 「ハーマイオニーが見えないと落ち着かないんだよ。それだけ。」 「ふ〜ん、静かでいいけどねえ。」 「ちょっと!どういう意味よ、ロン!?」 「意味なんてないよ。さて僕は寝るとするかな。ハリー、君も上に上がるかい?」 「あ、うん。ココア飲んだら上に行くよ。」 「そうか。じゃ、あんまり遅くなるなよ。」 そう言ってロンは自分の部屋に上がっていった。 ハーマイオニーと二人きりになった。 不思議と彼女と二人きりになっても僕は落ち着いていられる。 他の女の子と二人きりになるのはすごく苦手だ。 それはジニーとでも言える事なんだ。 始めは気恥ずかしくて、なかなか話が盛り上がらない。 だから散歩の時もほとんど彼女が話している。 「ハリー、大丈夫?最近どうしたの?」 ハーマイオニーがどうしてこんな質問をするのか、僕にははっきりとわかっていた。 いつもハーマイオニーがいないと言っては大騒ぎをして、 やれ、どこにいたんだとか、何してたんだとか 彼女にしてみれば五月蝿い事だったに違いない。 でも・・僕は・・・ 「ねえ、ハーマイオニー?」 「なあに?」 「もしさ、君がロンと結婚しても・・・」 「ちょっと!なにわけわかんないこといってるのよ!?」 「いいから!最後まできいてよ。 いいかい?例えばの話だけど・・・ もし君が他の誰かと結婚するとしても・・・ 戦いが終わるまではいつも近くにいてくれないか?」 「なあに?それプロポーズみたいよ?」 「プロポーズでもいいよ。 でも僕がヴォルデモートと戦って、それが終わるまでは・・・。 君がいてくれなけりゃ多分戦えない。 何もしなくていいんだ。ただ僕の見える範囲にいてもらいたい。 安心するんだよ。それだけなんだ・・・」 「ハリー?私があなただったら多分こう言うわ。 ”そばにいて、抱きしめていて。ずっと愛していて”...って。 そうは言ってくれないの?」 「そんな事言えないよ。 僕はかなりの確立で生きては戻ってこれないと思ってるから・・・」 ハーマイオニーは何か僕に言いたそうだったけれど、ぼくはそれを聞く前に口を開いた。 「でも・・抱きしめていて・・・っていうのは、言ってみようかな?」 するとハーマイオニーは優しく僕を抱きしめてくれた。 いつもの飛び掛るような抱き方じゃなくて、 優しくて温かくて・・・不覚にも涙が出そうだった。 「あなたが不安なことはわかっていた。 当たり前だわ、怖くないはずがないもの。 いいのよ、ハリー。頑張らなくていいの。 例えヴォルデモートを倒せなくてもいいの。 私はあなたが生きていてくれさえすれば、それでいいと思ってるのよ。 それに、私はあなたの負担になるような事はしたくないって思ってる。 あなたの望むことだけをしてあげたいの・・・」 「ありがとう、ハーマイオニー。 やっと僕が本当に聞きたかった言葉が聞けたよ。 わがままだって言われるかもしれないけれど 今は本当にそれだけでいいんだ。 僕の近くにいてくれよ・・」 僕ははっきりと自覚していた。 いつも当たり前だった彼女の存在が、本当は僕にとって一番必要だったという事を。 戦いに挑む事も、魔法省に楯突く事も、スネイプに反発する事も、 そしてジニーと一緒にいる事もいつだって彼女が僕を信じて 受け入れてくれる事がわかっていたから、行動に移すことができたんだ。 それがジニーを思う気持ちとどこが違うのかはよくわからないけれど、 それでも僕が一番必要としているのはハーマイオニーの愛だ。 それがわかっただけでも、僕はなんだかヴォルデモートにも勝てそうな気がしていた。 ======== ハリーにとってのハーマイオニーの存在の理由は、 本当にただ近くにいてくれればいい・・・ それだけだと思うんです。 変に押し付けあう愛情じゃなくて、静かに寄り添うだけの存在。 それがハリーにとって一番必要なものだと・・・。 今はまだそれが当たり前のハリーですが、 戦いに挑む時になって初めて気付くんじゃないかなあ? そんな無自覚な二人の愛を原作では感じてしまいました。 Art by Kalie ========